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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十八話 軍神降臨(5)
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クラウスの体が陽炎のように揺らぎ、影が前へ伸び始める。
直後、その影を衝撃波がなぎ払った。
しかし消えたのは影のみ。
本体は既に右方に転進している。
リーザの目線がそれを捉える。
が、それは既に影。直前にクラウスは前方に向かって地を蹴っている。
あっという間に双方の間合いが縮まり、クラウスの脳裏に勝利の二文字が浮かび上がる。
次の一足で確殺となる距離。
しかしそれは以前のリーザが相手であればの話。
直後、台本が次のページを開いたのとほぼ同時にクラウスは後方に向かって地を蹴った。
クラウスの前で爆発が起きる。
土砂が舞い上がり、衝撃波と共に石の散弾が周辺に散らばる。
近距離用に調整した爆発魔法を地面に叩き込んだのだ。
以前の接近戦用の爆発魔法とは比べ物にならない威力。
そしてなにより、クラウスが大きく後方へ退いたのは、台本ではわからない不確定要素があったからだ。
この未来を予知する神秘をもってしても、石と土の破片がどのように散らばるのかまでは計算できなかった。『ここは多分危険だ』、という曖昧な予測が悪寒という形で知らされただけだ。
安全策は単純に爆心地から距離を取るしかない。石と土の破片を掻い潜りながら突っ込むという行為は、完全に運に頼った行動となる。
(……厄介な)
だからクラウスは唇を少し噛んだ。
一呼吸分ほど間を置いてから、足を再び前に出す。
まばたきするよりも早く、即座に右に転進。
直前までいた場所で土砂が舞い上がる。
右へ流れるクラウスを追う様に爆発が連続する。
背後で鳴り続く爆音。それから逃げるように足に活を入れ続ける。
逃げるので精一杯だ。
明らかに先とは反応の速さが違う。
もうこの動きに慣れたのか?
それになんだこの攻撃の激しさは。この魔法はこんなに連射の効く代物だったか?
そう自問自答するクラウスであったが、その答えは既に見えていた。
(あの女の身体に何が起きている?)
女の中で煌く数え切れないほどの星々。
明らかに普通では無い。
どうやったらあんなことが出来るのか、それはわからない。
が、あれがどういう現象なのかはわかる。
あれは自分が使っている加速技と原理は同じものだ。
しかし繊細さと規模が違いすぎる。自分のように間接の動きを補助しているだけでは無い。あれは全体の能力が向上している。
(さて、どうしたものか)
この化け物をどうやって攻めるか、そんなことをクラウスが考え始めた直後、
「!」
真後ろから爆発音。
かなり近い。
やはり女の反応速度が上がっている。このままだと次で直撃される。
(ならばさらに加速して振り切るまで!)
そう考えたクラウスが、足に魔力を込めた瞬間、
「!?」
台本が開いた。
同時に悪寒が走る。
悪寒の原因は一秒後に「前方で」起きる爆発。
移動先を完全に読んだ偏差射撃だ。
後ろか横へ逃げるしかない。
(やむを得ん!)
クラウスはやむなく右を選択。
本当は後方に逃げたい。
なぜなら、偏差射撃の後に追い討ちが来るからだ。偏差射撃はあくまでこちらの足を止めることだけが狙いの牽制。
しかし横移動ではその追い討ちの攻撃範囲から逃げられない。だから最善手は後方への転進。
しかしそれは出来ない。これだけ前に加速している状態でそんなことをすれば、足は確実にお釈迦になってしまう。
足に活を入れ、真横に跳ぶ。
同時に台本の次のページが開いた。
(!?)
瞬間、クラウスの心に違和感が走った。
その感覚に急かされるまま、再び足に活を入れる。
陽炎よりも速く、クラウスの影が流れる。
「っ!」
代償として足に走る激痛。
数瞬の間を置いて、クラウスの後方で爆音。
足に苦を強いて得た余裕のある回避。
いや、はっきりいって余裕がありすぎる。これならば足を消耗させる必要など無い。
攻撃のタイミングまで予測できるクラウスがなぜこんな回避を選んだのか。
(おのれ、またか!)
そう、またなのだ。
(台本の反応が鈍い!)
クラウスは大きな問題を抱えていた。
そしてその原因に本人は気付いていない。
(いや、鈍いというよりも迷っているような……!)
偏差射撃の予測の時もそうだった。
偏差射撃が来ることはわかっていた。
しかしそのタイミングの提示があまりに直前すぎた。
迷っていると表現したが、正にその通り。台本は何度も書き換えられている。数値が攻撃の直前までふらふらしている。
なぜこんなことになる。所詮借り物ゆえに、上手く扱えないということなのか?
(否……それは違う。何かが予測の邪魔をしている)
確信めいたものがあった。
そも、台本の演算をしているのは自分では無くアラン様だ。自分はその演算結果を受け取っているだけに過ぎない。
そして、アラン様のこの能力は相手の心を読み攻撃を予測する、それだけのものだ。
では、ふらついているのはアラン様のせいなのだろうか。
それも否。
意識の線をしっかりと繋げているから分かる。アラン様の演算は完璧だ。
つまり原因は、迷っているのは台本の方では無い。
(リーザが攻撃を迷っている?)
