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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十一話 三つ葉葵の男(3)

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 爆発音と共に鍔から火花が散り、白刃が水平に奔る(はしる)。
 予想通りの型、しかし予想以上の速さ。
 だからシャロンは少し焦った。
 だが、情報不足から生じた計算の誤差はそれほど大きなものでは無かった。
 これならば問題無く避けることが出来る、シャロンがそう考えた直後、

「!?」

 シャロンの背に悪寒が走った。
 ある虫が言ったのだ、これはただの斬撃では無いと。
 そしてそれは、同時に三日月が放たれるだけでは無いと。
 ただの三日月では無い。では何だ?
 虫の分析は間に合わない。ならば考えるしかない。

「……!」

 シャロンはすぐに気付いた。思い出した。
 この男が割り込んできた時、何が起きた?
 この男はどうやって割り込んできた?
 屋根から飛び降りてきた、それはわかっている。それだけでは無い。
 あの時、閃光が場を包んだ。
 その光はどのようにして生じたものか。
 それは、

(電撃魔法!)

 その答えが言葉として浮かび上がるよりも早く、シャロンは魔力を込めた両手を胸元に添えた。
 同時に地に向かって頭が垂れるほどに大きく背を反らす。
 天に向かって突き出される女性の象徴。
 その真上を、地に水平に放たれた三日月が掠めていく。
 三日月は糸を纏っていた。帯電していた。紫電を撒き散らしていた。
 その紫電に身を、胸を焼かれぬように、添えた両手から光の幕を展開する。
 ぶつかり合う光の粒子と電子。
 その衝突はわずかに電子のほうが勝った。
 シャロンの胸に電撃特有の衝撃が走る。

「ぐっ!」

 胸元の衣服が千切れ飛び、シャロンの口から苦痛の悲鳴が漏れる。
 しかしその痛みはシャロンの冷静さを揺るがすほどでは無かった。
 即座に両手を地面に叩きつけ、ブリッジの姿勢に。
 直後に地を蹴って逆立ちし、その勢いを利用して後方に倒立回転。
 地面を映していたシャロンの視界が正面に戻る。
 はだけた胸元から外気の冷たさを感じ取る。
 しかしそれをどうにかする余裕も、そのつもりも無い。雲水が追撃に迫ってきている。羞恥心を抱く余裕など無い。
 シャロンの瞳の中で大きくなる雲水の像。
 その踏み込み速度は、瞬く間にシャロンの視界が雲水の像だけで埋まりそうなほどであったが、シャロンの計算速度の速さはそれを遥かに凌駕していた。
 時間が止まったかのような緩慢な世界でシャロンは雲水を観察した。
 そして気付いた。雲水が構えを変えているのを。
 そして予想がついた。次の攻撃が何かを。
 そしてシャロンは思った。

(面白い)

 と。
 それは、その型から繰り出される攻撃は私の得意分野だ。
 ならば、だから、私も同じ攻撃で迎え撃とう。
 そう思ったシャロンは構えを雲水と同じものに変えた。
 その構えはアランと、クラウスが使うものと同じ構え。水鏡流の基本の型。
 雲水とシャロンの像が鏡合せのように重なる。
 その瞬間、シャロンの心に雲水の声が響いた。

“水鏡流、横時雨(よこしぐれ)”

 と。
 それはシャロンの知らない異国の言葉であったが、その言葉が持つ意味も同時に意識に流れ込んできた。
 時雨とは秋の末から冬の初めに降るまばらな雨の事で、横殴りに降る激しいものを横時雨と呼ぶ。
 そして次の瞬間、シャロンの目に映ったものはまさにそれであった。
 横殴りに迫る、光の雨。
 霞んで見えるほどの速度で繰り出される突きの嵐。
 そしてそれだけでは無い。時雨は時に涙を意味する言葉としても使われる。
 全ての突きに感情が込められている。
 クラウスが放った無明剣と同じ、精神汚染攻撃。
 心を悲しみで塗りつぶさんと迫る光の雨だ。
 峻烈(しゅんれつ)で、かつ鮮烈な突きの嵐。
 それは全てシャロンの体に、心に突き刺さるかのように見えたが、

「!?」

 直後、今度は雲水の顔に驚きの色が浮かんだ。
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