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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十七話 炎の槍(10)

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「「……」」

 カイルとリーザ、双方の視線が交錯する。
 一呼吸分ほどのにらみ合いの後、カイルが動いた。
 するりと、地面の上を滑るようにカイルの像が前に流れる。

「!?」

 これにリーザは少し驚いた表情で後ずさった。
 それは先にクラウスが見せたものと同じ動きであった。
 上半身がまったく揺るがないすり足での歩行。
 距離感を失いそうになるほどの静かな前進。
 リーザと同じくその動きに驚いたのか、または突然の乱入者にまだ戸惑っているのか、カイルの後ろに追従する兵士の姿は無い。
 ゆえに、場は自然とリーザとカイルの一騎討ちのような形になった。
 そして気が付いてみれば双方の距離は既に半分ほどに詰まっている。
 カイルはまだ前進を止めない。
 これにリーザは焦ったかのように慌てて炎を放った。
 リーザの炎とカイルの防御魔法がぶつかりあう。
 結果は先と同じ。炎は光の粒子になって霧散してしまっている。
 しかしリーザは炎の放出を止めようとはしなかった。
 リーザは魔力のぶつけ合い、持久力での勝負を仕掛けようとしていた。
 が、カイルの方はそんな勝負に付き合うつもりなど一切無かった。
 直後、

「っ!?」

 右膝に走った激痛から、リーザは姿勢を崩した。
 真横からの攻撃だ。
 だから流れ弾かとリーザは思った。
 しかし直後、

「げほっ!?」

 今度はリーザの左わき腹に光弾がねじこまれた。
 肋骨が一本へし折れた感覚と共に、リーザの体が「くの字」の形に折れ曲がる。
 息苦しさと激痛が背中へと突き抜ける。
 まるで膝が崩れて上半身が下がるのを狙っていたかのような光弾。
 こみ上げてくる胃液をこらえながらリーザはなんとか倒れることなく踏みとどまり、これが流れ弾や第三者の援護射撃ではないことに気がついた。
 なぜなら、被弾した部分が冷たくなっているからだ。
 これは間違いなく目の前の男が放った弾。しかしどうやって。
 震える右膝に活を入れ、体勢を立て直そうとする。
 が、リーザが戦闘態勢を作るよりも早く、カイルが動いた。
 突き出されたカイルの右手から光弾が放たれる。
 複数の同時発射。五指を用いて一発の弾を四発に握り分けた散弾だ。
 広がりながら迫る散弾には圧迫感がある。が、

(この程度!)

 所詮は散弾。数は多くともひとつひとつは小さいため威力が無い。そう考えたリーザは防御魔法ではなく、炎でこれを迎え撃った。
 リーザの左手からほとばしった炎は散弾を飲み込み、そのままカイルの方へと伸びていく。
 カイルは既に防御魔法を展開して炎を待っている。
 このまま炎をぶつけてもう一度持久戦に――リーザがそう考えた瞬間、

(?!)

 視界の右隅にあるものが映った。
 それは二つの光弾。
 完全に射線を外した光弾。普段なら気にも留めない。
 なのに意識を奪われる。この二つが「何か」危険なことを引き起こしそうな気がする。
 そう直感で思ったリーザが視線をそちらに動かし始めた瞬間、それは起こった。

「!」

 二つの光弾が衝突。
 光弾の一つがリーザの右側頭部へと射線を変える。
 これをリーザは咄嗟に右腕で防御。

「ぐっ!」

 防御魔法ではない生身での、しかも矢が刺さった腕での防御。
 矢傷から生まれた傷みなのか、それとも軋みを上げる骨から生まれたものなのかわからないほどの激痛が右腕から走る。
 だが横からの攻撃の正体は見えた。跳弾だ。
 歯を食いしばりながら再び崩れた体勢を戻す。
 そこへ再び迫る散弾。
 両手で展開した防御魔法でこれを受ける。
 リーザの手に衝撃が伝わる。
 しかし軽い。これはきっとただのめくらまし。
 間を置かずにリーザは両腕を広げ、左右に防御魔法を展開した。

「っ!」

 左手に重い衝撃が伝わる。
 やはり横を狙ってきた。散弾に紛れているせいでまったく見えなかったが、防御魔法を広く展開すればなんとかなる。
 リーザがそう思った瞬間、

「!?」

 その考えは甘いことを、体に教えられた。
 痛みの発生源は背中。
 複数回の跳ね返りを利用して光弾を背後に回りこませたのだ。
 だがこの光弾の威力は低い。跳ね返らせる回数が増えるごとに威力が下がるからだ。光弾に冷却魔法を混ぜると反発係数が増すのだが、それでも弱い。
 後頭部に直撃させれば戦闘不能がありえる。しかしいかんせん精度が悪い。さすがのカイルでも複数回の跳弾では針の穴を通すような精密さは出せない。
 だから広い背中を狙った。倒せないにしても姿勢を崩せるし、なにより背後への警戒心を煽ることが出来る。

 リーザはそんなカイルの狙いをまったくわかっていない。
 ゆえに、まんまとカイルの思惑にはまることになる。
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