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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十話 稲光る舞台(6)
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◆◆◆
そしてシャロンの足はある場所で再び止まった。
シャロンの眼前には少し開けた場所があった。
目に付くのは夜に場を照らすためのかがり火台だけだ。
兵士の姿は見えない。
感知を使って探っても近くには誰もいない。
遠方から警戒の線が張られているわけでもない。
「……」
しかしシャロンはその空間の意味を理解していた。
そしてシャロンは、
(素晴らしいわ)
などと笑みを浮かべながら、その空間に踏み込んだ。
すると次の瞬間、少し離れたところから鐘の音が一度だけ鳴った。
そうだ。この無防備な空間は罠だ。
しかし感知の気配は無かった。
相手はどうやってシャロンの存在を認識したのか。
それは至極単純。視線である。
だが、視線には意識が含まれるのが普通。見ているものを全く意識しない、というのはかなり難しい技術だ。ゆえに人は見られるとその気配を感じることが出来る。シャロンでも視線に含まれる意識を完全には殺せない。
その秘密の答えは鏡であった。
鏡を使って視界だけを確保していたのだ。意識は鏡の方に向けられており、脳波は光のように鏡で反射したりはしない。
このように道具を通して視ることで、感知能力者に気取られることなく一方的に相手を察知することができる。能力者を騙す手段というものは意外に多いものなのだ。
そして逆も然り。道具を使っている相手を感知する対抗技術も存在する。が、それは高度なものであり、使い手は限定される。
シャロンはその一人であり、道具を使って視られていることに気付いていた。
そして、だから嬉しかった。目覚めてからたった一ヶ月でこのような手を思いついてくれたことに、シャロンは感謝と敬意のような念を抱いていた。
ゆえにシャロンはその場で待った。この感情をある者に伝えるために。
そしてしばらくしてその者は現れた。
大勢の兵士達を連れて。
兵士達はシャロンを包みこむように左右に広く展開した。
その動きが止まった頃、その者は口を開いた。
「お前がヨハンが言い残した『あの女』だな?」
シャロンの待ち人は、声の主はサイラス。
隣にはリーザの姿。
ラルフの姿は無い。
サイラスはリーザに「影の脅威」について話していた。
しかしラルフには話していない。
サイラスは考えた末、ラルフには話さないことにした。ラルフは表の世界だけ知っていればいいと判断した。
ラルフの感知力はそれほど強くない。ゆえにシャロンのような隠密能力に長ける存在は察知出来ない。話さなければ知る機会は滅多に訪れないだろうと、サイラスは考えたのだ。
そして戦力的な問題はリーザが解決してくれた。サイラスは今のリーザをラルフに匹敵する戦力として見ていた。
そも、ラルフは既にこの街にいない。
教会打倒という当初の目的のために、リリィと共に別の場所に移動している。
妙なことが起きないように護衛という名の監視をつけてはいるが、サイラスがラルフを手元から離したのには理由があった。
直後、サイラスはその理由をシャロンに見せた。
それはシャロンを驚かせるのに十分であった。
(ここまでとは……! これは想像していなかったわね)
サイラスとリーザに上から見下ろされたのだ。
サイラスは既に天に至る術を身に着けていた。
リーザと共感するだけでサイラスはそれをあっさりと成した。
サイラスの魂は理性と本能の要望に素直に答えた。サイラスの魂は腑抜けてはいなかったのだ。
そして腑抜けていない者はサイラスだけではなかった。
サイラスとリーザに続き、何名かの兵士達の魂が天に昇った。
その中にはケビンの魂もある。
なぜ彼らはこうも簡単に天に至れたのか。
彼らには共通点があった。
彼らはいずれも修羅場を何度もくぐりぬけた歴戦の戦士であった。
この大陸では天に至る素質を持つ者は多い。戦いが長期化しているからだ。激戦を何度も経験したこの大陸の戦士に腑抜ける余裕など無いのだ。
しかしここまではシャロンの予想通り。
この街に到着するまでに、シャロンは魂が天に至る気配を何度も感じ取っていたからだ。
シャロンが驚いたのは別のところ。
天に昇った者達の魂が、まだ地上に残っている者達に線を降ろしたことだ。
その線からは魂が収集した情報が送り込まれ、相互に共有されている。
「武神の号令」の魂への応用版だ。
サイラスはこれをまだラルフに見せたくなかった。感じ取られたくなかった。だから距離を置いたのだ。
(本当に素晴らしいわ……)
シャロンはこの短期間にこのような技を編み出したサイラス達に拍手を送ったが、
(でもね……それは今の状況で使っていい技では無いのよ)
同時にサイラス達がやはりまだ未熟であることを知った。
