Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十八話 軍神降臨(9)

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   ◆◆◆

 意識の切断は一瞬。
 目の前に新たな景色が広がる。

(これは……)

 夢だと、クラウスはすぐに気付いた。
 なぜならこれも見たことがある映像だったからだ。
 これは収容所時代の記憶。
 雨の中で師が剣の素振りをしている。
 草を刈るように、下段へのなぎ払いを繰り返している。
 師が腕を振るたびに、足元の水溜りが大きな波を立てる。
 なにも雨の中でやる必要のない鍛錬のように見える。
 だからクラウスは「風邪を引いてしまいますぞ」と声をかけた。
 その言葉に師は腕を止め、クラウスの方に向き直りながら口を開いた。

「やはり上手くいかないな」

 何を試していたのですかと、クラウスは歩み寄ってくる師に尋ねたが、これに師は口を渋らせた。

「……笑わずに聞いてくれるか?」

 もちろんですとも、とクラウスは答えたが、心の中では内容次第だと考えていた。
 それを察したのか、師は、

「……」

 本当に言っていいものか迷う素振りを見せたが、聞いて欲しいという欲求が勝ったのだろう、しばらくして口を開いた。

「……水を斬れないかと、試していたのだ」
「……」

 笑うどころか、クラウスは呆気に取られたような顔を返した。
 クラウスが「なぜそんなことを?」と尋ねると、師は次のように答えた。

「……私の血は半分ほど別の国のものだが、その国にこんな言葉があるんだ。『この世界は水のようなもので満たされている』と」

 師は剣の方に目線を移しながら言葉を続けた。

「……その言葉を残したのは剣士で、その『水』を斬ることが出来たそうだ」

 この言葉にクラウスは「それが本当ならば凄いですな」と述べたが、これは本心からでは無かった。
 クラウスの心にはやはり疑いの色が強い。それを察した師は口を開いた。

「――」

 ……?
 師は口をぱくぱくさせている。
 しかし聞き取る事が出来ない。

(まさか――)

 また時間切れなのか? 肝心なところで!
 先と同じように視界が歪み始める。
 待ってくれ――クラウスはそう声に出したが、願いは空しく、視界は闇に染まった。

 その暗黒の中で、クラウスは

「剣に身をゆだねよ」

 と言われたような気がした。
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