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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十一話 三つ葉葵の男(6)

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 その推察は正解であったが、シャロンは残念そうな表情を浮かべた。
 その遊びは既にケビンと済ませたからだ。
 このお誘いにはあまり気が乗らない。
 個人的にはもっと水鏡流の技を見せて欲しい。その独特の技で私を魅せてほしい。
 そのために、合気の完成のために時間が必要なのは分かる。が、私はあおずけを食らうのは嫌いなのだ。こういうことは待てない性分なのだ。
 そう、私はつい先ほど経験したせめぎ合いをもっと楽しみたい。味わいたいのだ。
 あれは見事だった。
 私は電撃魔法を使ってあなたを「引き寄せようと」した。電流が発生させる磁場を利用して、あなたの頭蓋に穴を開けようとした。それをあなたは同じ電撃魔法で防御した。私を「押し返した」。宙を舞う羽のようにするりと、私の針から離れようとした。
 その時の電撃魔法の使い方が私とそっくりだった。糸の練り方、編み方の癖が瓜二つだった。だから驚いた。だから気付けた。水鏡流合気がどんな技なのかを。

 良い機会なので電撃魔法について軽く説明しよう。
 電撃魔法は特殊である。そしてその特殊性が使い手の希少性の原因になっている。
 しかし電流が流れる原理とそれに伴う現象自体は我々の世界と変わらない。
 電流とは電子の流れのことだ。少し乱暴な言い方をすれば電子を動かせば電流が流れるということである。そのための力、電子を押す圧力のことを電圧と呼ぶ。
 電子の移動そのものは珍しい現象では無い。しかし我々の五感が認識出来るほどの大移動が自然に起きることはあまり無い。大量の電子を何かに蓄え、放出する準備を整える必要があるだけでは無く、それを受け入れる方も用意しなければならない。
 しかし、電子の大移動を困難にしている理由を考えれば、それは「一方通行にするための準備が難しいから」ということになる。ならば「輪」、「円」の形にすればいい。電子が動きやすいもの、例えば銅などの金属で道を作り、その始点と終点を電圧を生む何か、我々が知る電源と呼ばれるもので繋げばいい。ゆえに我々はこれを「回路」と呼ぶ。

 ここで少しおかしいことに気付いた読者は多いだろう。その通り、サイラスは「線」で扱っている。一方通行の移動をやっているように見える。
 実はそうでは無い。あれは二本の線を束ねたものなのだ。使い手そのものが電源であり、そこから生じた二本の線が相手に接触した時に回路が完成、電流が流れるという仕組みになっている。そして電撃魔法の使い手として次の段階に登れるかどうかの鍵となるのは、この事に気付けるかどうかなのだ。残念ながらサイラスはまだここで立ち止まっている。

 そしてシャロンが使っている移動術は電流が生む磁場、磁力線を利用したものだ。
 電流が流れる経路が「輪」、「円」の形になっていれば、磁力線はその輪をくぐるように形成される。その磁力線の向き、輪をどちらからくぐるのかということは、電流の向きによって決まる。
 磁力線、それを束ねたものを磁束と呼び、それは電流値を高くすると強力になるが、円を螺旋状に巻き重ね、輪の段数を増やすことでも強くすることが出来る。巻線にしているのはこれが理由だ。
 そして、ある二つの磁束の向きが一致している場合、両者は互いに引き合う。逆であれば反発する。シャロンはこの力を利用している。
 しかし、磁力線の影響力は対象となる物質によって異なる。人間は鈍感だ。磁力線だけで人を殺そうと思ったら、相当なエネルギーが必要になる。
 感の良い方は気付いたであろう。その通り、磁力線だけでは人は突き飛ばされたり引き寄せられたりしない。強力な磁石を近づけても人は反応しない。反発しあう磁石の間に手を入れても同様だ。
 シャロンはこの問題を光魔法と組み合わせることで解決した。光魔法は我々の世界で言う軟磁性体の特徴を備えていたからだ。磁性体とは、それ自身が磁石の性質を有する永久磁石のことと、他から磁束を流し込むことで一時的に磁石として振舞えるようになる物質のことを指す。光魔法は後者であり、さらに人間に対して強い影響力を持つという、正にこれ以上のものは無いと呼べる代物だった。
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