だからそれを教えてあげようと思ったシャロンは、
「じゃあ、始めましょうか」
と、刺突剣を鞘から引き抜いた。
それが開始の合図となった。
そしてシャロンの足はある場所で再び止まった。
シャロンの眼前には少し開けた場所があった。
目に付くのは夜に場を照らすためのかがり火台だけだ。
兵士の姿は見えない。
感知を使って探っても近くには誰もいない。
遠方から警戒の線が張られているわけでもない。
「……」
しかしシャロンはその空間の意味を理解していた。
そしてシャロンは、
(素晴らしいわ)
などと笑みを浮かべながら、その空間に踏み込んだ。
すると次の瞬間、少し離れたところから鐘の音が一度だけ鳴った。
そうだ。この無防備な空間は罠だ。
しかし感知の気配は無かった。
相手はどうやってシャロンの存在を認識したのか。
それは至極単純。視線である。
だが、視線には意識が含まれるのが普通。見ているものを全く意識しない、というのはかなり難しい技術だ。ゆえに人は見られるとその気配を感じることが出来る。シャロンでも視線に含まれる意識を完全には殺せない。
その秘密の答えは鏡であった。
鏡を使って視界だけを確保していたのだ。意識は鏡の方に向けられており、脳波は光のように鏡で反射したりはしない。
このように道具を通して視ることで、感知能力者に気取られることなく一方的に相手を察知することができる。能力者を騙す手段というものは意外に多いものなのだ。
そして逆も然り。道具を使っている相手を感知する対抗技術も存在する。が、それは高度なものであり、使い手は限定される。
シャロンはその一人であり、道具を使って視られていることに気付いていた。
そして、だから嬉しかった。目覚めてからたった一ヶ月でこのような手を思いついてくれたことに、シャロンは感謝と敬意のような念を抱いていた。
ゆえにシャロンはその場で待った。この感情をある者に伝えるために。
そしてしばらくしてその者は現れた。
大勢の兵士達を連れて。
兵士達はシャロンを包みこむように左右に広く展開した。
その動きが止まった頃、その者は口を開いた。
「お前がヨハンが言い残した『あの女』だな?」
シャロンの待ち人は、声の主はサイラス。
隣にはリーザの姿。
ラルフの姿は無い。
サイラスはリーザに「影の脅威」について話していた。
しかしラルフには話していない。
サイラスは考えた末、ラルフには話さないことにした。ラルフは表の世界だけ知っていればいいと判断した。
ラルフの感知力はそれほど強くない。ゆえにシャロンのような隠密能力に長ける存在は察知出来ない。話さなければ知る機会は滅多に訪れないだろうと、サイラスは考えたのだ。
そして戦力的な問題はリーザが解決してくれた。サイラスは今のリーザをラルフに匹敵する戦力として見ていた。
そも、ラルフは既にこの街にいない。
教会打倒という当初の目的のために、リリィと共に別の場所に移動している。
妙なことが起きないように護衛という名の監視をつけてはいるが、サイラスがラルフを手元から離したのには理由があった。
直後、サイラスはその理由をシャロンに見せた。
それはシャロンを驚かせるのに十分であった。
(ここまでとは……! これは想像していなかったわね)
サイラスとリーザに上から見下ろされたのだ。
サイラスは既に天に至る術を身に着けていた。
リーザと共感するだけでサイラスはそれをあっさりと成した。
サイラスの魂は理性と本能の要望に素直に答えた。サイラスの魂は腑抜けてはいなかったのだ。
そして腑抜けていない者はサイラスだけではなかった。
サイラスとリーザに続き、何名かの兵士達の魂が天に昇った。
その中にはケビンの魂もある。
なぜ彼らはこうも簡単に天に至れたのか。
彼らには共通点があった。
彼らはいずれも修羅場を何度もくぐりぬけた歴戦の戦士であった。
この大陸では天に至る素質を持つ者は多い。戦いが長期化しているからだ。激戦を何度も経験したこの大陸の戦士に腑抜ける余裕など無いのだ。
しかしここまではシャロンの予想通り。
この街に到着するまでに、シャロンは魂が天に至る気配を何度も感じ取っていたからだ。
シャロンが驚いたのは別のところ。
天に昇った者達の魂が、まだ地上に残っている者達に線を降ろしたことだ。
その線からは魂が収集した情報が送り込まれ、相互に共有されている。
「武神の号令」の魂への応用版だ。
サイラスはこれをまだラルフに見せたくなかった。感じ取られたくなかった。だから距離を置いたのだ。
(本当に素晴らしいわ……)
シャロンはこの短期間にこのような技を編み出したサイラス達に拍手を送ったが、
(でもね……それは今の状況で使っていい技では無いのよ)
同時にサイラス達がやはりまだ未熟であることを知った。
だからそれを教えてあげようと思ったシャロンは、
「じゃあ、始めましょうか」
と、刺突剣を鞘から引き抜いた。
それが開始の合図となった。
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