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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十八話 軍神降臨(13)
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クラウスの左後方から幾度目かになる爆発音が響き渡る。
「……」
波のことと脳のことについて考えながら、クラウスは既に爆発魔法を四発、リーザから見て「右」にそらしていた。
リーザの顔はもはや恐怖に染まっている。
なぜなら、クラウスが前進を開始したからだ。
クラウスは自身の能力の精度を確認しながら、少しずつ間合いを詰め始めていた。
そしてその確認は終わりつつあった。
これなら次で決められる、そう思ったクラウスは、五度目となるリーザの射撃動作に合わせて左足に力をこめた。
が、次の瞬間、
「!」
今度はクラウスの顔が恐怖に染まった。
足に込めていた力を使って右後方に飛ぶ。
その直後、直前までクラウスが立っていた場所から土砂が柱のように立ちのぼった。
「くっ!」
爆風に煽られたクラウスの体が地の上を転がる。
三転したところで、クラウスは体勢を立て直した。
立ち上がり、剣を構えたその顔に浮かんでいたのは、驚きの色。
間違いでなければ、今のは――
(防御された?!)
もっと具体的に言えば、「消された」。私が送り込んだ波は消去されたのだ。
(しかし、一体どうやって――)
思考を重ねる間も無く、眼前にいるリーザが再び射撃体勢に。
台本が開くのを感じたクラウスは、束ねた線をリーザに向かって発射。
二人の顔は焦りに染まっている。
当たってくれ、効いてくれ、そんな思いが顔に表れている。
リーザの手から爆発魔法が放たれる。
ぶつかり合う二人の焦り。その結果は、
「……」
クラウスの方に軍配が上がった。
クラウスの顔に安堵の色が少しにじむ。
爆発魔法はリーザから見て「左」にそれた。
前回までは「右」という信号を送っていたが、今回は逆にした。すると上手くいった。
(同じ波ばかりでは駄目、ということなのか……?)
リーザの脳がどのように防御しているのかはまだはっきりとは分からない。が、もしかしたら、「慣れる」ということがあるのかもしれない。
クラウスが考えていることは正解である。
人間の脳には結果から補正する能力がある。
だから間違った行動は何度も繰り返さない。
どんなに真実味のある情報をもとにした行動であっても、間違っていれば疑う。結果がすべて。
その疑いは自分自身にすら向けられる。人間の脳は己を疑う。そしてついには「自らを書き換える」のだ。
幸いなことに、リーザの脳はまだ「右」を疑っているだけだ。
だが不幸なことに、クラウスは「脳が疑う」ということと、「書き換える」ということがどういうものなのかまだ理解していない。
クラウスは知らない。この理解の遅れは致命的な結果を招きかねないことを。
それを伝えようと、古い友人がクラウスの耳元で声を上げている。
「――っ!」
しかし悲しきことに、
「……」
クラウスは反応出来ず、ゆるゆると歩き始めた。
その進みはまるで牛歩の如く。
理解していないという事実が、警戒となって足に現れている。
古き友人の声はやはり届いていない。届くわけが無い。今のクラウスは死から遠すぎる存在だ。
「っ!」
直後、クラウスの右後方で再び爆発音。
その衝撃にクラウスの体がゆらめく。
先と同じく「左」という信号を送ったが、思ったよりも軌道がそれなかった。だから爆風によろめいた。
この事実に、クラウスはようやく古い友人と同じ焦りを抱いた。
(まさか、これも防御されつつある、のか?!)
「右」も「左」もまったく効かなくなったらどうすればいいのか。
「上」と「下」は多分、無理だ。
なぜなら既に試しているのだが、「撃つな」という信号は全く効かないからだ。
でたらめな、または現実的では無い命令は効きにくい、または全く効かないと考えていいだろう。
右足がまだ無事であったならば、「上」という選択肢は使えたかもしれない。リックのような大きな跳躍を見せれば、リーザの頭の中に「上」という選択肢が増えたかもしれない。
ならば、
(踏み込むしかない……!)
残された時間はきっと多くない。だから詰めるしか無い。
目の前にいるリーザが次の射撃体勢に移る。
台本が開く感覚。それに合わせて左足に力を込める。
リーザが手にある爆発魔法を振りかぶる。
(今だ!)
瞬間、リーザの頭に向かって線を発射。
リーザの脳が波に揺れる。
しかしリーザの動きに変化は無い。
楕円の軌跡を描くリーザの手から、指から、爆発魔法が離れる。
(南無三!)
クラウスはどこの国のものなのかすら知らない言葉で願いながら、地を蹴った。
線が確実に効いたという実感が無いからだ。
放たれた爆発魔法が迫る。
その軌跡を見たクラウスは、
(……際どい!)
即座に地を蹴り直した。
「……」
波のことと脳のことについて考えながら、クラウスは既に爆発魔法を四発、リーザから見て「右」にそらしていた。
リーザの顔はもはや恐怖に染まっている。
なぜなら、クラウスが前進を開始したからだ。
クラウスは自身の能力の精度を確認しながら、少しずつ間合いを詰め始めていた。
そしてその確認は終わりつつあった。
これなら次で決められる、そう思ったクラウスは、五度目となるリーザの射撃動作に合わせて左足に力をこめた。
が、次の瞬間、
「!」
今度はクラウスの顔が恐怖に染まった。
足に込めていた力を使って右後方に飛ぶ。
その直後、直前までクラウスが立っていた場所から土砂が柱のように立ちのぼった。
「くっ!」
爆風に煽られたクラウスの体が地の上を転がる。
三転したところで、クラウスは体勢を立て直した。
立ち上がり、剣を構えたその顔に浮かんでいたのは、驚きの色。
間違いでなければ、今のは――
(防御された?!)
もっと具体的に言えば、「消された」。私が送り込んだ波は消去されたのだ。
(しかし、一体どうやって――)
思考を重ねる間も無く、眼前にいるリーザが再び射撃体勢に。
台本が開くのを感じたクラウスは、束ねた線をリーザに向かって発射。
二人の顔は焦りに染まっている。
当たってくれ、効いてくれ、そんな思いが顔に表れている。
リーザの手から爆発魔法が放たれる。
ぶつかり合う二人の焦り。その結果は、
「……」
クラウスの方に軍配が上がった。
クラウスの顔に安堵の色が少しにじむ。
爆発魔法はリーザから見て「左」にそれた。
前回までは「右」という信号を送っていたが、今回は逆にした。すると上手くいった。
(同じ波ばかりでは駄目、ということなのか……?)
リーザの脳がどのように防御しているのかはまだはっきりとは分からない。が、もしかしたら、「慣れる」ということがあるのかもしれない。
クラウスが考えていることは正解である。
人間の脳には結果から補正する能力がある。
だから間違った行動は何度も繰り返さない。
どんなに真実味のある情報をもとにした行動であっても、間違っていれば疑う。結果がすべて。
その疑いは自分自身にすら向けられる。人間の脳は己を疑う。そしてついには「自らを書き換える」のだ。
幸いなことに、リーザの脳はまだ「右」を疑っているだけだ。
だが不幸なことに、クラウスは「脳が疑う」ということと、「書き換える」ということがどういうものなのかまだ理解していない。
クラウスは知らない。この理解の遅れは致命的な結果を招きかねないことを。
それを伝えようと、古い友人がクラウスの耳元で声を上げている。
「――っ!」
しかし悲しきことに、
「……」
クラウスは反応出来ず、ゆるゆると歩き始めた。
その進みはまるで牛歩の如く。
理解していないという事実が、警戒となって足に現れている。
古き友人の声はやはり届いていない。届くわけが無い。今のクラウスは死から遠すぎる存在だ。
「っ!」
直後、クラウスの右後方で再び爆発音。
その衝撃にクラウスの体がゆらめく。
先と同じく「左」という信号を送ったが、思ったよりも軌道がそれなかった。だから爆風によろめいた。
この事実に、クラウスはようやく古い友人と同じ焦りを抱いた。
(まさか、これも防御されつつある、のか?!)
「右」も「左」もまったく効かなくなったらどうすればいいのか。
「上」と「下」は多分、無理だ。
なぜなら既に試しているのだが、「撃つな」という信号は全く効かないからだ。
でたらめな、または現実的では無い命令は効きにくい、または全く効かないと考えていいだろう。
右足がまだ無事であったならば、「上」という選択肢は使えたかもしれない。リックのような大きな跳躍を見せれば、リーザの頭の中に「上」という選択肢が増えたかもしれない。
ならば、
(踏み込むしかない……!)
残された時間はきっと多くない。だから詰めるしか無い。
目の前にいるリーザが次の射撃体勢に移る。
台本が開く感覚。それに合わせて左足に力を込める。
リーザが手にある爆発魔法を振りかぶる。
(今だ!)
瞬間、リーザの頭に向かって線を発射。
リーザの脳が波に揺れる。
しかしリーザの動きに変化は無い。
楕円の軌跡を描くリーザの手から、指から、爆発魔法が離れる。
(南無三!)
クラウスはどこの国のものなのかすら知らない言葉で願いながら、地を蹴った。
線が確実に効いたという実感が無いからだ。
放たれた爆発魔法が迫る。
その軌跡を見たクラウスは、
(……際どい!)
即座に地を蹴り直した。
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