Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十六話 選択と結末(18)

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   ◆◆◆

 その後、リリィはある宿の一室に運び込まれた。
 中に入ることを禁じられたラルフは、その部屋のドアに張り付くように立っている。
 部屋の中からは叫びのような呻き声が聞こえてくる。
 しばらくして、そのドアが開いた。
 そして中から出てきたのはサイラス。
 ラルフは組み付くようにサイラスに迫りながら口を開いた。

「リリィは?!」

 これにサイラスは難しい顔で答えた。

「……すまない。厳しい、としか言えない」

 これを聞いたラルフは「そんな……」と呟きながら後ずさり、廊下の壁に背を預けた後、その場に座り込んだ。
 サイラスはそんなラルフの傍に歩み寄り、目線の高さをあわせるようにしゃがみこんだ。
 そしてサイラスはゆっくりと口を開いた。

「こんな時にこんな話をしていいのか分からないが……」

 サイラスはわざと一呼吸分ほど間を置いてから、遂にそれを話した。

「少し前、君の父上が死んだという情報が私の耳に入った。確かな情報のようだ」

 これにラルフは「え?」という力無くそして情けない声を返した。
 その顔は少し間が抜けている。
 しかしラルフはすぐに表情を変え始めた。
 どうやら理解したようであった。自身の権力と安全を支えている後ろ盾が失われつつあることを。
 認めたくないその事実をサイラスは口に出した。

「状況は反乱軍が優勢のようだ。教会に対して反旗を翻す貴族も増え始めた。……もしかしたら、教会はその力を失うかもしれない」

 これにラルフは焦りと戸惑いの色を濃くした。
 そしてサイラスはそんなラルフに対し畳み掛けた。

「こんな事になってしまって本当に残念だが……ラルフ殿、我々にはまだ道が残されている」

 言いながらサイラスは懐から一枚の紙を取り出し、ラルフの前で広げた。
 紙には茶色い楕円の印が規則正しく並んでいた。
 いずれの楕円にも丸太の年輪のような模様が描かれていることから、ラルフはその茶色の染料が何なのかを見抜いた。
 血だ。この茶色は血が乾いて成った色だ。これは血判状なのだ。
 血判状とは血を印として誓いを立てるためのもの。
 これまでの話の流れから、この血判状に記されている誓いの内容は読まなくても分かった。
 そしてラルフがそれを尋ねるよりも早く、サイラスはそれを述べた。

「誘いが来たのだよ。反乱軍に加わらないか、と」

 うつむいていたラルフの顔が上がり、サイラスと視線が重なる。
 サイラスはその陰気な瞳に向かって言葉を続けた。

「私はこの血判状に名を連ねようと思っている。前にも言った通り、私は今の教会が善い組織であるとは思っていない。何とかしてこの現状を変えなければならないと考えている」

 そしてサイラスはわざと一呼吸分ほど間を置いてから、ようやく本題を述べた。

「……ラルフ殿、あなたの力を私に、いや、我々反乱軍に貸してはもらえないだろうか。この国を善くするためにその力を振るってはもらえないだろうか」
「……」

 ラルフは言葉を返さず、血判状とサイラスの顔を交互に見た。
 何かを待っているような、もう一押しを期待しているかのような表情。
 サイラスはその期待に沿えるであろう言葉をラルフにぶつけた。

「この残酷な世の中は変えなければならない。君の母の無念を晴らすためにも、そして今回のような、リリィのような犠牲を再び生まないためにも」

 この言葉に、ラルフは目を見開いた。
 その瞳には熱が宿りつつある。
 そして閉ざされていた口がゆっくりと開き始めた。
 その重い唇がつむいだラルフの返事は――
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