Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
上 下
170 / 586
第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十六話 選択と結末(6)

しおりを挟む
 敵兵達の意識が出てきたアランに集まる。
 対するアランは二人の意識にだけ注目した。
 それはラルフとサイラス。
 ラルフはアランの方を見ている。
 一方、サイラスはラルフが空けた穴の方を見ていた。
 サイラスは今のラルフの攻撃でリリィがどうなったのかを気にしていた。

(ここからではリリィの姿が見えんな。ラルフも気付いていないようだ)

 サイラスはあることを期待していた。

(ラルフの攻撃でリリィが死んでくれれば後が楽になりそうだな。重傷でも悪くない。ラルフの感情が乱れるならばどんな結果でも歓迎だ)

 そんなことを考えた後、サイラスはアランの方に視線を移した。

(アランは捕虜になったと聞いていたが、クラウスもそこにいるのか。奇妙な縁だな、まったく)

 再会の場が同じ師から剣を学んだ収容所であることが、その奇妙さを増していた。
 そして兵士達とラルフ、それとサイラスに見つめられながら、アランは構えた。
 それが合図になったかのように、兵士達が光弾を放ち始める。
 アランという小さな点に向かって次々と伸びる大量の光の線。
 アランは動かない。ただ一つ変わったことは、刃が発光を始めたことだけ。
 アランはその光る刀の先端を、目前に迫る光弾の方に向けた。
 そして、刀の切っ先が光弾に触れる寸前、アランは刀を少し下げた。
 結果、光弾は刀の先端に突き刺さることなく、斜めになった刃の上に乗った。
 その光弾の重みを感じたと同時に手首を捻り、刀の先端を上に向ける。
 下から押し上げたことで光弾の軌道が上向き、飛び立つように刃の上から離れる。
 そして、アランはその反動を利用して体を僅かに屈めた。
 次の瞬間、直前まで頭があった位置を別の光弾が通り過ぎていく。
 下がった姿勢を戻しながら、次の光弾を受け、流す。
 その際、先と同じように反動を利用して体の位置をずらし、別の光弾を避ける。
 一連の防御を三度繰り返した頃には、アランに迫っていた光弾は全て後ろに通り過ぎていた。

「……」

 場に再びの静寂が訪れる。
 兵士達はまたも驚いていた。
 それも当然、先の防御にアランが要した時間はたったの二秒である。
 傍目には剣を前に突き出していただけにしか見えない。
 三つの光弾の軌道が変わったことを認識出来たものは僅か。ほとんどの者は光弾がアランをすり抜けたように見えている。

「……」

 先ほどは攻撃に参加しなかったラルフも同じ表情をしている。
 そんな静けさの中、サイラスだけは違う表情を浮かべていた。

(クラウスが教えたのだろうな。師の型に似ている……憎らしいぐらいに)

 サイラスは懐かしさを感じていた。
 刃を盾とする防御は師も使っていた。師は魔法を使えなかったので、アランのような「流す」防御では無く、「切り払う」ことのほうが多かったが。
 だからか、師は厚みのある剣を、強度と重量のある剣を愛用していた。
 思い返せば、師はこの収容所でも特別な存在だった。
 ここの乱暴な兵士達でさえも師に対しては距離を取っていた。
 なぜか? 強かったからだ。
 今でも覚えている。この収容所で行われた「試験」で見せた師の動きを。
 圧倒的だった。師は試験管を瞬く間に切り伏せた。
 殺しはしなかった。後の事を考えたのだろう。
 そして私とクラウスも同じ試験に参加し、そして勝った。
 だが、私とクラウスの勝利は師のような鮮やかなものでは無かった。特に、クラウスとは違って光魔法が使えない私の方は、勝てたのが奇跡と思えるような内容だった。
 しかし―――それなのに、師は収容所から出ることを許されなかった。私とクラウスは出られたのにだ。
 当時の試合の審判員であり、私を拾った雇い主でもあるヨハンに、そのことを尋ねたことがある。
 直後、ヨハンの口から出た内容は、まだ若かった当時の私には衝撃的だった。
 ヨハンの答えはこうだ。

「彼は出られんよ。魔法能力に目覚めない限りな。……少し考えれば分かるだろう。『魔法使いよりも強い無能力者が存在する』、この事実は教会にとって都合が悪いことだと」

 これを聞いた時、その場で「ふざけるな」と言いそうになったことを覚えている。教会にとって重要なのは「魔法が使えるかどうか」だけで、「強いか弱いか」では無かったのだ。おかしな話だ。収容所内では強弱の関係をふりかざして地獄の所業が行われているというのに。
 その後、私は反乱を引き起こし、師はその総大将を務めることになった。
 そして師はヨハンと戦い、閃光魔法に貫かれた。
 あの戦いを思い出すたびに私はやり場の無い感情を抱く。

(ああ武の神よ、なぜ、なぜ我が師に勝利を与えてくれなかったのか)

 問いながら、サイラスの理性はその答えを導き出していた。

(……神に尋ねるまでも無いことだったな。分かっている。あの戦いは師のほうが分が悪かった。師の動きは速かったが、ヨハンの目と閃光魔法から逃れられるほどでは無かった。そして防ぐ手段もあの時の師には無かった)

 戦いというものは現実を見せ付けてくる。残酷なほどに。
 戦う場所が悪かったせいもある。遮蔽物の多い所で戦うべきだった。ヨハンと対峙した時点で相当の傷を負っていたのもあるだろう。
「こうだったら勝っていたかもしれない」、そんな事を考えても過去が変わるわけでは無い。……が、その思考の積み重ねは未来に生かすことが出来る。

(……だから私は反省し、準備してきたのだ)

 かつて抱いた決意とその過程を振り返ったサイラスは、意識を目の前の戦いに戻した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...