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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十七話 炎の槍(6)
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双方の体が前に出る。
一瞬だが先に動き出したのは、意外にもリーザ。
クラウスの狙いは前回と同じ。突進の勢いを乗せた斬撃をあびせることだ。
ではリーザの狙いは?
その手の中には光球がある。
それを見たクラウスは足を止めた。
リーザの手の中にあるものが、ただの光弾で無いことに気付いたからだ。
その弾は薄赤く輝いている。
爆発魔法? まさか、この距離で? そのような疑問がクラウスの脳裏を駆け巡った。
直後、リーザはクラウスが思った「まさか」の行動を取った。
手にある薄赤い光球をクラウスに向かって放ったのだ。
「放った」という表現は正確では無いかもしれない。
なぜなら、光弾はリーザが手を突き出したのとほぼ同時に弾けたからだ。
衝撃音と共にクラウスの体が後方に吹き飛ぶ。
その顔に浮かんでいるのは苦悶では無く驚き。
まさか、零距離と言っていいこの至近距離で本当に爆発させるとは思っていなかったからだ。
苦痛に顔が歪まないのにはもう一つ理由がある。
単純にそれほど痛くないからだ。
間も無く、クラウスの背が地に着き、土の上を滑る。
がりがりと地面を削る感触を背に感じながら、クラウスは自身の体がまだ戦える状態にあることを確認し、上体を起こした。
すると、さらに驚くべきものがクラウスの瞳に映り込んだ。
それは先と変わらぬ姿勢で立っているリーザの姿。
なぜ? 自分と同じ爆発に巻き込まれたはずでは? という当然の疑問がクラウスの心に浮かび上がる。
爆発魔法を放つと同時に防御魔法を展開して耐えたのだろうか? という至極普通の予想をクラウスの理性は訴えた。
しかし直後、クラウスの本能がその予想に「待った」をかけた。
妙なことがあるのだ。
それは火の粉の散り方。
かたよりがあるのだ。赤く輝く粉はこちらにばかり降ってきており、逆にリーザの周辺と後方は薄い。
そしてかたよりは地面にも見受けられる。
こちら側の地面は衝撃波の影響がはっきりと現れている。地表の塵芥がなぎ払われ、衝撃波が通ったことを現している。逆にリーザの方、特にリーザの後方にはその影響が薄くしか見受けられない。
クラウスは「まさか」と思ったが、その先は言葉にならなかった。本能は何が起きたかを理解していたが、それを表現する言葉をクラウスの理性は知らなかった。
クラウスが表現出来ないのは無理も無い。この世界ではまだあまり使われていない言葉だからだ。
それは指向性。
指向性とはある箇所から生じた光などのエネルギーの強度が方向によって異なる性質のことである。
リーザは爆発魔法にこの指向性を持たせたのだ。生じる衝撃波を特定方向に集中させられるようにしたのだ。
しかし今のリーザの指向性爆発は彼女が描く理想には程遠い。
その証拠を直後のクラウスが動いて見せた。
クラウスは上半身だけを起こした姿勢のまま、直撃を受けた胸部に手を押し当てた。
鋼の胸当てがほんの少しへこんでいるように感じる以外には違和感は無い。
痛みも無い。胸骨に異常が無いことを確認したクラウスは「すっ」と、勢いよく立ち上がった。
それを見たリーザは、自身わかっていたことであったが、それでも唇をかみ締めた。
そう、この程度の威力しかないのだ。強い突風程度の威力しかない。
その理由もまたリーザはよくわかっていた。
爆発とは急激な圧力の変化を起こし、それを開放することで発生する破壊現象のことだ。
リーザの爆発魔法は光弾の内部で炎魔法を燃焼させて圧力を高め、外殻の破裂によってその圧力を一気に開放させるもの。カルロがラルフに対して使ったものも同じだ。
カルロの爆発魔法がリーザほどの威力を有していない理由は以前述べた通り、カルロの炎の燃焼速度が遅いからである。圧力の増加速度は爆薬の燃焼速度に依存する。
そして先にリーザが放った指向性爆発の原理は至極単純。外殻のある一点の厚みを薄くしただけだ。これによって圧力の開放箇所を一点に絞ろうとしたのだ。
「絞ろうとした」と表現した通り、現実にはそのようになっていない。
確かに圧力の開放はその一点から始まる。が、噴出される炎とそれによって発生した衝撃波が穴を瞬時に押し広げ、圧力の放出は点から扇状に、そして瞬く間に球状に変化してしまうのだ。現状のリーザの指向性爆発魔法は、発生する衝撃波の威力に若干のかたよりがある、という程度である。
察しの良い読者は気付いただろう。球状に変化すると述べた通り、リーザ自身も爆発の衝撃を受けている。
なのにリーザが吹き飛ばない理由も単純。防御魔法を同時に展開しているからだ。しかしそれが指向性爆発魔法の威力を著しく減少させることに繋がってしまっている。
人間が瞬時に扱える魔力量には個人差があるが限界がある。リーザは放出できる魔力の多くを防御にあてている。ゆえに爆発魔法の威力が下がっている。だが防御魔法を展開しないわけにはいかない。自爆してしまうからだ。結局のところ全ての原因は指向性が甘いからである。
一瞬だが先に動き出したのは、意外にもリーザ。
クラウスの狙いは前回と同じ。突進の勢いを乗せた斬撃をあびせることだ。
ではリーザの狙いは?
