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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十九話 二刀一心 三位一体(11)
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◆◆◆
同時刻――
「……」
ある宿屋の一室にて、ラルフ達と同じように手を止めた者がいた。
それはやはりあの女。
しかし女の顔に驚きの色は薄い。
女は戦場で起きていることの正体を見抜いていた。いや、知っていた。
(これは……)
女はそれが自分が使う隠密術と同じものであることをすぐに理解し、同時にそれがおかしいことにも気がついた。
(……発動者は変わらず交戦状態にある。なのに理性と本能の活動を止めた? これでは大して動けないはず。そんなことをしたのは、そうしなければならなかったから?)
女はすぐに事の全てを紐解いた。
そして女は止めていた手を動かしながら呟いた。
「……また仕事が増えるかもしれないわね」
その声色は少しうんざりした様子であった。
リーザが開いた新しい世界は、女にとっては既知のものであった。
そして恐ろしい事に、この新たな神秘を既に技術として体系化している者達がいた。
◆◆◆
遠く離れた白い大陸にて、その神秘について話している者がいた。
「おい、聞いたか? 『狼の一族』の新しい当主が決まったってよ」
語り部は二人の男。
男達は酒場で飲み交わしながら話をしていた。
「喜ばしいことだな。 ……しかし、どうしてあの御方なんだ? 他にもっとふさわしい人がいたと思うが」
これに顔を赤くした男は答えた。
「……これは聞いた話なんだがな、どうやら『あの噂』、本当だったみたいだぞ」
そんなにもったいつけなくてもいい話だろうと、素面の男は思いながら『噂』の内容を確認した。
「『あの噂』っていうのは……『天国への階段を登った』っていうやつか?」
これに赤い男は大きく鋭い頷きを返した。しかも三度も。
そして男はその顔をさらに赤くしながら大きく口を開いた。
「おお神よ! この素晴らしき出来事に感謝します!」
まるで自分のことのように嬉しそうであった。
対照的に、もう一人の男は素面のまま口を開いた。
「……俺にはどうも信じられないな」
この言葉に、赤い男はその目を見開きながら声を上げた。
「なぜ?! こんな素晴らしいことを、どうして素直に祝福出来ない?!」
これに素面の男は、それぐらい言わなくても分かるだろう、といいたげな顔で答えた。
「『理性と本能の力をもって魂を呼び起こせ。三位一体となった時、天国への門は開かれん』、だっけか? それが俺にはどうにも理解出来なくてな」
その弁に赤い男は大げさに肩をすくめながら口を開いた。
「……そういやあ、お前は感知能力に関してはさっぱりだったな。それじゃあ、信じられないのもしょうがないかもな」
「……」
素面の男は何も言わなかったが、代わりに不機嫌そうな顔を返し、手にある酒をあおった。
この大陸では理性と本能と魂の関係は一般人ですら知るところであった。
ゆえにこの大陸では、いや、この世界において「三」という数字は特別な意味を持っていた。
同時刻――
「……」
ある宿屋の一室にて、ラルフ達と同じように手を止めた者がいた。
それはやはりあの女。
しかし女の顔に驚きの色は薄い。
女は戦場で起きていることの正体を見抜いていた。いや、知っていた。
(これは……)
女はそれが自分が使う隠密術と同じものであることをすぐに理解し、同時にそれがおかしいことにも気がついた。
(……発動者は変わらず交戦状態にある。なのに理性と本能の活動を止めた? これでは大して動けないはず。そんなことをしたのは、そうしなければならなかったから?)
女はすぐに事の全てを紐解いた。
そして女は止めていた手を動かしながら呟いた。
「……また仕事が増えるかもしれないわね」
その声色は少しうんざりした様子であった。
リーザが開いた新しい世界は、女にとっては既知のものであった。
そして恐ろしい事に、この新たな神秘を既に技術として体系化している者達がいた。
◆◆◆
遠く離れた白い大陸にて、その神秘について話している者がいた。
「おい、聞いたか? 『狼の一族』の新しい当主が決まったってよ」
語り部は二人の男。
男達は酒場で飲み交わしながら話をしていた。
「喜ばしいことだな。 ……しかし、どうしてあの御方なんだ? 他にもっとふさわしい人がいたと思うが」
これに顔を赤くした男は答えた。
「……これは聞いた話なんだがな、どうやら『あの噂』、本当だったみたいだぞ」
そんなにもったいつけなくてもいい話だろうと、素面の男は思いながら『噂』の内容を確認した。
「『あの噂』っていうのは……『天国への階段を登った』っていうやつか?」
これに赤い男は大きく鋭い頷きを返した。しかも三度も。
そして男はその顔をさらに赤くしながら大きく口を開いた。
「おお神よ! この素晴らしき出来事に感謝します!」
まるで自分のことのように嬉しそうであった。
対照的に、もう一人の男は素面のまま口を開いた。
「……俺にはどうも信じられないな」
この言葉に、赤い男はその目を見開きながら声を上げた。
「なぜ?! こんな素晴らしいことを、どうして素直に祝福出来ない?!」
これに素面の男は、それぐらい言わなくても分かるだろう、といいたげな顔で答えた。
「『理性と本能の力をもって魂を呼び起こせ。三位一体となった時、天国への門は開かれん』、だっけか? それが俺にはどうにも理解出来なくてな」
その弁に赤い男は大げさに肩をすくめながら口を開いた。
「……そういやあ、お前は感知能力に関してはさっぱりだったな。それじゃあ、信じられないのもしょうがないかもな」
「……」
素面の男は何も言わなかったが、代わりに不機嫌そうな顔を返し、手にある酒をあおった。
この大陸では理性と本能と魂の関係は一般人ですら知るところであった。
ゆえにこの大陸では、いや、この世界において「三」という数字は特別な意味を持っていた。
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