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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十話 稲光る舞台(10)

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(しかし……出来るか?)

 自信は無い。やったことが無いのだから、あるはずが無い。
 だが、

(ええい、ままよ!)

 やるしかない。
 意識を集中させる。
 すると間も無く、糸の隙間から線が伸び出た。
 しかしそれはすぐに切れた。
 粘りのある液体から雫が一滴垂れたかのように、細い糸を残しながらサイラスの体に向かって放たれる。
 それは飛ばしたというよりも落としたように見えるほどの緩やかな速度であったが、狙いは正確であった。
 その雫はサイラスの首筋に落ち、

(よし!)

 女がつけていた虫を叩き払った。
 すると直後、魂を拘束していた糸が緩んだ。
 サイラスのものだけでは無い。他の兵士達の拘束もだ。
 そして同時に声が響いた。

「とりあえずは、合格よ」と。

 言葉が終わると、拘束は完全に解除され、糸は主人の手元に巻き戻り始めた。
 サイラスは糸が引いていく様を見ながら、

「……何が、合格だ」

 先のリーザと同じ感情を抱いていた。
 激しい苛立ちがサイラスの心を熱くしていた。
 拘束された時点で勝負は決まっていたはずだ。真剣勝負ならば魂を砕かれてそれで終わっていた。
 手加減される理由は知らないし、色々教えてくれるのはありがたいが、無性に苛立つ。
 この煮えたぎるような感情はその時から、破壊というものについての話を聞かされ始めた時から抱いていた。
 しかし今まで表に出てこなかった。困惑や恐れの方が強かったからだ。
 だがそのような戦意を削ぐものは今や完全に消えた。
 なぜか。
 その答えをサイラスは叫んだ。

「糸を逃がすな! 捕まえろッ!」

 その声が場に響いた直後、兵士達は巻き戻る糸に向かって魂を伸ばし、逆に絡め取った。

「!」

 直後、シャロンの顔に驚きが浮かんだ。
 対照的に、サイラスの顔には僅かな笑みが。
 サイラスは口尻を釣り上がらせたまま、声を出した。

「言ったはずだ! こっちは全力でいかせてもらうと!」

 声を出しながら、サイラスは心で兵士達に次の行動を示していた。
 そしてサイラスは続けてそれを言葉にした。

「引き千切れッ!」

 その声が発せられたと同時に、シャロンの体が前に傾いた。
 倒れまいと、シャロンが足に力を込める。
 だが、シャロンの足裏は地の上を滑った。
 脚力だけでは足りない。
 だからシャロンは足裏に紫電を纏わせた。
 その次の瞬間、

「?!」

 突如、シャロンはその場に膝をついた。
 踏ん張る力と引きずり込む力が拮抗した直後、糸が千切れたのだ。
 その様子にサイラスは確かな手ごたえを感じたが、すぐには行動を起こさなかった。

(予想通りならば、この後……)

 サイラスは様子を見た。
 すると直後、事態はサイラスが予想した通りになった。
 シャロンが操縦権を理性に返したのだ。
 それを見たサイラスは即座に声を上げた。

「全員反撃しろ!」

 兵士達が防御魔法を解除し、一斉に光弾を放つ。
 今が千載一遇の好機、サイラスはそう考えていた。
 魂を練りこんだ電撃魔法の糸をあれだけ千切ったのだ、魂の総量はかなり削られているはず。
 今のシャロンはかなり弱っていると、サイラスは読んでいた。
 理性に操縦権を返したのがその証拠だ。
 兵士達の光弾がシャロンに迫る。
 これをシャロンは刺突剣で迎え撃った。
 紫電を纏わせた針で光弾を次々と突きつぶす。
 この時、サイラスは見逃さなかった。
 シャロンが後退したのだ。
 退きながらでなければ、距離と時間を稼ぎながらでなければ光弾を受け切れなかった、と考えていいはずだ。
 だからサイラスは再び声を上げた。

「攻撃を続けろ! 休む暇を与えるな! 魂だけで動ける者は前進! 奴を物陰から攻撃しろ!」

 その指示に二つの部隊が移動を開始。
 それぞれ左右に展開し、民家の影に消えた。
 この手も有効なはず。奴の魂は操縦性能だけでなく、感知力も弱まっているはずだ。
 サイラスはそう考えていた。
 そしてその考えは正解であった。
 にもかかわらず、

「……っ」

 サイラスの苛立ちは強まった。
 自身の考えに自信が無いからではない。
 シャロンが再び笑みを浮かべたからだ。
 まだ余裕があるというのか? 

(ならばその余裕ごと叩き潰してやる!)
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