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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十六話 選択と結末(14)

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 そして、アランは跳び下がりながら輝きを増していくラルフの左手を見つめていた。
 間も無くそこから凄まじい攻撃が繰り出されることが分かっていた。
 しかしその刹那の時間も、今のアランにとってはとても長いものであった。
 アランは自然と奥歯をかみ締めていた。
 緊張しているのだ。本人は気付いていないが。
 だがアランの心は至極冷静。体が少し硬くなった程度にしか感じていない。 
 当然、緊張の原因も分かっていない。
 それは、これからやらなければならないことの難度の高さからであった。
 そして直後、それは遂にラルフの左手から放たれた。

「!」

 それを見たアランは表情を変え始めた。
 迫ってくるものがあまりにも凄まじいからだ。
 台本で知っていたが、それでも驚きを禁じえない。
 まるで光る嵐だ。
 光る矢と針が束となり、うねっている。光る刃の濁流だ。
 そして同時にあれに似ているな、と思った。
 かつて見た、光の剣の暴走によく似ているのだ。
 あの時は避けるしか手が無かった。
 今はそれが出来ない。対抗手段はこの剣一本。

「……」

 恐ろしくゆっくりとした時の流れの中、握り手に力を込めながらアランは足に神経を集中させた。
 そして爪先が地に触れた瞬間、

(今!)

 アランは「あの技」を使った。
 足首と足指の中で星が煌く。
 直後、アランの足首と指は地面を掴むように曲がった。
 爪先が食い込むほどの勢い。
 それを支えとして次の動作へ、膝に対してあの技を使う。
 流れるように次は腰、そして肩。
 一連の動作から生まれた勢いを全て刀に乗せる。

(うぉぉ!)

 アランは体が前に飛び出すであろうほどのその力を、叫びと共に放った。
 刀から一条の閃光が迸る。
 かつてない勢いと力強さを有すその一撃は、嵐に打ち負けることなく、光の濁流を切り裂いていった。
 しかし直後、アランはすぐに刀を引いた。
 一撃では足りないのだ。この濁流を突き払うには、一本では全然足りない。
 続けて二閃、三閃。
 先に見せた三段突きを光る嵐に刺し込む。
 しかしまだ足りない。
 さらにもう一閃。

「!」

 その四本目の閃光を放った瞬間、アランの背に「ぞわり」とした悪寒が走った。
 これは打ち負ける――初撃に乗せた飛び出すような勢いはもう殺されている――下からも来ている――そのような複数の情報がアランの台本から生まれ、脳裏に走った。
 放った閃光が濁流の一部とぶつかり合う。
 直後、台本が警告した通り、アランが放った閃光は打ち負けた。
 刀が弾かれ、光の矢がアランの胸に迫る。
 が、アランはその反動を利用した。弾かれた刀に身を預けながら体勢を変えた。
 迫る矢の軌道から身を逸らしながら、刀を下段に構える。
 そして即座に突き。
 下方に放たれた閃光が突き上げるように迫っていた濁流の一部とぶつかり合う。
 しかしこれも打ち負けた。
 それも当然、アランの足は地に着いていなかった。体が浮いているのだ。
 正確には吹き飛ばされ始めている。
 これでは踏ん張りが利かない。
 そこへ迫る複数の光の束。
 適当なものに打ち込み、その反動を利用して回避しよう――アランがそう考えた瞬間、

「!?」

 それはマズい結果に繋がることを、台本がアランに示した。
 この光の束はリリィに向かっている。

(……っ)

 アランは迷った。
 なぜなら、ここで回避を選ばなければ直後に悲惨な結果を迎えるであろうことも台本は示したからだ。
 しかし、アランはすぐにこの迷いを振り払った。
 迫る光の束に向かって刀を突きこむ。
 弾かれるが、即座に刃を返して再び打ち込む。
 繰り返す。光の束の軌道が変わるまで。
 だが光の束はものともせずに迫ってくる。

(……雄雄ぉっ!)

 瞬間、アランは裂帛の気合を込めた。
 アランの右肩で大きな星が煌く。
 その星は周辺の骨を犠牲にしながら、強い力をアランの刀に与えた。
 剣先から迸る力強い一閃。
 その閃光は迫る光の束を切り裂いた。
 が、

「っ!!」

 突き破られた光の束は小さな矢の群れに変わり、アランの体に次々と突き刺さった。
 激痛が全身に走り、刹那送れて悪寒が背中をなでる。
 悪寒の正体は新たに迫る光の束。
 これを防ぐ手は無い。迎撃も間に合わない。
 光の束がアランの胸を撫でる。
 アランの意識はその直後に消えた。
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