Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十六話 選択と結末(3)

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 しかも、もうすぐそこだ。
 今から部屋を出ても鉢合わせることになる。そんな距離。
 隠れなければと思ったが、身を隠せる場所はこの部屋には無い。
 だからリリィの足はその場ですくんでしまった。
 迫るその者の足音がドアの前で止まり、取っ手に手をかける音がリリィの耳に届く。
 リリィは無意識のうちに持ち込んでいた石を両手で握り締めた。
 ドアが開いたと同時にこの石を思いっきり叩き付けてやろう、そう考えたリリィが両手を振り上げた瞬間、

「待て、リリィ! その人は敵じゃない!」

 廊下の奥から、アランの叫び声が届いた。
 アランは続けて廊下に声を響かせた。

「ここだクラウス! 一番奥の部屋だ!」

 直後、ドアの前から気配が消え、廊下を奥へ走る音がリリィの耳に届いた。
 その足音を追うように、リリィが廊下へ飛び出す。
 すると、アランが閉じ込められている独房の前に一人の男が立っているのがリリィの目に入った。
 その男は「がんがん」と、右拳でドアのあちこちを叩いていた。
 鍵が置いてある部屋のドアとは違う音だ。そのドアは木製では無く鉄板で出来ている。腕力だけで突破出来る代物では無い。
 なのにクラウスと呼ばれたその男は、腰に差していた刀を抜き、ドアの前で身構えた。
 まさか、その剣でどうにかするつもりなのだろうか、とリリィは疑った。
 そのまさかであった。
 クラウスは鉄板の厚さと各部の強度を確かめるためにドアを叩いていた。
 その時に、クラウスはある箇所を見て「やれる」と踏んだ。
 それは取っ手のすぐ隣にある、ドアと壁の間にある隙間。
 その隙間に棒状のものがあるのが見える。
 ドアと壁を繋いでいる鍵だ。
 クラウスはその棒状のものが覗き見える細い隙間に向かって、刀の先端を突きつけた。
 狙いを定めながら剣を握る手に魔力を込める。
 そして刃が発光を始めた瞬間、

「はっ!」

 気勢と共に、クラウスは刀を突き出した。
 甲高い音と火花を発生させながら、刃の先端が隙間に突き刺さる。
 直後、壁との繋がりを失ったドアは、錆び付いた音を立てながらゆっくりと開き始めた。

「アラン様!」

 その緩慢な動作を待っていられないクラウスは、主人の名を呼びながらドアを乱暴に引き開けた。
 クラウスの目にアランの姿が映りこむ。
 探していた主人は汚いベッドの上に拘束されている。その体には包帯が巻かれており痛々しい。
 しかし、クラウスはなによりもまずアランの足元を注視した。
 そしてクラウスは安堵した。ちゃんと足があるからだ。
 が、視線を上に向けた瞬間、その安堵は消えた。

(目が焼かれている)

 同時にクラウスは理解した。なぜアランの足が無事だったのかを。ここの連中は足の代わりに目を奪ったのだ。
 残酷である。が、クラウスの心には怒りも絶望も無かった。
 足を失っているよりはマシだと思ったからだ。ここから脱出するならば目よりも足があるほうが有利だ。
 だからクラウスは表情を変えず、光る刀で淡々とアランの拘束を断ち切った。
 開放されたアランが声を上げる。

「すまないクラウス、それとリリィも! 助かった!」

 そしてベッドから降りたアランに、クラウスは背負っていた荷物を差し出した。

「アラン様、これを!」

 それは細長い麻袋。
 形状から察したアランは、受け取った袋の中身を勢い良く引き出した。
 現れたのはやはりクラウスが持っているものと同じ刀。
 アランはすかさず刃に魔力を流し、

(これは……俺の刀!)

 先端に魔力が偏る感覚から、手にある刀が親方の形見のものであることを確信した。
 そして、アランは刃を光らせたまま声を上げた。

「急いで脱出しよう!」

 当然の発言にクラウスが口を開く。

「お手を、アラン様。私が先導します」

 目が見えない相手に対する当然の提案である。
 が、アランは首を振った。

「いや、必要無い! 俺が先頭に立つ。二人とも付いて来てくれ!」

 さらに自分が前を歩くという。
 これをクラウスは、

「……わかりました」

 承諾した。少し間を要したが。
 クラウスはアランが持つ神秘を認め、理解しつつあった。
 先ほどもそうだった。アラン様は目が見えないのに、差し出した剣を戸惑い無く受け取った。
 さらに決定的なのは自分の居場所を叫んだことだ。
 よく考えればこれはとんでもないことだ。アラン様はどうやって私が近くにいることを認識したのか。ベッドに拘束されていたから廊下を覗き見ていたというのはありえない。
 目が無くても見えるどころでは無い。アラン様は見えないところも見えている。そうとしか思えない。
 クラウスはそう考え、自分を納得させた。
 対し、リリィは困惑した表情を浮かべていた。
 奇妙な事が起きているという程度の認識しか、この時のリリィには無かった。
 アランはそれを察していたが、今は説明する時間は無いと判断し、

「よし、行くぞ!」

 声を上げながら、我先に部屋を飛び出した。
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