Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十八話 軍神降臨(14)

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 左斜めに傾いたクラウスの右となりを爆発魔法が通過していく。
 手を伸ばせば掴めそうな距離。
 これはマズい、近すぎる。
 そう思った直後、

「っ!?」

 右後方で弾が弾けた感覚。
 そして瞬きする間も無く、背中に大きなものがぶつかったような感覚が走る。
 後ろから肺を激しく押される。
 背骨と肋骨が悲鳴を上げる。

「……っ!!」

 あまりの圧迫感に悲鳴も出ない。
 刹那遅れて浮遊感が身を包む。
 衝撃波に押され、吹き飛ぶクラウスの体。
 感じるのは痛みばかり。
 にもかかわらず、クラウスの顔に苦悶の色は無い。
 それどころか、

(よし、これでいい!)

 と思っていた。
 これが最善、この方向ならば文句なし。
 あとの問題は受身だが――

「ぐぁっ!」

 出来るわけが無い。衝撃波に拘束されているのだから。
 痛みとともに、視界が一転、二転。
 地の上を転がるクラウスの体。
 爆風の影響では無い。自らの意思で転がっている。これは勢いを利用した連続前転だ。
 そして三度目の前転を終えた瞬間、

(ここだ!)

 クラウスは左足を勢いよく地面に振り下ろした。
「だん」という音と同時に回転が停止。
 地を蹴った勢いを利用し、立ち上がりながら、剣を構える。

「っ?!」

 瞬間、左肩に激痛。
 左肩がまったく動かない。
 脱臼? いや違う。異物感がある。

(これは――)

 石だ。石が左肩に刺さっている。
 いつだ。爆風を受けた時か?

(いや、今はそれよりも――)

 右腕だけでも剣は触れる。
 左腕はだらんとぶら下げたまま、真右へ振り向く。
 体が完全に右に向き直るよりも僅かに早く、クラウスの両目が右にいたリーザの姿を捉える。
 その顔にあるのは驚きの表情。
 当然だろう。爆風を利用して間合いを詰めたのだから。
 あと一手だ。
 次の踏み込みで光る三日月の射程内に入る。
 左足に再び活を入れる。
 前に流れ始めるクラウスの体。
 ほぼ同時に、リーザも迎撃体勢に入った。
 これをどうするか? 先と同じく左? それとも右に変えてみるか?

(いや、違う)

 クラウスの理性は両方を否定。
 クラウスが選んだのは三つ目の選択肢。

(ここは両方!)

 右と左、両方の線を同時に叩き込む。
 どっちになるかは分からない。
 だが、今回はどっちでもいい。
 ここは軌跡を見てから対処する。爆風の影響さえ受けなければ、いや、剣さえ振れればいい。多少の被害には目をつむる。
 それよりも問題は三日月の命中率だ。
 自分の三日月は安定性に欠ける。アラン様の神秘を借りている今ですら、必中の自信が無い。
 しかしやるしか無い。こんな好機をもう一度作れる気がしない。
 クラウスはそう考えていた。
 が、

「!?」

 開かれた台本の内容に、クラウスは目を見開いた。

(どうする?!)

 答えを己に問う。
 しかし答えは出ない。見つからない、というよりもどうしようも無い。

(……くそっ!)

 毒を吐きながら、左足で地を蹴る。
 真右に流れ始めるクラウスの体。
 その後を追う様に、赤い波が迫ってくる。
 リーザが放った炎だ。リーザは正面を炎でなぎ払い始めたのだ。
 忘れていた。この女にはこれがあった。こちらがどう動こうと関係無い、お手軽で凶悪な範囲攻撃が。

(……マズい!)

 追いつかれる。
 どうする? 防御魔法で受けるか?

(いや、それよりも先に、)

 剣に込めた魔力を使うべきだ。防御魔法はその後でも間に合う。そう考えたクラウスは迫る炎に向かって一閃した。
 即座に光る盾を展開して炎に備える。

「!」

 その瞬間、クラウスは見た。
 いや、剣に教えられた。
 炎魔法の構造を。
 それはまるで、

(まるで、木のような……)

 手から生まれた炎が伸び、そして広がるその様、まさに樹木。
 幹から枝が生まれ、枝はさらに細かい枝に分裂していっている。
 そして目に見えないほどに細くなった枝が、葉のように、火の粉となって舞い散っている。
 私が放った三日月は針葉樹のようなその赤い樹木に飲み込まれた。
 問題はその後だ。
 三日月は炎の中で紐がほどけるように、数本の細い光る糸に分裂した。
 そして糸は曲がりくねり、炎の中で暴れまわった。太い枝を次々と切り裂いていった。
 するとどうだ。先に伸びていた小さな枝葉は瞬く間に消えうせた。まるで空間を削り取ったかのように、私の三日月は炎に穴を開けたのだ。
 光弾ではこうはいかない。枝を曲げるだけだろう。飛ぶ斬撃だからこそ出来る芸当だ。
 だが一本の線では、複数の太枝を全て切り落とすことは困難だ。複数の、そして不規則な軌道の曲線に分解するからこそ出来る技だ。

(つまり、私の三日月は炎と相性が良い、ということなのか?!)

 欠点だと思っていたものが意外な事に対して利点となった。その事実にクラウスが喜びの感覚を抱いた直後、

「!」

 後から伸びてきた細い枝葉がクラウスを襲った。
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