177 / 586
第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十六話 選択と結末(13)
しおりを挟む
「!」
意外な防御からの突進に、ラルフの身が強張る。
だがそれは一瞬。ラルフはすぐに防御魔法を展開した。
後ろに控えているサイラスは左右を警戒。
先と同じようにアランは回り込もうとすると思ったからだ。
しかしアランの考えは違った。
アランの狙いは正面突破。
『台本』はそれが出来ると言っている。
アランは示された単純な筋書きを反芻しながら、刀の先端をある箇所に向けた。
それはラルフが展開する防御魔法の中心点。
その奥にはラルフの右手がある。
アランはその点に向かって刀を突き出し、閃光を奔らせた。
その数はやはり三本。
傍目には一本に見える。重なっている。三本の閃光が全く同じ箇所に向けて放たれたのだ。
一本、二本と突き刺さった閃光は防御魔法の中心点を傷つけ、穿ち、そして三本目で遂に――
「っ!?」
遂に光る壁を貫いた。
右手の甲を串刺しにされたラルフの顔が苦痛に歪む。
直後、その手に走る鋭い痛みが激痛に変わった。
アランが刃を回転させ始めたのだ。
このままだと手を斬り裂かれる――それを恐怖と共に察したラルフは反射的に右手を後ろに引きつつ、ねじられているのと同じ方向に手首を捻った。
刃が右手から「ぬるり」と引き抜かれる。
「っっぅあ!」
その痛みを堪え切れなかったラルフは口から悲鳴を漏らした。
無理も無かった。ラルフの右手親指と人差し指の間には大きな裂傷が出来ていた。
親指と人差し指を別々の手で持って引き裂こうとしたかのような傷。
刀は抜けた。しかしその際、刃はラルフの右手にある生命線をなぞるように切り裂いたのだ。
ラルフの右手から血が噴出し、赤く染まる。
それを見たラルフは思わず左手に魔力を込めた。
その型は閃光魔法。
痛みと恐怖から、ラルフの本能は最大の反撃を選んでいた。
これにラルフの理性が声を上げた。
どこを狙う? 正面は自分の防御魔法で塞がっている、と。
その答えをラルフの本能は既に用意していた。
ラルフの瞳がある箇所を捕える。
それは防御魔法の中心点。
そこに穴が出来ている。
穴はちょうどいい具合に広がりつつある。
さらに防御魔法は回転している。右手から刃を抜く際に、手首を捻ったからだ。
ここに同じ回転を加えた閃光魔法を通せば何が起きるか。本能が語るよりも早く、ラルフの理性はそれを察し、そして行動に移した。
「!」
瞬間、アランは表情を変えた。
ラルフが何を繰り出そうとしているのかを知ったからだ。
しかし驚きは無い。
その顔に浮かんでいる色は迷い。
台本は二つの選択肢を提示していた。
最初に浮かんだのは「避ける」かどうか。
難しくはない。ラルフが放とうとしている攻撃は扇状に広がっていく性質のもの。ゆえに、この近距離であれば横に高速移動するだけで回避出来る。だからアランの顔には恐怖も驚きも無い。
しかしアランはこの選択肢を即座に却下。
なぜなら、後ろにいるリリィが巻き込まれるからだ。
だからアランは真後ろに向かって地を蹴った。
アランは「庇う」という選択肢を選んだのだ。
これは大きな分岐点であった。
この時、アランはラルフに勝つことが、ラルフを倒すことが出来た。
ラルフの最大攻撃を回避しつつ回り込み、そして斬る。それで終わっていた。
しかしアランはそれを選べなかった。この瞬間からアランとラルフの長い因縁が始まったのだ。
この因縁は業が深く、多くの血が流れることになる。
もしもアランがその未来を知っていれば、ここで終わらせていたかもしれない。
しかしアランはラルフと同じようにリリィを選んだ。
だが、それはラルフと同じ理由では無い。
この時のアランの心に「性」の概念は一切無い。リリィが「女」だからというのは一切関係無い。
アランがリリィを庇った理由はアランの本質を示すものだ。リリィと親しいからというだけではない。リリィが優しく、そして弱いから、というのが最大の理由なのだ。
しかし強い魔法使いを倒す機会を逃したことは事実である。後にアランはこの時の選択について思い悩むことになる。
