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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十九話 二刀一心 三位一体(13)
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◆◆◆
一方その頃――
「……」
アンナは眠れないでいた。
傷が痛むからでは無い。野営用の寝具の心地が悪いせいでも無い。
なぜだか、アンナは焦っていた。
何かしなければならない、何かを始めなければならない――そんな脅迫観念のようなものがアンナの心を支配していた。
「……っ」
アンナはその心に突き動かされるまま、痛む体を引きずって兵舎の外へ出た。
◆◆◆
そしてアンナは当てもなく外を歩いた。
当ては無い、そのはずであったが、足は自然と動いた。
そして野営地から少し離れたある場所で、アンナはそれを遠くに見つけた。
「……」
一目でアンナは心を奪われた。
アンナの瞳に映り込んだのは素振りをするディーノの姿。
それはアンナが知っているディーノの動きでは無かった。
リックの魂が乗り移ったかのような動き。
いや、吸収したと表現したほうが正しい。
あの速さに重さと豪快さを付け加えたような動きだ。
荒っぽい動きであるが闇雲に振り回しているわけでは無い、自然とそれが分かるゆえに、いつまでも見ていたい、そんな芸術性をディーノの動きは備えていた。
自然とアンナの足が前に出る。
もっと近くで見たいと思ったからだ。
しかしその芸術は間も無く終わってしまった。
観客の接近にディーノが気付いたからだ。
そしてディーノはその小さな客に向かって口を開いた。
「どうした? 散歩かい、お嬢様?」
「……」
ディーノの挨拶にアンナは答えなかったが、
「……ディーノ様、……どうして、そんなに速く動けるのですか? その動きはどうやっているのですか?」
尋ねてから、アンナは自分の言動があまりに急で不躾であると気付いた。
が、ディーノはそれを気にせず、
「いいぜ、教えてやるよ」
と、軽く答えた。
これにアンナは意外そうな顔をしたが、ディーノはアンナにならタダで教えてもいいと本気で思っていた。
アンナもこれを使えるようになれば、それほど頼もしいことはないと考えたからだ。
しかしアンナが意外そうな顔を返したため、代わりに何か適当な質問をディーノはすることにした。
「代わりに、俺も一つ教えてほしいことがある。答えてくれるか?」
これにアンナは力強い頷きを返したのだが――
――
問われたアンナは思わず自分の手を見つめた。
少し呆けたような表情で。
なぜ今まで疑問に思わなかったのか、それは、ディーノが尋ねたことは、それに気付けなかった自身が愚かに思えるほどの事実であった。
そして、アンナのその様子から察したディーノは口を開いた。
「……嬢ちゃんにも分からないのか。まあいいさ、俺のこの速さについてはちゃんと教えてやるよ」
これに、アンナは素直に目を輝かせながら礼を言った。
ディーノがアンナにした質問、それはかつてリックが抱いた「魔法使いと無能力者の差」の答えに通ずるものだ。
あの時、リックは「魔力を外に出せるか出せないか」が答えだと考えた。
残念ながらそれは間違いである。少し遠い。
この世界には一つ、当たり前のように行われているおかしなことがある。読者の皆様もうんざりするほど見てきたものだ。
そして、無能力者達の体がそうなっているのは、彼らの遺伝子が、魂が、これこそ最強へ通ずる道であると信じているからだ。
一方その頃――
「……」
アンナは眠れないでいた。
傷が痛むからでは無い。野営用の寝具の心地が悪いせいでも無い。
なぜだか、アンナは焦っていた。
何かしなければならない、何かを始めなければならない――そんな脅迫観念のようなものがアンナの心を支配していた。
「……っ」
アンナはその心に突き動かされるまま、痛む体を引きずって兵舎の外へ出た。
◆◆◆
そしてアンナは当てもなく外を歩いた。
当ては無い、そのはずであったが、足は自然と動いた。
そして野営地から少し離れたある場所で、アンナはそれを遠くに見つけた。
「……」
一目でアンナは心を奪われた。
アンナの瞳に映り込んだのは素振りをするディーノの姿。
それはアンナが知っているディーノの動きでは無かった。
リックの魂が乗り移ったかのような動き。
いや、吸収したと表現したほうが正しい。
あの速さに重さと豪快さを付け加えたような動きだ。
荒っぽい動きであるが闇雲に振り回しているわけでは無い、自然とそれが分かるゆえに、いつまでも見ていたい、そんな芸術性をディーノの動きは備えていた。
自然とアンナの足が前に出る。
もっと近くで見たいと思ったからだ。
しかしその芸術は間も無く終わってしまった。
観客の接近にディーノが気付いたからだ。
そしてディーノはその小さな客に向かって口を開いた。
「どうした? 散歩かい、お嬢様?」
「……」
ディーノの挨拶にアンナは答えなかったが、
「……ディーノ様、……どうして、そんなに速く動けるのですか? その動きはどうやっているのですか?」
尋ねてから、アンナは自分の言動があまりに急で不躾であると気付いた。
が、ディーノはそれを気にせず、
「いいぜ、教えてやるよ」
と、軽く答えた。
これにアンナは意外そうな顔をしたが、ディーノはアンナにならタダで教えてもいいと本気で思っていた。
アンナもこれを使えるようになれば、それほど頼もしいことはないと考えたからだ。
しかしアンナが意外そうな顔を返したため、代わりに何か適当な質問をディーノはすることにした。
「代わりに、俺も一つ教えてほしいことがある。答えてくれるか?」
これにアンナは力強い頷きを返したのだが――
――
問われたアンナは思わず自分の手を見つめた。
少し呆けたような表情で。
なぜ今まで疑問に思わなかったのか、それは、ディーノが尋ねたことは、それに気付けなかった自身が愚かに思えるほどの事実であった。
そして、アンナのその様子から察したディーノは口を開いた。
「……嬢ちゃんにも分からないのか。まあいいさ、俺のこの速さについてはちゃんと教えてやるよ」
これに、アンナは素直に目を輝かせながら礼を言った。
ディーノがアンナにした質問、それはかつてリックが抱いた「魔法使いと無能力者の差」の答えに通ずるものだ。
あの時、リックは「魔力を外に出せるか出せないか」が答えだと考えた。
残念ながらそれは間違いである。少し遠い。
この世界には一つ、当たり前のように行われているおかしなことがある。読者の皆様もうんざりするほど見てきたものだ。
そして、無能力者達の体がそうなっているのは、彼らの遺伝子が、魂が、これこそ最強へ通ずる道であると信じているからだ。
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