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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十話 稲光る舞台(9)

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 気付いたサイラスは、

「魂を戻せ!」

 と叫んだが、既に手遅れであった。
 天に昇っていた魂は全て網にからまれていた。
 当然、自分の魂もだ。
 自分もリーザのように何かされるのか? そう思ったサイラスは歯を食いしばった。
 が、サイラスが恐れたようなことは起きなかった。
 代わりに声が聞こえた。

「……魂への攻撃は不可能だと思ってた?」

 女の声だ。
 魂に響くその声を、サイラスは懐かしいと感じた。
 声は続いた。

「そう思ってしまうのはしょうがないわね。光魔法も電撃も魂にはほとんど通じないから。もう試したと思うけど、すり抜けちゃうでしょう?」

 声と同時に、映像が流れ込んでくる。
 それは魂に光と電撃が通じない理由。
 そも、破壊とは何か?
 破壊とは物質を、あるものを変形、変化させることだ。原子、分子の繋がりが変化、曲げられ、引き裂かれることだ。それを成すものが力だ。
 我々は様々な破壊現象を見て、感じて知っている。
 では、物体を原子または分子単位に細かく砕く、または変化させる破壊とはどのようなものか。
 これも我々はよく知っている。
 それは熱によって成されるものだ。
 熱によって水が沸騰する様を見たことが無い人はほぼいないだろう。
 温度の増加によって物質が固体から液体へ、そして液体から気体へ変化する、これが熱による破壊。原子、分子単位で物質が変化する破壊だ。
 では魂はどうか。
 魂は固体なのか。
 否。
 ならば液体か。
 それも否。気体でもない。
 魂とはもっと上位のものだ。
 感の良い方は気付いただろう。
 光魔法でも電撃魔法でも、強大なエネルギーであれば魂を変化させることが、破壊することが出来る。
 しかしそれは途方も無いものだ。生身の力で成せるものでは無い。
 だから魂を攻撃するならば同じ状態にあるもの、同じ魂を使うのが手っ取り早い。

「……」

 突然流れ込んできたこの説明に、サイラスは言葉を失った。
 だから気付けなかった。

「……?」

 すぐ隣で気を失いかけているリーザが、ある物に注目していたことを。
 それはとても小さなもの。
 リーザはそれが魂だとすぐに気付いた。
 しかし何かがおかしい。
 弱弱しく、人格の存在を感じない。
 単純な思考能力しか持たない虫のようだ。
 とても小さく、注視していなければすぐに見失ってしまうだろう。
 普段ならば気にも留めない。
 しかしこの小さな魂は自分の体から出てきたように思えるのだ。。
 そしてこれは自分のものでは無い。それははっきりと分かる。
 自分の体にくっついていたのか? 入り込んでいた?

「……?!」

 入り込んでいたという言葉に、リーザは目を見開いた。
 ひらめきのようなものが、怖気と共にリーザの中で湧き上がった。

(入り込んでいたのではなく、取り憑いていたのでは?!)

 瞬間、リーザは察した。

(これはあの女の……!?)

 だからあいつは私の爆発魔法のことを知っていたのだ。この小さな魂は私に取り憑いて情報を盗んでいたのだ!
 魂を切り分けて斥候や偵察を行う、そんなことが本当に出来るのかどうかは知らない。しかしそうとしか思えない!
 悔しい。しかしこんなに小さくては気付けるわけが無い。自分の意識の波に紛れてしまう。サイラスでも注意深く自身の体を検査しなければ難しいだろう。
 自分がこれを見つけられたのは運が良か――

(いや、)

 違うと、リーザは自身の考えを否定した。
 そんな間抜けなことをする相手とは思えない。私の体からわざわざ出て、発見される危険を冒す必要性なんて無いのだから。
 これはわざとだ。あの女は私に気付かせたのだ。

(この女……!)

 苛立たしい。明らかに私達はなめられている。格下として見られている。
 しかし奇妙なのは、楽しむために手加減しているようには見えないこと。
 私達を鍛えようとしているように思える。
 だが、一体なぜそんなことを?
 この女は敵では無いのか?

「……っ」

 リーザの視界が黒く染まり、思考が薄れる。
 それと同時に体が地面に吸い込まれ始める。

「リーザ!」

 だが直後、その肩をサイラスが掴んだ。
 そしてサイラスはもう片方の手を自身の胸に当てた。
 手から波を自身の体内に送り込む。

「!」

 そしてサイラスは見つけた。
 リーザが教えてくれた通りだ。自分も取り憑かれている!
 取り除かなければ。

(しかしどうやって?!)

 疑問の答えはすぐに分かった。
 さきほど教えてもらったばかりだ。

(そうだ、魂を使えば!)

 情報共有と体を操縦するための魂の尾は、線はまだ繋がったままだ。
 これを使えば、サイラスがそう考えた直後、

「ぐっ!?」

 サイラスはリーザと同じようにその場に膝をついた。
 自分の魂を包んでいる糸の締め付けが増したのだ。

「う……ぁっ!」

 自分の魂が砕かれる、そんな恐怖と共に経験したことの無い痛みような感覚が線を通じて脳に伝わってくる。
 しかし糸の締め付けはそれ以上強くならなかった。
 自分をなぶって楽しんでいる?
 そうは思えない。感じない。
 多分、気に食わないのだ。既に繋がっている線を使うという答えが。

(ならば、どうする?)

 別の線を糸の隙間から伸ばすという答えも、きっとお気に召さないだろう。
 なれば、答えは一つ。
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