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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十七話 炎の槍(3)

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   ◆◆◆

「撃て!」

 戦いは弓小隊の隊長が放った一声から始まった。
 屋根の上から大量の矢が飛び出し、降り注ぐ。
 これをリーザ達は真上に展開した防御魔法で受けた。
 矢雨を光る傘で受け止めながら前進。
 リーザ達は広場を目指して大通りを進んでいた。
 隊形は縦隊。数多くの小部隊を縦一列の数珠繋ぎにした形。横に大きく広がれないのでこの形しか選択肢が無い。
 先頭部隊の指揮官を務めるのは最大戦力であるリーザ。
 リーザは防御魔法を頭上に展開したまま、空いている片方の手で反撃の光弾を放った。
 一瞬遅れて周囲の兵士達もそれに習う。
 地に水平に放たれた光弾群は、次々と弓兵がいる民家に炸裂した。
 壁が崩れ、家全体が振動する。
 弓兵達はその衝撃を足に感じながら矢を撃ち返した。
 大量の光弾と矢が飛び交う。
 その応酬は双方の悲鳴無く淡々と続いたが、しばらくして矢雨がぴたりと止んだ。
 屋根が激しく揺れ始めたからだ。
 崩壊する、弓兵の誰かがそう思った瞬間、弓小隊の隊長が口を開いた。

「移動しろ!」

 その鋭い声に、弓兵達は弾かれたかのように動き始めた。
 橋の上を我先に走り抜けていく。
 橋と言ってもただの板切れ。手すりなど無い上に揺れている。
 ちょっとした軽業だ。ゆえに、

「っ!?」

 足を踏み外す者もいる。
 一人の弓兵の姿が軒下へと吸い込まれていった。
 肉が叩き付けられる音が細い路地に響き渡る。
 その嫌な音を耳にしながら、最後の弓兵が橋の上に足を乗せた。
 しかし直後、別の音が最後の弓兵の耳に飛び込んできた。
 それが柱の折れる音だと気付いた瞬間、弓兵の体は浮遊感に包まれた。

「! うわぁ!」

 弓兵は悲鳴を上げたが、その声は民家が崩落する音にかき消された。
 地面に叩き付けられる音も聞こえない。瓦礫の中に飲み込まれたからだ。
 悲惨な光景に生き残った弓兵達が息を呑む。
 士気が消沈するその気配を察した隊長は、部下達に向かって声を上げた。

「攻撃を再開しろ!」

 これに弓兵達は慌てて弓を構え、攻撃を開始した。
 再び始まる光弾と矢の応酬。
 隊長も部下の隣に座って弓を構える。
 弓を引き絞りながら、隊長はある疑問を抱いた。
 それとまったく同じ疑問を他の者達も抱いていた。
 広場にいるクラウスもだ。
 その共通の疑問をクラウスの隣にいるケビンが声に出した。

「……どうやら、敵の総大将は炎を使うことに抵抗があるようですね。街に大きな被害を出したくないのでしょう」

 これにクラウスは頷きを返しながら、口を開いた。

「そのようですな。……だとすれば、ここで全員で待ち受けるよりも別の手を打ったほうがいいでしょうな」

 同意見であったケビンは、「別の手」について口を開いた。

「燃やされないのであれば、上からだけでなく真横からの攻めも加えるべきでしょうね。……家の中に潜伏し、前を通りがかったところを奇襲する、なんてのは良さそうですな」

 ケビンがそう言った直後、広場の後方が騒がしくなった。
 ケビンとクラウスが振り返ると、最後列の部隊が移動を始めているのが目に入った。
 この広場を仕切っている指揮官が小隊長に指示を出しているのも見える。
 何をするつもりなのか――移動を始めた小部隊が左右にある細い路地へと向かっていることに気付いたケビンは口を開いた。

「どうやらここの指揮官殿も同じ考えのようですな」

 細い路地を進めば大通り沿いにある建物に裏口から侵入することが出来る。ケビンが言った奇襲を実行させるつもりなのだろう。
 クラウスは移動する兵士達を眺めながら口を開いた。

「……ケビン殿、我々も動きませぬか?」

 控えめな進言。しかしその顔には力が篭っていた。
 何か良い手を思いついたのだろう。そう思ったケビンはその意を尋ねた。

「何か考えでもあるのですか? 策があるならどうぞおっしゃってください。私から指揮官に上申してみますよ」

 ケビンがそううながすと、クラウスは考えを述べ始めた。

「横からの奇襲と同時に、もう一つ仕掛けてみてはどうかと」
「もう一つ、ですか?」

 尋ねるケビンに、クラウスはその内容を答え始めた。
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