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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十二話 魔王(2)

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   ◆◆◆

 サイラスはその足でケビンのところに向かった。

「ケビン」

 名を呼びながらドアをノックする。
 答えが無い事は分かっていた。
 ここに来る途中ですれ違った担当医にそう聞いたからだ。
 意識はまだ回復していないが、熱は下がったのでもう問題は無いらしい。
 医者は「口では」そう言った。
 しかし、その「心」は、「意識がこんなに長く回復しない原因はよくわからないが――」などと、不吉なことを述べていた。
 だからサイラスは一度様子を見てみようと思ったのだ。

「……」

 そして、サイラスは部屋主の返事が無い事を確認した後、

「入るぞ、ケビン」

 ドアを開けた。

「!?」

 が、サイラスは中に入らなかった。
 入れなかった。
 大量の「虫」が部屋の中を飛び回っていたからだ。
 が、サイラスはすぐにそれが誰の虫であるのかを感じ取った。

「これは、ケビンの……?」

 しかし、サイラスは自分の言葉に疑問符をつけた。
 ケビンのものにしては感覚が妙だからだ。

「……」

 注意深く見回しながら部屋の中に入る。
 全ての虫がこっちを見ている。
 しかし敵意は感じない。
 やはりこれらは全てケビンの虫だ。

(しかし、何か……)

 それでもサイラスは疑問を振り払えなかった。
 ならば調べればいい、そう思ったサイラスは糸を使って虫の一匹を捕らえた。
 手元に引き寄せ、観察する。
 何を目的として作られた虫なのか調べるために、中を覗き込む。
 そうしてようやく、サイラスは違和感の正体に気付いた。

「女……?」

 思わず言葉にしていた。
 ケビンの虫なのに、これは間違い無く「女」だ。

「まさか、この虫は――」

 サイラスは気付いた。
 その虫から感じ取れる気配が、先の戦いで追い詰められたケビンの中から放たれたものと同じであることを。

「……!」

 だから、サイラスはもう一度部屋を見回した。
 全ての虫がケビンを見守っている。
 全てはケビンのためにある。

「……」

 その献身に、サイラスの心は大きく揺れた。
 目頭が熱くなるほどに。

「……っ」

 しかしサイラスは涙をこらえた。
 何か、ひっかかるものがあったからだ。
 しかしこの時のサイラスはそれに気付かなかった。
 感動の方がはるかに強かった。

「……」

 ゆえに、サイラスは気の済むまで、部屋を埋め尽くしている幻想的光景を堪能した。

   ◆◆◆

 雲水とシャロンの戦いから一ヵ月後――

「……」

 魔王は窓から外を眺めていた。
 広がる景色は見渡す限り白一色。
 白は厚みを増し続けている。
 季節は完全に冬になっていた。
 魔王はその冷たい眺めを楽しんでいるわけでは無かった。もうとっくに見飽きている。
 魔王は外に感知の網を張り巡らせながら、ある者を待っていた。

「……ようやく来たか」

 魔王がそう呟いたのとほぼ同時に、部屋のドアがノックされた。

「お呼びでしょうか」

 そして入室してきたのはオレグ。
 が、魔王はオレグを待っていたわけでは無かった。
 ゆえに、直後に放たれた魔王の言葉は非常に簡潔なものであった。

「今から客が来る。お前も同席しろ」
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