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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十二話 魔王(7)
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同時に発光し始める杖。
その輝きは先端に集まり、拳ほどの大きさの光球を形成した。
光球は膨張し、瞬く間に頭ほどの大きさに。
しかし球はまだ発射されない。
されど膨らみ続ける光球。
その大きさが上半身を隠すほどになった頃、魔王は目標が緊張と恐怖を抱いたことを感じ取った。
そうだ、この大きさは異常だ。
普通はここまで膨らむ前に勝手に離れてしまう。維持出来ない。
何かが光球を拘束している。
その鎖の正体は間も無く明らかになった。
雷だ。
杖の先端と光球の間にあるわずかな隙間から、電撃魔法特有の炸裂音が鳴り響いている。
そうだ、魔王は炎だけでなく雷まで使える。
そしてこれは、老いによる衰えを補うために編み出した魔王なりの工夫だ。
反動を抑え切れず、両手が震える。
力強い感覚。
「……っ」
が、魔王は唇を噛んだ。
自身の衰えを感じたからだ。
数年前はこれくらい平気だった。もう少し光球を大きくすることも出来た。
しかし今はこれが精一杯。
自分の体は着実に老いに蝕まれている。
だから魔王は、
「くそっ」
悪態をつきながら、魔力を「爆発させた」。
「大量の火の粉」とともに発射。
同時に生じたのは空気を裂いたような爆発音。
そうだ。これはリーザとカルロが使ったものと同じ爆発魔法。
その衝撃力を利用して光球を発射したのだ。
反動に魔王の上半身が大きくのけ反る。
そして放たれたのは散弾。
爆発魔法の衝撃で光球が砕けたのだ。
あえてそうした理由も老いのため。
今の魔王には正確に目標を狙う精度が無いのだ。
だから散弾。今の魔王の攻撃手段はそのほとんどが広い範囲攻撃なのだ。
しかし散弾の数とそれぞれの軌道は運任せ。
ゆえに、分かれた弾のいくつかは発射直後に雪原に着弾してしまった。
「!」
瞬間、魔王は目標の緊張が跳ね上がったのを感じ取った。
原因は着弾によって舞い上がった粉雪。
視界を完全に遮るほどの量。
散弾一つ一つの威力が尋常では無いことが分かる。
目標はその舞い上がった雪の柱を見たと同時に左へ回避行動を取った。
しかしその動きは鈍い。
雪に足を取られているせいだ。
そして、目標は碌に動けぬまま散弾の雨に飲まれた。
「まず一つ」
目標の命がそれで終わったことを感じ取った魔王はそう声を上げた。
言い終えると同時に次の目標に照準を合わせる。
こいつも一発で終わるだろう、魔王にはそんな確信めいたものがあった。
なぜなら、こいつも動けないからだ。
雪原で高速移動する手段を持っていないのだ。
射程と精度だけが優秀な狙撃要因だと思われる。
そして、狙われていることを察したその次なる目標は、咄嗟に近くにあった凍った老木の影に隠れた。
それを見た魔王は、
「無駄だ」
と、声を上げながら次弾を発射した。
放たれた散弾は氷の彫像と化した老木をなぎ倒し、
「――っ!」
背後にいた目標を飲み込んだ。
悲鳴を上げたようであったが、その声は着弾の轟音にかき消され魔王の耳には届かなかった。
その直後、魔王は先と同じように、
「これでふた――」
撃破数を宣言しようとしたが、魔王は途中でその口を閉ざした。
己の体で十字を作るように、杖を横に構える。
そして魔王は水平に構えた杖の両端から防御魔法を展開。
二枚の防御魔法は丸みを帯びながら広がり、合わさって球となった。
隙の無い全方向防御。
その輝く球に敵が放った光弾が次々と炸裂する。
しかしびくともしない。
魔王は光球の中で笑みを浮かべながら、口を開いた。
「無駄だ、無駄。弱すぎる」
そこからでは遠すぎる。貴様らの貧弱な魔力では我に対して有効な攻撃にはならない。
我に傷を負わせたいのであれば、もっと近づいてこなくては。
魔王はその思いを心の手紙として、連中に送った。
しかし攻撃は止む気配を見せなかった。
敵は魔力の枯渇を狙っているようであった。
その考えに対し、魔王はうんざりした様子で口を開いた。
「残念だが、その期待も無駄だ」
その声には忠告を無視された苛立ちが含まれていた。
そして、魔王のその言葉にも嘘は無かった。
確かに、全方位防御状態を長時間維持するのは愚手だ。
しかしそれはあくまで一般論である。
魔王に限っては違う。魔王は例外なのだ。
なぜなら――
「……」
魔王はその理由を言葉では無く、感覚で送った。
腹部が熱を帯びる感覚。
魔力を生む内蔵が活発に動作している感覚だ。
しかし、魔王のそれは普通の人のそれよりも熱く、そして大きい。
なぜか。
単純に、魔王の内蔵が大きいからだ。
何かの病気なのではないか、と魔王自身が不安になったことがあるほどの大きさ。
実際、その考えは正解であった。
この世には体の特定の部位が極端に成長、肥大化する病気が存在する。
魔王もそれである。遺伝子疾患にかかっているのだ。
ゆえに、魔王は魔力の回復が異常に早い。
全方位防御の状態で、消費と回復が五分の状態なのだ。
かといって永久に維持出来るわけではない。魔力を生むために体に蓄えられた栄養を消費しているからだ。
しかし十分すぎるほどの持続時間。
それを魔王は心の声で説明してやった。
「……ちっ」
しかし直後、魔王はまたしても舌を打った。
わざわざ丁寧に教えてやったにもかかわらず、接近してくる気配を見せないからだ。
