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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十話 稲光る舞台(18)

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 再び放たれる三日月。
 対するシャロンの行動は先と同じ。後方への跳躍。
 下がるシャロンを分裂した三日月が追う。
 距離は瞬く間に縮まり、三日月はシャロンを捉えたが、

「疾っ!」

 シャロンはこれを先と同じように迎撃した。
 直撃に至るものだけを計算して放たれた突きが、紫電が三日月を砕く。
 閃光と共に生まれた雷特有の炸裂音が二人の耳を打つ。
 直後、

「えぃやっ!」

 シャロンの耳にケビンの気勢が割り込む。
 剣から放たれる嫌な雑音と共に。
 その軋みは先よりも大きくなっている。
 これが限界を迎えた時、どうなるかをケビンは知っている。
 しかしそれは今のケビンにはどうでもいいことであった。
 今の自分にはこれしかないからだ。
 魔力のぶつけ合いではかなわない。この女の魔力は精鋭を凌駕している。
 剣でも歯が立たない。剣の修練なんて真面目に積んだことが無い。体術も同じ。
 だから今の自分に出来ることは一つだけ。
 でかい一撃をがむしゃらに振り回すだけだ。
 それに自分が巻き込まれる可能性があるとしても。
 それでもこれしかない。これしか無かった。
 自分の命そのものを武器にする、それしかこの女に対抗する手段は思いつかなかった。
 クラウス殿が今の自分を見たらどう思うだろうか。共感してくれるだろうか。

「ぜぇやっ!」

 そんなことを考えながら、ケビンは後ろに、時に右に左に逃げるシャロンを追い続けた。

「……」

 その様を、サイラスは少し呆けた表情で見ていたが、

「ケビン……!」

 ぽつりと、サイラスは彼の名を口にした。
 この時初めて、サイラスはケビンに対して敬意の念を抱いていた。
 しかし次の瞬間、

「!」

 サイラスの顔は驚きに染まった。
 その瞳に映りこんだ赤色がその目を見開かせた。
 蛇口の位置はケビンの太もも。
 しかし、サイラスはすぐに目から驚きの色を消した。
 浅いからだ。
 射程ぎりぎりのところから当てただけに見える。

「……」

 が、サイラスの心は静かにはならなかった。
 驚きにかわってサイラスの心を埋めたのは疑問。
 その疑問は言葉になるよりも早く推測に変わり、そして恐怖となった。
 その推測は、今の一撃は「試し」だったのではないかということ。
 そしてこの考えが正解であるならば、この後の展開は――

「ケビン!」

 考えながら、サイラスは再び彼の名を口にしていた。
 自分の考えを、推測を覆してくれと、願いながら。
 その願いをサイラスはケビンに送らなかったが、シャロンは感じ取った。
 そして、シャロンもまたサイラスにその答えを返さなかった。
 サイラスもシャロンも、相手をただ不安にさせるだけだと分かっていたからだ。
 しかし、

「っ!」

 サイラスの顔は歪んだ。
 その瞳に再び映りこんだ赤色がその顔を歪ませた。
 今度の蛇口は右腕と右肩の二つ。
 しかも先ほどよりも穴が深い。
 この瞬間、サイラスは理解してしまった。自分の推測が正解であることを。
 そしてシャロンはその歪んだ顔に声なき声を送らなかった。
 送る必要が無かった。
 サイラスの推測は完全に正解である。
 ケビンの狙いは、要はただの「事故狙い」。
 自身もどうなるか理解していない大きな攻撃を博打感覚で振り回しているだけ。
 ならば、事故になる要素を消してしまえばいい。
 探り、そして理解すればいい。彼の光魔法の質、鋼との相性、鋼の質、そして彼自身の癖、その全てを調べればいい。どんなに複雑な攻撃でも、計算出来れば事故の確率は減る。
 最初の一合でそのために必要な虫は取り付けた。
 精度はまだ低いが、彼の剣質は大体読めた。だから「試した」。
 彼にとっては博打だろうが、私にとってはこれは数字遊びなのだ。
 そして、彼の勝率はどんどん低くなっている。
 ただ一つ哀れなのは、彼自身もそのことに気付き始めていることだ。
 悲しきかな。二人の間にあるこの温度差よ。
 彼は命を賭けているが、私にとっては「ほぼ」安全と言える位置取りをしながら手を出していくだけの作業なのだから。
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