それしか考えられない。
直後、その影を衝撃波がなぎ払った。
しかし消えたのは影のみ。
本体は既に右方に転進している。
リーザの目線がそれを捉える。
が、それは既に影。直前にクラウスは前方に向かって地を蹴っている。
あっという間に双方の間合いが縮まり、クラウスの脳裏に勝利の二文字が浮かび上がる。
次の一足で確殺となる距離。
しかしそれは以前のリーザが相手であればの話。
直後、台本が次のページを開いたのとほぼ同時にクラウスは後方に向かって地を蹴った。
クラウスの前で爆発が起きる。
土砂が舞い上がり、衝撃波と共に石の散弾が周辺に散らばる。
近距離用に調整した爆発魔法を地面に叩き込んだのだ。
以前の接近戦用の爆発魔法とは比べ物にならない威力。
そしてなにより、クラウスが大きく後方へ退いたのは、台本ではわからない不確定要素があったからだ。
この未来を予知する神秘をもってしても、石と土の破片がどのように散らばるのかまでは計算できなかった。『ここは多分危険だ』、という曖昧な予測が悪寒という形で知らされただけだ。
安全策は単純に爆心地から距離を取るしかない。石と土の破片を掻い潜りながら突っ込むという行為は、完全に運に頼った行動となる。
(……厄介な)
だからクラウスは唇を少し噛んだ。
一呼吸分ほど間を置いてから、足を再び前に出す。
まばたきするよりも早く、即座に右に転進。
直前までいた場所で土砂が舞い上がる。
右へ流れるクラウスを追う様に爆発が連続する。
背後で鳴り続く爆音。それから逃げるように足に活を入れ続ける。
逃げるので精一杯だ。
明らかに先とは反応の速さが違う。
もうこの動きに慣れたのか?
それになんだこの攻撃の激しさは。この魔法はこんなに連射の効く代物だったか?
そう自問自答するクラウスであったが、その答えは既に見えていた。
(あの女の身体に何が起きている?)
女の中で煌く数え切れないほどの星々。
明らかに普通では無い。
どうやったらあんなことが出来るのか、それはわからない。
が、あれがどういう現象なのかはわかる。
あれは自分が使っている加速技と原理は同じものだ。
しかし繊細さと規模が違いすぎる。自分のように間接の動きを補助しているだけでは無い。あれは全体の能力が向上している。
(さて、どうしたものか)
この化け物をどうやって攻めるか、そんなことをクラウスが考え始めた直後、
「!」
真後ろから爆発音。
かなり近い。
やはり女の反応速度が上がっている。このままだと次で直撃される。
(ならばさらに加速して振り切るまで!)
そう考えたクラウスが、足に魔力を込めた瞬間、
「!?」
台本が開いた。
同時に悪寒が走る。
悪寒の原因は一秒後に「前方で」起きる爆発。
移動先を完全に読んだ偏差射撃だ。
後ろか横へ逃げるしかない。
(やむを得ん!)
クラウスはやむなく右を選択。
本当は後方に逃げたい。
なぜなら、偏差射撃の後に追い討ちが来るからだ。偏差射撃はあくまでこちらの足を止めることだけが狙いの牽制。
しかし横移動ではその追い討ちの攻撃範囲から逃げられない。だから最善手は後方への転進。
しかしそれは出来ない。これだけ前に加速している状態でそんなことをすれば、足は確実にお釈迦になってしまう。
足に活を入れ、真横に跳ぶ。
同時に台本の次のページが開いた。
(!?)
瞬間、クラウスの心に違和感が走った。
その感覚に急かされるまま、再び足に活を入れる。
陽炎よりも速く、クラウスの影が流れる。
「っ!」
代償として足に走る激痛。
数瞬の間を置いて、クラウスの後方で爆音。
足に苦を強いて得た余裕のある回避。
いや、はっきりいって余裕がありすぎる。これならば足を消耗させる必要など無い。
攻撃のタイミングまで予測できるクラウスがなぜこんな回避を選んだのか。
(おのれ、またか!)
そう、またなのだ。
(台本の反応が鈍い!)
クラウスは大きな問題を抱えていた。
そしてその原因に本人は気付いていない。
(いや、鈍いというよりも迷っているような……!)
偏差射撃の予測の時もそうだった。
偏差射撃が来ることはわかっていた。
しかしそのタイミングの提示があまりに直前すぎた。
迷っていると表現したが、正にその通り。台本は何度も書き換えられている。数値が攻撃の直前までふらふらしている。
なぜこんなことになる。所詮借り物ゆえに、上手く扱えないということなのか?
(否……それは違う。何かが予測の邪魔をしている)
確信めいたものがあった。
そも、台本の演算をしているのは自分では無くアラン様だ。自分はその演算結果を受け取っているだけに過ぎない。
そして、アラン様のこの能力は相手の心を読み攻撃を予測する、それだけのものだ。
では、ふらついているのはアラン様のせいなのだろうか。
それも否。
意識の線をしっかりと繋げているから分かる。アラン様の演算は完璧だ。
つまり原因は、迷っているのは台本の方では無い。
(リーザが攻撃を迷っている?)
それしか考えられない。
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