その手の中には光球がある。
それを見たクラウスは足を止めた。
リーザの手の中にあるものが、ただの光弾で無いことに気付いたからだ。
その弾は薄赤く輝いている。
爆発魔法? まさか、この距離で? そのような疑問がクラウスの脳裏を駆け巡った。
直後、リーザはクラウスが思った「まさか」の行動を取った。
手にある薄赤い光球をクラウスに向かって放ったのだ。
「放った」という表現は正確では無いかもしれない。
なぜなら、光弾はリーザが手を突き出したのとほぼ同時に弾けたからだ。
衝撃音と共にクラウスの体が後方に吹き飛ぶ。
その顔に浮かんでいるのは苦悶では無く驚き。
まさか、零距離と言っていいこの至近距離で本当に爆発させるとは思っていなかったからだ。
苦痛に顔が歪まないのにはもう一つ理由がある。
単純にそれほど痛くないからだ。
間も無く、クラウスの背が地に着き、土の上を滑る。
がりがりと地面を削る感触を背に感じながら、クラウスは自身の体がまだ戦える状態にあることを確認し、上体を起こした。
すると、さらに驚くべきものがクラウスの瞳に映り込んだ。
それは先と変わらぬ姿勢で立っているリーザの姿。
なぜ? 自分と同じ爆発に巻き込まれたはずでは? という当然の疑問がクラウスの心に浮かび上がる。
爆発魔法を放つと同時に防御魔法を展開して耐えたのだろうか? という至極普通の予想をクラウスの理性は訴えた。
しかし直後、クラウスの本能がその予想に「待った」をかけた。
妙なことがあるのだ。
それは火の粉の散り方。
かたよりがあるのだ。赤く輝く粉はこちらにばかり降ってきており、逆にリーザの周辺と後方は薄い。
そしてかたよりは地面にも見受けられる。
こちら側の地面は衝撃波の影響がはっきりと現れている。地表の塵芥がなぎ払われ、衝撃波が通ったことを現している。逆にリーザの方、特にリーザの後方にはその影響が薄くしか見受けられない。
クラウスは「まさか」と思ったが、その先は言葉にならなかった。本能は何が起きたかを理解していたが、それを表現する言葉をクラウスの理性は知らなかった。
クラウスが表現出来ないのは無理も無い。この世界ではまだあまり使われていない言葉だからだ。
それは指向性。
指向性とはある箇所から生じた光などのエネルギーの強度が方向によって異なる性質のことである。
リーザは爆発魔法にこの指向性を持たせたのだ。生じる衝撃波を特定方向に集中させられるようにしたのだ。
しかし今のリーザの指向性爆発は彼女が描く理想には程遠い。
その証拠を直後のクラウスが動いて見せた。
クラウスは上半身だけを起こした姿勢のまま、直撃を受けた胸部に手を押し当てた。
鋼の胸当てがほんの少しへこんでいるように感じる以外には違和感は無い。
痛みも無い。胸骨に異常が無いことを確認したクラウスは「すっ」と、勢いよく立ち上がった。
それを見たリーザは、自身わかっていたことであったが、それでも唇をかみ締めた。
そう、この程度の威力しかないのだ。強い突風程度の威力しかない。
その理由もまたリーザはよくわかっていた。
爆発とは急激な圧力の変化を起こし、それを開放することで発生する破壊現象のことだ。
リーザの爆発魔法は光弾の内部で炎魔法を燃焼させて圧力を高め、外殻の破裂によってその圧力を一気に開放させるもの。カルロがラルフに対して使ったものも同じだ。
カルロの爆発魔法がリーザほどの威力を有していない理由は以前述べた通り、カルロの炎の燃焼速度が遅いからである。圧力の増加速度は爆薬の燃焼速度に依存する。
そして先にリーザが放った指向性爆発の原理は至極単純。外殻のある一点の厚みを薄くしただけだ。これによって圧力の開放箇所を一点に絞ろうとしたのだ。
「絞ろうとした」と表現した通り、現実にはそのようになっていない。
確かに圧力の開放はその一点から始まる。が、噴出される炎とそれによって発生した衝撃波が穴を瞬時に押し広げ、圧力の放出は点から扇状に、そして瞬く間に球状に変化してしまうのだ。現状のリーザの指向性爆発魔法は、発生する衝撃波の威力に若干のかたよりがある、という程度である。
察しの良い読者は気付いただろう。球状に変化すると述べた通り、リーザ自身も爆発の衝撃を受けている。
なのにリーザが吹き飛ばない理由も単純。防御魔法を同時に展開しているからだ。しかしそれが指向性爆発魔法の威力を著しく減少させることに繋がってしまっている。
人間が瞬時に扱える魔力量には個人差があるが限界がある。リーザは放出できる魔力の多くを防御にあてている。ゆえに爆発魔法の威力が下がっている。だが防御魔法を展開しないわけにはいかない。自爆してしまうからだ。結局のところ全ての原因は指向性が甘いからである。
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