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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十九話 二刀一心 三位一体(3)

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   ◆◆◆

 一方、

「……」

 カイルの体は浮遊感に包まれていた。
 しかし視界は無い。上も下も真っ暗だ。

「なんだこれは? 私はどうなったのだ?」

 その答えに内心気付きいていながらも、カイルは疑問を口に出した。
 すると間も無く、予想していた答えが頭上に現れた。
 そのまばゆさに目を細める。
 目が慣れた頃、その中にカイルは美しい景色を見た。



 頭上に空間の裂け目のようなものが出来ている。
 自分の体はそこに吸い込まれているようだ。
 吸い込まれた後、どうなってしまうのか。
 帰れなくなるような気がする。
 それは少し怖い。のだが、

(どうでもいいか……もう、疲れた)

 今のカイルにはどうでもよかった。
 何をしていたのか、何をするべきなのか、何をしたかったのかも思い出せないが、とにかくカイルは疲れていた。
 それは指一本動かすのすら面倒になるほどの倦怠感であったが、

「……ん?」

 ふと、カイルは下を向いた。
 下で何かが起きている。
 真っ暗だった下界から光が生まれている。
 それは薄赤く、まるで炎のよう。
 その小さな灯火(ともしび)に、カイルの目は釘付けになった。
 そして間も無く、カイルの口は自然と開いた。

「……思い出した」

 自分が何をしていたのかを。炎を使う女魔法使いと戦い、そして敗れたことを。
 あのあとどうなったのか?
 下界にあるあの光は、炎は、兵士達が放つ熱気だ。なぜだかそれが分かる。
 不思議だ。なぜそのように熱くなれる。なぜ、あの怪物を前にして怖気づかない?
 知りたい。見たい。そして感じたい。今、戦場で何が起きているのかを。
 カイルがそう思った直後、

「!」

 突如、カイルの体から浮遊感が消えた。
 落ちる、そう思うよりも早く、カイルの視界は炎に、薄赤い光に包まれた。

   ◆◆◆

「げほっ!」

 目覚めると同時に、カイルは吐血した。

「ごほっ! ごほっ!」

 口から赤い泡を出しながら激しく咳き込む。
 痛い。苦しい。
 だが咳き込んだおかげで、血を吐いたおかげで気道を確保出来た。これで窒息死は回避出来た。
 しかし体を動かせない。
 死に瀕している自分の体。
 にもかかわらず、カイルは意識を自分では無く別のところに向けた。

(……何が起きている?)

 唯一動かせる目を使い、戦場を見回す。
 地面には地獄が広がっている。
 原型をとどめていない人間の部品がそこら中に散らばり、赤い川が出来ている。
 しかし、それがどうでもよくなるほどの光景が、赤い絨毯の上で繰り広げられている。
 兵士達があの怪物に立ち向かっている。
 恐ろしく統率が取れた動き。
 爆発魔法に数百の光弾を同時にぶつけて相殺するという、信じられない防御。
 なぜそんなことが出来る。
 その疑問が浮かんだと同時に、答えも見えていた。
 兵士達の間に線が繋がっている。
 自分にもだ。
 この線を通じて、兵士達は、自分は新たな世界を見ている。
 なんということだ。人間はこんなことが出来るのか。
 もっと知りたい。もっと感じたい。

「がはっ!」

 しかしこのままだと死ぬ。失血死してしまう。
 嫌だ。こんなすごい世界を見た後で、知ってしまった後で死にたくない。

(誰か――)

 助けてくれ、そう願いを込めた線を、カイルは近くにいる兵士に向かって伸ばした。
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