Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十一話 三つ葉葵の男(2)

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   ◆◆◆

「お二人の蜜月のような時間を邪魔したくなかったのだが……すまないな、ここででしゃばるのが最善のように思えた」

 三つ葉葵の男は腰の獲物に手を添えたまま、シャロンに向かってそう言った。
 流暢とは言えぬ、異国人独特の訛りを含んだ口調。
 すまないと言ったが、その口調からは悪気は感じられなかった。むしろ嬉しそう、楽しそうだと、シャロンは感じた。
 黒い面をつけているため表情は窺い知れない。
 が、直後、その面の下には薄笑みが張り付いているという情報が、放った虫から送られてきた。
 既に戦いは、探り合いは始まっている。
 男が放ったと思われる虫も周囲を飛びまわっている。
 それはつまり、この男も魂をそれなりに使える、ということ。
 そして口調と風貌から、この男は「和の国」の者と判断出来る。
「和の国」の剣士は独特の技を使うという。そしてそれは剣捌きにでは無く、心にあるという。
 心、それはつまり、魂を使った技術のことだろう。
 魂に関する独特の技――それは具体的にはどのようなものなのか。

「……」

 ふと浮かんだ疑問に、シャロンは好奇心を抱かなかった。
 魂の扱いなら知り尽くしていると自負しているからだ。
 魂に関する技について、自分が知らぬことなど無い。
 そう思っていた。次の瞬間までは。

「?!」

 それを見たシャロンは驚きの表情を浮かべた。
 シャロンはある虫に男の頭の中を調べさせた。
 当然、男の考えを読むためだ。
 が、その虫から送られてきた情報はたった一つの風景だった。



 シャロンはその風景の中に、自分が立っているような錯覚を覚えた。
 それほどまでに写実的で美しく、しかし幻想的な風景だった。
 まず目を奪われたのは鮮やかすぎるほどに青い空と、雲。
 雲の流れは非現実的に速く、その形を様々に変えている。
 眼前にある、地平線から半分だけ顔を覗かせている太陽が空を照らしている。
 そして眼下一面に広がる鏡がその美しい空を綺麗に映して――
 いや、違う。
 これは、下にあるのは鏡じゃない。
 これは水面だ。
 波一つ無い、一切の揺らぎが無い恐ろしいほどに静かな水面。
 それが水鏡となって空を映しているのだ。
 他には何も無い。
 どこまでも広がる水面と空、そして水平線に輝く太陽。これだけだ。
 言葉や感情、そのようなものは一切存在しない、ただの風景、それだけ。
 この男の心は、意識はどこに?
 もしや、この男はこれ以外に何も考えていないのか?
 シャロンはそう考えたが、

「水鏡流師範代、雲水」

 直後、男が名乗った。
 これにシャロンは再び驚いた。
 思考が走らなかったのだ。言語をつむいだのに脳が活動しなかった。
 この男はどうやって喋った?
 シャロンがその答えを、剣士の秘密を探ろうとした瞬間、小さな金属音が耳に入った。
 刀の鯉口を切った音だ。
 仕掛けて来る、それが言葉としてシャロンの脳裏に浮かんだ瞬間、

「参る」

 雲水と名乗った男は地を蹴った。

「っ!」

 速いっ! という事実を認識するよりも先に、シャロンは後ろに跳んだ。
 速いというのは雲水の踏み込み対しての評価では無い。
 心を読めずともシャロンは初撃を見切っていた。相手の筋肉の動き、魔力の流れから予想がついた。
 そしてその型はシャロンが思った通り、

「斬っ!」

 クラウスが見せた「居合い」であった。
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