Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
230 / 586
第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十九話 二刀一心 三位一体(11)

しおりを挟む
   ◆◆◆

 同時刻――

「……」

 ある宿屋の一室にて、ラルフ達と同じように手を止めた者がいた。
 それはやはりあの女。
 しかし女の顔に驚きの色は薄い。
 女は戦場で起きていることの正体を見抜いていた。いや、知っていた。

(これは……)

 女はそれが自分が使う隠密術と同じものであることをすぐに理解し、同時にそれがおかしいことにも気がついた。

(……発動者は変わらず交戦状態にある。なのに理性と本能の活動を止めた? これでは大して動けないはず。そんなことをしたのは、そうしなければならなかったから?)

 女はすぐに事の全てを紐解いた。
 そして女は止めていた手を動かしながら呟いた。

「……また仕事が増えるかもしれないわね」

 その声色は少しうんざりした様子であった。

 リーザが開いた新しい世界は、女にとっては既知のものであった。
 そして恐ろしい事に、この新たな神秘を既に技術として体系化している者達がいた。

   ◆◆◆

 遠く離れた白い大陸にて、その神秘について話している者がいた。

「おい、聞いたか? 『狼の一族』の新しい当主が決まったってよ」

 語り部は二人の男。
 男達は酒場で飲み交わしながら話をしていた。

「喜ばしいことだな。 ……しかし、どうしてあの御方なんだ? 他にもっとふさわしい人がいたと思うが」

 これに顔を赤くした男は答えた。

「……これは聞いた話なんだがな、どうやら『あの噂』、本当だったみたいだぞ」

 そんなにもったいつけなくてもいい話だろうと、素面の男は思いながら『噂』の内容を確認した。

「『あの噂』っていうのは……『天国への階段を登った』っていうやつか?」

 これに赤い男は大きく鋭い頷きを返した。しかも三度も。
 そして男はその顔をさらに赤くしながら大きく口を開いた。

「おお神よ! この素晴らしき出来事に感謝します!」

 まるで自分のことのように嬉しそうであった。
 対照的に、もう一人の男は素面のまま口を開いた。

「……俺にはどうも信じられないな」

 この言葉に、赤い男はその目を見開きながら声を上げた。

「なぜ?! こんな素晴らしいことを、どうして素直に祝福出来ない?!」

 これに素面の男は、それぐらい言わなくても分かるだろう、といいたげな顔で答えた。

「『理性と本能の力をもって魂を呼び起こせ。三位一体となった時、天国への門は開かれん』、だっけか? それが俺にはどうにも理解出来なくてな」

 その弁に赤い男は大げさに肩をすくめながら口を開いた。

「……そういやあ、お前は感知能力に関してはさっぱりだったな。それじゃあ、信じられないのもしょうがないかもな」
「……」

 素面の男は何も言わなかったが、代わりに不機嫌そうな顔を返し、手にある酒をあおった。

 この大陸では理性と本能と魂の関係は一般人ですら知るところであった。
 ゆえにこの大陸では、いや、この世界において「三」という数字は特別な意味を持っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

岡崎 剛柔
ファンタジー
「ケンシン、てめえは今日限りでクビだ! このパーティーから出て行け!」  ある日、サポーターのケンシンは勇者のキースにそう言われて勇者パーティーをクビになってしまう。  そんなケンシンをクビにした理由は魔力が0の魔抜けだったことと、パーティーに何の恩恵も与えない意味不明なスキル持ちだったこと。  そしてケンシンが戦闘をしない空手家で無能だったからという理由だった。  ケンシンは理不尽だと思いながらも、勇者パーティーになってから人格が変わってしまったメンバーのことを哀れに思い、余計な言い訳をせずに大人しく追放された。  しかし、勇者であるキースたちは知らなかった。  自分たちがSランクの冒険者となり、国王から勇者パーティーとして認定された裏には、人知れずメンバーたちのために尽力していたケンシンの努力があったことに。  それだけではなく、実は縁の下の力持ち的存在だったケンシンを強引に追放したことで、キースたち勇者パーティーはこれまで味わったことのない屈辱と挫折、そして没落どころか究極の破滅にいたる。  一方のケンシンは勇者パーティーから追放されたことで自由の身になり、国の歴史を変えるほどの戦いで真の実力を発揮することにより英雄として成り上がっていく。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜

ばふぉりん
ファンタジー
 こんなスキルあったらなぁ〜?  あれ?このスキルって・・・えい〜できた  スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。  いいの?

10月の満月 ハンターズムーン

鏡子 (きょうこ)
エッセイ・ノンフィクション
正体は何者であるか? だんだん全貌が見えてきました。 私のスマホのハッキングしているのは誰なのか? どの組織に繋がるのか?謎を追いかけます。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...