169 / 586
第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十六話 選択と結末(5)
しおりを挟む
◆◆◆
その後、事はフレディが想像した通りになった。
アラン達の足は門の近くで止まってしまった。
この門は収容所唯一の出入り口である。これを通る以外の脱出方法は壁を乗り越えるか破るしかないのだが、はしごのようなものは収容所内に存在せず、そして壁を破る力もアラン達には無い。
そしてその門前には新たな部隊が陣取り、道を塞いでいた。
それはサイラスとラルフ達。
アラン達は間に合わなかったのだ。アランはこの部隊が収容所に辿り着く前に脱出する算段であった。しかしリリィの足が遅くなったことで、その予定が狂ってしまったのだ。
アランは物陰に身を隠しながら、様子をうかがっていた。
(あの部隊を力ずくで突破することは不可能に近い)
収容所内に散開してくれればその好機が訪れるかもしれない、アランはそんな事を期待していたが、門の前に陣取る部隊は動く気配を全く見せなかった。
そしてアランはある事に気がついた。
(あの男……確かサイラスといったか? なぜ、あいつは空を見ている?)
指揮官らしき男、サイラスの意識の向きが妙なのだ。
サイラスの意識は上へ向いている。
この状況で鳥を眺めているとは思えない。
一体何を――アランがそう思った瞬間、事は始まった。
「!」
直後、アランは振り返った。
感じ取ったのだ。後方にいる男が、リリィを撃ったあの男が動き出した事を。
男は、フレディは再び矢を構え、そして放った。
その方向は、
(上?!)
であった。
これが何を意味するのか、アランはすぐに察した。
空を眺めていたサイラスの意識がその矢の存在を捉える。
その矢は、アラン達が隠れている場所のすぐ傍に落ちた。
サイラスの意識が隠れているアランの方に向く。
そしてサイラスは口を開いた。
「そこに敵が隠れているぞ!」
サイラスは「敵」と表現した。隠れている者がこの収容所に囚われているただの無能力者かもしれないのに。
その声から刹那遅れて、兵士達の意識が一斉にアラン達の方に向く。
ラルフの意識も同様だ。
前列にいる兵士達が手を前にかざし、攻撃態勢を取る。
「撃て」という命令が発せられればすぐに実行できる構えである。
しかし、サイラスはその命令をすぐには出さなかった。
サイラスは横目にラルフの様子をうかがっていた。
そして、ラルフはサイラスが期待した通りに動いた。
サイラスの傍を離れ、前列に歩み出たのだ。
そこまで待ってから、サイラスはようやく声を上げた。
「撃て!」
兵士達の手が、ラルフの手が眩く発光する。
そしてそれらの手から光弾が放たれるよりも一瞬早く、壁の向こうにいるアランが動いた。
「危ない!」
アランはそう叫びながらリリィとクラウスを突き飛ばし、自身は逆の方向に飛んだ。
直後、兵士達の手から光弾が放たれる。
アランは当然それらを察知していたが、アランの意識はその中のある一つにのみ向けられていた。
それはラルフが放った光弾。
そのひときわ大きい光弾が壁に激突した瞬間、
「っ!」
アラン達の耳を轟音が襲った。
轟音は二つ。
一つはアラン達が隠れている壁を貫いたものだ。
もう一つはさらに奥にある壁に穴を空けたことによるもの。
ラルフが放った光弾は二枚の石壁を抜いたのだ。
「……」
その尋常では無い威力に、リリィは恐怖を通り越したような表情を浮かべた。
「……」
そしてそれは敵兵達も同じだったらしく、場は奇妙な静寂に包まれた。
この静寂を破ったのはアラン。
アランはクラウスに向かって声を上げた。
「クラウスはここに残れ!」
その言葉がリリィを守れという命令であることをクラウスは瞬時に察したが、異を唱えずにはいられなかったため口を開いた。
「しかしアラン様!」
無謀すぎる、という意を含めた当然の反論。
これにアランは即座に答えた。
「俺では防御魔法を張れない!」
リリィの盾になれるのはお前しかいない、という意を込めた言葉。
「……」
その答えにクラウスは何も返せなかった。
そしてアランはクラウスに背を向け、無謀の場に飛び出した。
その後、事はフレディが想像した通りになった。
アラン達の足は門の近くで止まってしまった。
この門は収容所唯一の出入り口である。これを通る以外の脱出方法は壁を乗り越えるか破るしかないのだが、はしごのようなものは収容所内に存在せず、そして壁を破る力もアラン達には無い。
そしてその門前には新たな部隊が陣取り、道を塞いでいた。
それはサイラスとラルフ達。
アラン達は間に合わなかったのだ。アランはこの部隊が収容所に辿り着く前に脱出する算段であった。しかしリリィの足が遅くなったことで、その予定が狂ってしまったのだ。
アランは物陰に身を隠しながら、様子をうかがっていた。
(あの部隊を力ずくで突破することは不可能に近い)
収容所内に散開してくれればその好機が訪れるかもしれない、アランはそんな事を期待していたが、門の前に陣取る部隊は動く気配を全く見せなかった。
そしてアランはある事に気がついた。
(あの男……確かサイラスといったか? なぜ、あいつは空を見ている?)