だから魔王は、
「ならば、痛みとともに学んでもらおうか」
と言いながら、片手を杖から離した。
その輝きは先端に集まり、拳ほどの大きさの光球を形成した。
光球は膨張し、瞬く間に頭ほどの大きさに。
しかし球はまだ発射されない。
されど膨らみ続ける光球。
その大きさが上半身を隠すほどになった頃、魔王は目標が緊張と恐怖を抱いたことを感じ取った。
そうだ、この大きさは異常だ。
普通はここまで膨らむ前に勝手に離れてしまう。維持出来ない。
何かが光球を拘束している。
その鎖の正体は間も無く明らかになった。
雷だ。
杖の先端と光球の間にあるわずかな隙間から、電撃魔法特有の炸裂音が鳴り響いている。
そうだ、魔王は炎だけでなく雷まで使える。
そしてこれは、老いによる衰えを補うために編み出した魔王なりの工夫だ。
反動を抑え切れず、両手が震える。
力強い感覚。
「……っ」
が、魔王は唇を噛んだ。
自身の衰えを感じたからだ。
数年前はこれくらい平気だった。もう少し光球を大きくすることも出来た。
しかし今はこれが精一杯。
自分の体は着実に老いに蝕まれている。
だから魔王は、
「くそっ」
悪態をつきながら、魔力を「爆発させた」。
「大量の火の粉」とともに発射。
同時に生じたのは空気を裂いたような爆発音。
そうだ。これはリーザとカルロが使ったものと同じ爆発魔法。
その衝撃力を利用して光球を発射したのだ。
反動に魔王の上半身が大きくのけ反る。
そして放たれたのは散弾。
爆発魔法の衝撃で光球が砕けたのだ。
あえてそうした理由も老いのため。
今の魔王には正確に目標を狙う精度が無いのだ。
だから散弾。今の魔王の攻撃手段はそのほとんどが広い範囲攻撃なのだ。
しかし散弾の数とそれぞれの軌道は運任せ。
ゆえに、分かれた弾のいくつかは発射直後に雪原に着弾してしまった。
「!」
瞬間、魔王は目標の緊張が跳ね上がったのを感じ取った。
原因は着弾によって舞い上がった粉雪。
視界を完全に遮るほどの量。
散弾一つ一つの威力が尋常では無いことが分かる。
目標はその舞い上がった雪の柱を見たと同時に左へ回避行動を取った。
しかしその動きは鈍い。
雪に足を取られているせいだ。
そして、目標は碌に動けぬまま散弾の雨に飲まれた。
「まず一つ」
目標の命がそれで終わったことを感じ取った魔王はそう声を上げた。
言い終えると同時に次の目標に照準を合わせる。
こいつも一発で終わるだろう、魔王にはそんな確信めいたものがあった。
なぜなら、こいつも動けないからだ。
雪原で高速移動する手段を持っていないのだ。
射程と精度だけが優秀な狙撃要因だと思われる。
そして、狙われていることを察したその次なる目標は、咄嗟に近くにあった凍った老木の影に隠れた。
それを見た魔王は、
「無駄だ」
と、声を上げながら次弾を発射した。
放たれた散弾は氷の彫像と化した老木をなぎ倒し、
「――っ!」
背後にいた目標を飲み込んだ。
悲鳴を上げたようであったが、その声は着弾の轟音にかき消され魔王の耳には届かなかった。
その直後、魔王は先と同じように、
「これでふた――」
撃破数を宣言しようとしたが、魔王は途中でその口を閉ざした。
己の体で十字を作るように、杖を横に構える。
そして魔王は水平に構えた杖の両端から防御魔法を展開。
二枚の防御魔法は丸みを帯びながら広がり、合わさって球となった。
隙の無い全方向防御。
その輝く球に敵が放った光弾が次々と炸裂する。
しかしびくともしない。
魔王は光球の中で笑みを浮かべながら、口を開いた。
「無駄だ、無駄。弱すぎる」
そこからでは遠すぎる。貴様らの貧弱な魔力では我に対して有効な攻撃にはならない。
我に傷を負わせたいのであれば、もっと近づいてこなくては。
魔王はその思いを心の手紙として、連中に送った。
しかし攻撃は止む気配を見せなかった。
敵は魔力の枯渇を狙っているようであった。
その考えに対し、魔王はうんざりした様子で口を開いた。
「残念だが、その期待も無駄だ」
その声には忠告を無視された苛立ちが含まれていた。
そして、魔王のその言葉にも嘘は無かった。
確かに、全方位防御状態を長時間維持するのは愚手だ。
しかしそれはあくまで一般論である。
魔王に限っては違う。魔王は例外なのだ。
なぜなら――
「……」
魔王はその理由を言葉では無く、感覚で送った。
腹部が熱を帯びる感覚。
魔力を生む内蔵が活発に動作している感覚だ。
しかし、魔王のそれは普通の人のそれよりも熱く、そして大きい。
なぜか。
単純に、魔王の内蔵が大きいからだ。
何かの病気なのではないか、と魔王自身が不安になったことがあるほどの大きさ。
実際、その考えは正解であった。
この世には体の特定の部位が極端に成長、肥大化する病気が存在する。
魔王もそれである。遺伝子疾患にかかっているのだ。
ゆえに、魔王は魔力の回復が異常に早い。
全方位防御の状態で、消費と回復が五分の状態なのだ。
かといって永久に維持出来るわけではない。魔力を生むために体に蓄えられた栄養を消費しているからだ。
しかし十分すぎるほどの持続時間。
それを魔王は心の声で説明してやった。
「……ちっ」
しかし直後、魔王はまたしても舌を打った。
わざわざ丁寧に教えてやったにもかかわらず、接近してくる気配を見せないからだ。
だから魔王は、
「ならば、痛みとともに学んでもらおうか」
と言いながら、片手を杖から離した。
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