Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
260 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十一話 三つ葉葵の男(4)

しおりを挟む
 雲水の瞳に映ったのは赤ではなく紫電。
 耳を打ったのは電撃魔法同士のぶつかりあいで生じた炸裂音と金属音。
 雨は届いていない。全て止められている。
 傘で、防御魔法で防がれたのでは無い。
 受け流されたわけでも無い。
 言葉通り、止められたのだ。
 シャロンが見せたその防御は雲水にとって初めてのものだった。だから驚いた。
 雨を同じ雨で、突きを同じ突きで止めているのだ。
 刀と針の先端が寸分の狂いも無くぶつかり合っている。
 それだけでは無い。感情も止められている。相殺されている。この女は真逆の波を針に込めている。
 まるで意地悪な鏡を相手にしているかのような感覚。
 否。この鏡には一つ違うところがあった。
 表情だ。
 シャロンは笑っていた。
 なぜ笑っているのか。
 その理由をシャロンは心の声で、

“見ぃつけた”

 と、雲水が持つ「刀」に送った。

「!」

 これに雲水は再び目を見開いた。
 シャロンは何を見つけたのか。
 それは雲水の魂。
 雲水は剣に己の魂を宿し、そこから遠隔操作していたのだ。
 ならば、狙いは武器破壊でもいいということになる。
 だから、シャロンはあえてこんな防御を選んだのだ。

(しかし驚いたわね)

 シャロンは笑みと同時に抱いた驚きを敬意に変えて雲水の刀に送った。
 和の国には「剣に身をゆだねよ」という言葉があるらしいが、まさか言葉通りの意味だったとは。
 そして考えてみれば、剣は魂を入れるには悪くない場所だ。
 肉の身よりもはるかに硬く、そして鋼は魂と相性が良い。
 肉の身で作られる魂の養分は、魂への補給は剣を握る手から流し込んでいるのだろう。
 この推測が正解であるならば、狙いは小手、または手首でもいいと考えられる。

(……正解かしら?)

 シャロンは突きの応酬を繰り返しながら、自身の推測を刀にぶつけた。

「……」

 返事は無し。

(答えないのであれば――)

 試せばいい、そう思ったシャロンは腕に、肩に魔力を込めた。
 シャロンの腕が、皮膚の下に描かれている回路が眩く輝く。
 その瞬間から攻防の天秤は大きく傾いた。
 シャロンの針から放たれる光の雨が、その激しさと量を増す。
 迎え撃つ雲水の足が自然と下がる。
 全ては受け流せない。ゆえに間合い外への退避を選択せざるを得ない。
 当然のようにそれを追ってシャロンの足が前に出る。

「っ!」

 詰められる雲水が眉をひそめる。
 単純な速さ比べでは溝を開けられていることが判明した。
 それはつまり、懐に潜り込まれると非常に危険であるということ。
 そして、シャロンの狙いは正にそれであった。

「疾ッ!」

 気勢と共にシャロンが突きを放つ。
 顔面狙いのその一撃を雲水は反りのある刃で受け流そうとした。
 が、直後、

「!?」

 雲水の視界は閃光に包まれた。
 高出力の電撃魔法が生み出した火花のせいだ。
 この瞬間、雲水は、

(来る!)

 ことを察した。
 雲水はシャロンの狙いに気付いていた。
 この目くらましの火花が仕掛けの合図。
 そしてその攻めの型は心を読まずとも分かった。こちらの弱点を突くために上段に意識を向けたのだから、

(下!)

 雲水は刀を下段に向けながら足に力を込めた。
 が、雲水はその力を一気には解放しなかった。
 雲水が選んだ歩法は地を擦りながら進むすり足。
 地を這うように迫る眼下の危機と比べると遅すぎる移動。
 しかし雲水の心に、刀に焦りの色は無い。
 これでいい。これでなくてはならない。むしろこれしかない。大きく跳び退いても結局すぐに捕まる。ならば、ここで交錯するしかない。

「……」

 だから雲水はあの水面と同じように静かに待った。
 雲水の心に乱れは無い。
 しかし変化はあった。
 彼の心に、水鏡に映っている雲が、その形をまざまざと変えた。
 雲水は考えていた。計算していた。
 突きと精神攻撃がシャロンの得意分野であるように、彼にも、雲水にも得意分野があった。
 これがそうだ。そしてそれが彼の心に、水面に雲が映っている理由である。
 間も無く、水面に映る雲がその動きを、変化を止めた。
 それはシャロンが刃の下に潜り込み始めたのと同時であった。
 間に合ってくれたか、雲水がそう思った直後、

「蛇ッ!」

 シャロンが気勢と共にその針を突き出した。
 地を這っていた蛇が飛び掛るように、輝く先端が雲水の顎下目掛けて飛び上がる。
 その瞬間、

(今!)

 雲水の水面に、一滴の雫が落ちた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...