指揮官らしき男、サイラスの意識の向きが妙なのだ。
サイラスの意識は上へ向いている。
この状況で鳥を眺めているとは思えない。
一体何を――アランがそう思った瞬間、事は始まった。
「!」
直後、アランは振り返った。
感じ取ったのだ。後方にいる男が、リリィを撃ったあの男が動き出した事を。
男は、フレディは再び矢を構え、そして放った。
その方向は、
(上?!)
であった。
これが何を意味するのか、アランはすぐに察した。
空を眺めていたサイラスの意識がその矢の存在を捉える。
その矢は、アラン達が隠れている場所のすぐ傍に落ちた。
サイラスの意識が隠れているアランの方に向く。
そしてサイラスは口を開いた。
「そこに敵が隠れているぞ!」
サイラスは「敵」と表現した。隠れている者がこの収容所に囚われているただの無能力者かもしれないのに。
その声から刹那遅れて、兵士達の意識が一斉にアラン達の方に向く。
ラルフの意識も同様だ。
前列にいる兵士達が手を前にかざし、攻撃態勢を取る。
「撃て」という命令が発せられればすぐに実行できる構えである。
しかし、サイラスはその命令をすぐには出さなかった。
サイラスは横目にラルフの様子をうかがっていた。
そして、ラルフはサイラスが期待した通りに動いた。
サイラスの傍を離れ、前列に歩み出たのだ。
そこまで待ってから、サイラスはようやく声を上げた。
「撃て!」
兵士達の手が、ラルフの手が眩く発光する。
そしてそれらの手から光弾が放たれるよりも一瞬早く、壁の向こうにいるアランが動いた。
「危ない!」
アランはそう叫びながらリリィとクラウスを突き飛ばし、自身は逆の方向に飛んだ。
直後、兵士達の手から光弾が放たれる。
アランは当然それらを察知していたが、アランの意識はその中のある一つにのみ向けられていた。
それはラルフが放った光弾。
そのひときわ大きい光弾が壁に激突した瞬間、
「っ!」
アラン達の耳を轟音が襲った。
轟音は二つ。
一つはアラン達が隠れている壁を貫いたものだ。
もう一つはさらに奥にある壁に穴を空けたことによるもの。
ラルフが放った光弾は二枚の石壁を抜いたのだ。
「……」
その尋常では無い威力に、リリィは恐怖を通り越したような表情を浮かべた。
「……」
そしてそれは敵兵達も同じだったらしく、場は奇妙な静寂に包まれた。
この静寂を破ったのはアラン。
アランはクラウスに向かって声を上げた。
「クラウスはここに残れ!」
その言葉がリリィを守れという命令であることをクラウスは瞬時に察したが、異を唱えずにはいられなかったため口を開いた。
「しかしアラン様!」
無謀すぎる、という意を含めた当然の反論。
これにアランは即座に答えた。
「俺では防御魔法を張れない!」
リリィの盾になれるのはお前しかいない、という意を込めた言葉。
「……」
その答えにクラウスは何も返せなかった。
そしてアランはクラウスに背を向け、無謀の場に飛び出した。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる