Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
258 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十一話 三つ葉葵の男(2)

しおりを挟む
 
   ◆◆◆

「お二人の蜜月のような時間を邪魔したくなかったのだが……すまないな、ここででしゃばるのが最善のように思えた」

 三つ葉葵の男は腰の獲物に手を添えたまま、シャロンに向かってそう言った。
 流暢とは言えぬ、異国人独特の訛りを含んだ口調。
 すまないと言ったが、その口調からは悪気は感じられなかった。むしろ嬉しそう、楽しそうだと、シャロンは感じた。
 黒い面をつけているため表情は窺い知れない。
 が、直後、その面の下には薄笑みが張り付いているという情報が、放った虫から送られてきた。
 既に戦いは、探り合いは始まっている。
 男が放ったと思われる虫も周囲を飛びまわっている。
 それはつまり、この男も魂をそれなりに使える、ということ。
 そして口調と風貌から、この男は「和の国」の者と判断出来る。
「和の国」の剣士は独特の技を使うという。そしてそれは剣捌きにでは無く、心にあるという。
 心、それはつまり、魂を使った技術のことだろう。
 魂に関する独特の技――それは具体的にはどのようなものなのか。

「……」

 ふと浮かんだ疑問に、シャロンは好奇心を抱かなかった。
 魂の扱いなら知り尽くしていると自負しているからだ。
 魂に関する技について、自分が知らぬことなど無い。
 そう思っていた。次の瞬間までは。

「?!」

 それを見たシャロンは驚きの表情を浮かべた。
 シャロンはある虫に男の頭の中を調べさせた。
 当然、男の考えを読むためだ。
 が、その虫から送られてきた情報はたった一つの風景だった。



 シャロンはその風景の中に、自分が立っているような錯覚を覚えた。
 それほどまでに写実的で美しく、しかし幻想的な風景だった。
 まず目を奪われたのは鮮やかすぎるほどに青い空と、雲。
 雲の流れは非現実的に速く、その形を様々に変えている。
 眼前にある、地平線から半分だけ顔を覗かせている太陽が空を照らしている。
 そして眼下一面に広がる鏡がその美しい空を綺麗に映して――
 いや、違う。
 これは、下にあるのは鏡じゃない。
 これは水面だ。
 波一つ無い、一切の揺らぎが無い恐ろしいほどに静かな水面。
 それが水鏡となって空を映しているのだ。
 他には何も無い。
 どこまでも広がる水面と空、そして水平線に輝く太陽。これだけだ。
 言葉や感情、そのようなものは一切存在しない、ただの風景、それだけ。
 この男の心は、意識はどこに?
 もしや、この男はこれ以外に何も考えていないのか?
 シャロンはそう考えたが、

「水鏡流師範代、雲水」

 直後、男が名乗った。
 これにシャロンは再び驚いた。
 思考が走らなかったのだ。言語をつむいだのに脳が活動しなかった。
 この男はどうやって喋った?
 シャロンがその答えを、剣士の秘密を探ろうとした瞬間、小さな金属音が耳に入った。
 刀の鯉口を切った音だ。
 仕掛けて来る、それが言葉としてシャロンの脳裏に浮かんだ瞬間、

「参る」

 雲水と名乗った男は地を蹴った。

「っ!」

 速いっ! という事実を認識するよりも先に、シャロンは後ろに跳んだ。
 速いというのは雲水の踏み込み対しての評価では無い。
 心を読めずともシャロンは初撃を見切っていた。相手の筋肉の動き、魔力の流れから予想がついた。
 そしてその型はシャロンが思った通り、

「斬っ!」

 クラウスが見せた「居合い」であった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

やさぐれ女は救世の勇者様に愛されすぎている

つこさん。
ファンタジー
 幼い頃から傭兵として生きてきたセルマは、ひとつの契約を終えた。  それは世界中に蔓延する、命に関わる『瘴気』の大元を断つという仕事だった。  チームメイトであった美青年・ターヴィは、『瘴気』の『源泉』へ飛び込み、みごとその大役を果たし『救世の勇者』として讃えられている。  セルマはその姿を眺めてから次の土地へと流れて行く……はずだった。 ※全12話、完結済み、毎日3回更新 ※他サイトにも投稿しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

失われた両足

sara
恋愛
前作、失われた右手首のパラレルワールド 一応前作を見てから読みましょう ちなみに恋愛シーンもかなーり微妙に出てきます

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

処理中です...