意外な防御からの突進に、ラルフの身が強張る。
だがそれは一瞬。ラルフはすぐに防御魔法を展開した。
後ろに控えているサイラスは左右を警戒。
先と同じようにアランは回り込もうとすると思ったからだ。
しかしアランの考えは違った。
アランの狙いは正面突破。
『台本』はそれが出来ると言っている。
アランは示された単純な筋書きを反芻しながら、刀の先端をある箇所に向けた。
それはラルフが展開する防御魔法の中心点。
その奥にはラルフの右手がある。
アランはその点に向かって刀を突き出し、閃光を奔らせた。
その数はやはり三本。
傍目には一本に見える。重なっている。三本の閃光が全く同じ箇所に向けて放たれたのだ。
一本、二本と突き刺さった閃光は防御魔法の中心点を傷つけ、穿ち、そして三本目で遂に――
「っ!?」
遂に光る壁を貫いた。
右手の甲を串刺しにされたラルフの顔が苦痛に歪む。
直後、その手に走る鋭い痛みが激痛に変わった。
アランが刃を回転させ始めたのだ。
このままだと手を斬り裂かれる――それを恐怖と共に察したラルフは反射的に右手を後ろに引きつつ、ねじられているのと同じ方向に手首を捻った。
刃が右手から「ぬるり」と引き抜かれる。
「っっぅあ!」
その痛みを堪え切れなかったラルフは口から悲鳴を漏らした。
無理も無かった。ラルフの右手親指と人差し指の間には大きな裂傷が出来ていた。
親指と人差し指を別々の手で持って引き裂こうとしたかのような傷。
刀は抜けた。しかしその際、刃はラルフの右手にある生命線をなぞるように切り裂いたのだ。
ラルフの右手から血が噴出し、赤く染まる。
それを見たラルフは思わず左手に魔力を込めた。
その型は閃光魔法。
痛みと恐怖から、ラルフの本能は最大の反撃を選んでいた。
これにラルフの理性が声を上げた。
どこを狙う? 正面は自分の防御魔法で塞がっている、と。
その答えをラルフの本能は既に用意していた。
ラルフの瞳がある箇所を捕える。
それは防御魔法の中心点。
そこに穴が出来ている。
穴はちょうどいい具合に広がりつつある。
さらに防御魔法は回転している。右手から刃を抜く際に、手首を捻ったからだ。
ここに同じ回転を加えた閃光魔法を通せば何が起きるか。本能が語るよりも早く、ラルフの理性はそれを察し、そして行動に移した。
「!」
瞬間、アランは表情を変えた。
ラルフが何を繰り出そうとしているのかを知ったからだ。
しかし驚きは無い。
その顔に浮かんでいる色は迷い。
台本は二つの選択肢を提示していた。
最初に浮かんだのは「避ける」かどうか。
難しくはない。ラルフが放とうとしている攻撃は扇状に広がっていく性質のもの。ゆえに、この近距離であれば横に高速移動するだけで回避出来る。だからアランの顔には恐怖も驚きも無い。
しかしアランはこの選択肢を即座に却下。
なぜなら、後ろにいるリリィが巻き込まれるからだ。
だからアランは真後ろに向かって地を蹴った。
アランは「庇う」という選択肢を選んだのだ。
これは大きな分岐点であった。
この時、アランはラルフに勝つことが、ラルフを倒すことが出来た。
ラルフの最大攻撃を回避しつつ回り込み、そして斬る。それで終わっていた。
しかしアランはそれを選べなかった。この瞬間からアランとラルフの長い因縁が始まったのだ。
この因縁は業が深く、多くの血が流れることになる。
もしもアランがその未来を知っていれば、ここで終わらせていたかもしれない。
しかしアランはラルフと同じようにリリィを選んだ。
だが、それはラルフと同じ理由では無い。
この時のアランの心に「性」の概念は一切無い。リリィが「女」だからというのは一切関係無い。
アランがリリィを庇った理由はアランの本質を示すものだ。リリィと親しいからというだけではない。リリィが優しく、そして弱いから、というのが最大の理由なのだ。
しかし強い魔法使いを倒す機会を逃したことは事実である。後にアランはこの時の選択について思い悩むことになる。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる