283 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十二話 魔王(2)
しおりを挟む
◆◆◆
サイラスはその足でケビンのところに向かった。
「ケビン」
名を呼びながらドアをノックする。
答えが無い事は分かっていた。
ここに来る途中ですれ違った担当医にそう聞いたからだ。
意識はまだ回復していないが、熱は下がったのでもう問題は無いらしい。
医者は「口では」そう言った。
しかし、その「心」は、「意識がこんなに長く回復しない原因はよくわからないが――」などと、不吉なことを述べていた。
だからサイラスは一度様子を見てみようと思ったのだ。
「……」
そして、サイラスは部屋主の返事が無い事を確認した後、
「入るぞ、ケビン」
ドアを開けた。
「!?」
が、サイラスは中に入らなかった。
入れなかった。
大量の「虫」が部屋の中を飛び回っていたからだ。
が、サイラスはすぐにそれが誰の虫であるのかを感じ取った。
「これは、ケビンの……?」
しかし、サイラスは自分の言葉に疑問符をつけた。
ケビンのものにしては感覚が妙だからだ。
「……」
注意深く見回しながら部屋の中に入る。
全ての虫がこっちを見ている。
しかし敵意は感じない。
やはりこれらは全てケビンの虫だ。
(しかし、何か……)
それでもサイラスは疑問を振り払えなかった。
ならば調べればいい、そう思ったサイラスは糸を使って虫の一匹を捕らえた。
手元に引き寄せ、観察する。
何を目的として作られた虫なのか調べるために、中を覗き込む。
そうしてようやく、サイラスは違和感の正体に気付いた。
「女……?」
思わず言葉にしていた。
ケビンの虫なのに、これは間違い無く「女」だ。
「まさか、この虫は――」
サイラスは気付いた。
その虫から感じ取れる気配が、先の戦いで追い詰められたケビンの中から放たれたものと同じであることを。
「……!」
だから、サイラスはもう一度部屋を見回した。
全ての虫がケビンを見守っている。
全てはケビンのためにある。
「……」
その献身に、サイラスの心は大きく揺れた。
目頭が熱くなるほどに。
「……っ」
しかしサイラスは涙をこらえた。
何か、ひっかかるものがあったからだ。
しかしこの時のサイラスはそれに気付かなかった。
感動の方がはるかに強かった。
「……」
ゆえに、サイラスは気の済むまで、部屋を埋め尽くしている幻想的光景を堪能した。
◆◆◆
雲水とシャロンの戦いから一ヵ月後――
「……」
魔王は窓から外を眺めていた。
広がる景色は見渡す限り白一色。
白は厚みを増し続けている。
季節は完全に冬になっていた。
魔王はその冷たい眺めを楽しんでいるわけでは無かった。もうとっくに見飽きている。
魔王は外に感知の網を張り巡らせながら、ある者を待っていた。
「……ようやく来たか」
魔王がそう呟いたのとほぼ同時に、部屋のドアがノックされた。
「お呼びでしょうか」
そして入室してきたのはオレグ。
が、魔王はオレグを待っていたわけでは無かった。
ゆえに、直後に放たれた魔王の言葉は非常に簡潔なものであった。
「今から客が来る。お前も同席しろ」
サイラスはその足でケビンのところに向かった。
「ケビン」
名を呼びながらドアをノックする。
答えが無い事は分かっていた。
ここに来る途中ですれ違った担当医にそう聞いたからだ。
意識はまだ回復していないが、熱は下がったのでもう問題は無いらしい。
医者は「口では」そう言った。
しかし、その「心」は、「意識がこんなに長く回復しない原因はよくわからないが――」などと、不吉なことを述べていた。
だからサイラスは一度様子を見てみようと思ったのだ。
「……」
そして、サイラスは部屋主の返事が無い事を確認した後、
「入るぞ、ケビン」
ドアを開けた。
「!?」
が、サイラスは中に入らなかった。
入れなかった。
大量の「虫」が部屋の中を飛び回っていたからだ。
が、サイラスはすぐにそれが誰の虫であるのかを感じ取った。
「これは、ケビンの……?」
しかし、サイラスは自分の言葉に疑問符をつけた。
ケビンのものにしては感覚が妙だからだ。
「……」
注意深く見回しながら部屋の中に入る。
全ての虫がこっちを見ている。
しかし敵意は感じない。
やはりこれらは全てケビンの虫だ。
(しかし、何か……)
それでもサイラスは疑問を振り払えなかった。
ならば調べればいい、そう思ったサイラスは糸を使って虫の一匹を捕らえた。
手元に引き寄せ、観察する。
何を目的として作られた虫なのか調べるために、中を覗き込む。
そうしてようやく、サイラスは違和感の正体に気付いた。
「女……?」
思わず言葉にしていた。
ケビンの虫なのに、これは間違い無く「女」だ。
「まさか、この虫は――」
サイラスは気付いた。
その虫から感じ取れる気配が、先の戦いで追い詰められたケビンの中から放たれたものと同じであることを。
「……!」
だから、サイラスはもう一度部屋を見回した。
全ての虫がケビンを見守っている。
全てはケビンのためにある。
「……」
その献身に、サイラスの心は大きく揺れた。
目頭が熱くなるほどに。
「……っ」
しかしサイラスは涙をこらえた。
何か、ひっかかるものがあったからだ。
しかしこの時のサイラスはそれに気付かなかった。
感動の方がはるかに強かった。
「……」
ゆえに、サイラスは気の済むまで、部屋を埋め尽くしている幻想的光景を堪能した。
◆◆◆
雲水とシャロンの戦いから一ヵ月後――
「……」
魔王は窓から外を眺めていた。
広がる景色は見渡す限り白一色。
白は厚みを増し続けている。
季節は完全に冬になっていた。
魔王はその冷たい眺めを楽しんでいるわけでは無かった。もうとっくに見飽きている。
魔王は外に感知の網を張り巡らせながら、ある者を待っていた。
「……ようやく来たか」
魔王がそう呟いたのとほぼ同時に、部屋のドアがノックされた。
「お呼びでしょうか」
そして入室してきたのはオレグ。
が、魔王はオレグを待っていたわけでは無かった。
ゆえに、直後に放たれた魔王の言葉は非常に簡潔なものであった。
「今から客が来る。お前も同席しろ」
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる