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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十八話 軍神降臨(12)

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(いや、もしかしたら――)

 ふと気付く。
 この波は、訓練次第でアラン様も拾うことが出来るのではないか、と。
 自然に左手が動く。
 この仮説を確かめるために。
 光る左手で、発光する刀身をなでる。

(やはり……)

 考えは正しかった。この楽器は調整出来る。拾う波の範囲や強度を、楽器としての指向性を変化させることが出来る。
 この調整は万能では無いだろう。その人が持つ魔力の質によって限界があるはずだ。

(しかし訓練次第である程度幅を広げることが出来るのではないか……ん?)

 そこまで考えてようやく、クラウスはリーザに攻撃されていることを思い出した。
 ついさきほども、爆発魔法がとなりを通り過ぎていった。
 軌道も爆発するタイミングも滅茶苦茶だ。
 私は動いていない。動かずとも、当たる気がしない。
 私がリーザに何をしていたか、何をしてきたのか、ようやく分かった。

(つまり、リーザに繋がっているこの線は、)

 目の前にいるリーザが再び構える。
 同時に台本が開く。
 台本に書かれている数値は相変わらずふらついている。

(そうだ、これでは安定しない)

 リーザに繋がっている線を全て外す。
 ふらついていた数値がある値に定まる。
 外した線を束ねる。
 この技をアラン様の台本と併用するならば、一点集中させたほうが好都合。
 リーザが爆発魔法の投擲姿勢に移る。

(ここだ)

 直後、クラウスは束ねていた線を、リーザの頭の「ある一点」に向けて放った。
 リーザの体が「びくり」と跳ね上がる。
 そして放たれた爆発魔法は、クラウスから見て大きく「左」にそれた。
 クラウスの左後方で爆発音が響き渡る。
 その爆風を背に感じながら、クラウスは考えた。
「右」にそらせようとしたのだが「左」になった。
 理由はすぐにわかった。

(……ああ、そうか。リーザから見た右は、私からすれば逆になるのか)

 そんな当たり前の事に気付けなかった自分に対して苦笑いをする。
 でもこれで明らかになった。
 私はリーザの思考を書き換えたのだ。リーザの頭に波を叩き込んだのだ。真っ直ぐでは無く、右に狙うように。
 それと同時に台本も書き変わった。

「……」

 そのような事を成し遂げたにもかかわらず、クラウスの表情は明るく無い。
 神秘性を感じなくなってしまったからだ。
 リーザと自分の頭の中を観察するほどに思う。人間の脳は案外単純なものなのだな、と。
 私とリーザの脳の構造に差異はほとんど無い。特に生活、生存に関する機能とその構造はまったくと言っていいほどに同じだ。だから私が送った波でリーザを狂わせることが出来る。私が「右」と認識する脳波は、リーザにとっても同じなのだ。

「……」

 だから神秘性を感じない。特別性も感じない。訓練すればアラン様にも出来る気がする。問題はどうすれば訓練出来るのかだが。

 クラウスが考えていることは正解である。
 この世界では精神、感情の伝達はかなり安易に起きている。珍しいことではない。
 隣の人にくしゃみがうつる、笑っている人の隣にいると自身も明るくなる、などがそれだ。接近していればいるほど影響力が強い。
 訓練すれば指向性を持たせることが出来る。特定の誰かに、無意識のうちに、情報を伝達することが出来る。
 今のクラウスはそれを自在に出来る。情報の伝達を自覚、理解し、実行出来る人間の一人なのだ。

 だが、クラウスは一つ間違っている。
 この世界の人間の脳はクラウスが思っているほどに単純では無い。
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