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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十二話 魔王(6)

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   ◆◆◆

 次の日――

「うむ、良い天気だ」

 青い空を見上げながら魔王は呟いた。
 魔王は「杖」を片手に外を歩いていた。
 天気は珍しい快晴。
 今日晴れることは分かっていた。だから今日を選んだ。
 そして魔王は一人であった。
 孤立しなければならないからだ。

「さて、どこで『やるか』……」

 城から離れながら、魔王は手頃な場所を探していた。
 出来るだけ人気が無いところが良い。
 だから魔王の足は街道から外れ、山の方へと向いた。
 ここから先は碌に除雪されていない。
 ゆえに、魔王の足はすぐに、

「むう、やはり進めんか」

 深い雪に捕まった。
 しかし魔王は動じる事無く、「杖」を足元にかざした。
 先端が赤く輝き、炎が噴出す。
 その赤い蛇は舐めるように雪を溶かし、瞬く間に新たな道を作り出した。

「ちっ」

 が、魔王は舌を打った。
 雪解け水が靴の中に染みたからだ。
 痛いほどに冷たい。
 魔王は少しだけ帰りたくなった。
 が、その足が城の方に向くことは無かった。
 今日を逃すと快晴はしばらく訪れない。
 だから選択肢は一つしか無かった。

「……はあ」

 魔王はため息をつきながら、足を前に出した。
 この鬱憤は『運動』で解消しなければな、などと考えながら。

 魔王はこの国では珍しい炎の使い手であった。
 しかし魔王の力はそれだけでは無い。そしてそれが魔王たる所以の一つである。
「魔王」とはすなわち、「魔法使いの王」なのだから。

   ◆◆◆

 魔王の足は開けた場所で止まった。

「……」

 これ以上進めば山に入ってしまう。
 さすがに登山はやりたくない。
 だから魔王はそこで待つことにした。
 足は深い雪に埋まっている。
 あえて溶かさずにこの場に踏み込んだのだ。

「……ちっ」

 魔王は再び舌を打った。
 足が冷たいからでは無い。
 中々仕掛けて来ない事に苛立ったからだ。
 相手は我を包囲しようとしている。
 しかしその速度が緩慢だ。

(数は……十三か)

 数も期待より少ない。
 そしてその十三人の中に「和の国」の「忍者」はいないようだ。
 彼らの気配は遠くに感じる。
 罠かもしれないと警戒しているようだ。

「はあ……」

 魔王はため息をついた。
 これだけお膳立てしてやって、たったの十三人だからだ。

(……まあ、いい)

 しかし魔王は気を取り直した。
 たった十三人でも、やりたいことはやれるだろうと思ったからだ。

(……ん? 止まったか)

 そして、包囲の輪はある距離から縮まらなくなった。
 狙撃を狙っているのか、それとも単純に緊張しているだけか。
 魔王は相手の心を読もうとはしなかった。
 どうでもよかったからだ。
 さらに、魔王にはこれ以上待つ気も無かった。
 だから、魔王は杖を適当な目標に向けながら、

「よし、始めるか」

 一方的に開始を宣言した。
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