Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十六話 選択と結末(2)

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   ◆◆◆

 その異常を収容所の作業場にいたリリィも感じ取っていた。

(何の音……?)

 リリィの耳には地鳴りのような音が絶え間なく届いていた。
 それは次第に鮮明になり、大勢の走る音であることがすぐに分かった。
 そしてそれに応じるかのように収容所の中も慌しくなっていった。
 兵士達が廊下を走る。
 異常事態であることは間違いない。しかし物騒なことにはならないだろうと、リリィは思っていた。次の瞬間までは。

(!?)

 直後、耳に飛び込んできた新しい音に、リリィは肩を震わせた。
 それは衝突音。
 何かが大量にぶつかる音が門の方から鳴り始めたのだ。
 これに廊下を走る兵士達は声を上げた。

「何が起きている!?」

 年配の兵士が放った質問に、門の方にいる誰かが答えた。

「攻撃を受けている!」

 これを聞いた老兵士は併走していた別の者の肩を掴み、その場に引き止めながら声を上げた。

「お前はそこにいる無能共を収容所の隅に移動させろ! 私は他をあたる!」

 この老兵士には何が起きているのかが分かっていた。
 なぜならば二度目だからだ。この老兵士はサイラスが以前起こした反乱を経験していた。だからすぐに対応出来るのだ。
 そして、指示を受けた兵士はリリィ達の方に向き直りながら声を上げた。

「全員作業を中断! 私についてこい!」

 従うしかないリリィは、素直に席から立ち上がった。

   ◆◆◆

 移動させられたリリィ達は、兵士の監視のもと、黙って事の流れを見守るしか無かった。
 しばらくして、門が破られたような音がリリィの耳に入った。
 そして次に戦闘音が耳に入るようになった。
 怒声と悲鳴が収容所内で響くようになり、戦闘音は徐々にリリィ達のほうに近づいてきた。
 それはつまり、収容所を守る兵士達が押し込まれているということであり、劣勢であるということを示していた。
 戦闘音が近づくほどにリリィを監視していた兵士達が一人、また一人と場から離れていった。
 そして怒声が間近に聞こえるようになった頃には、リリィ達を監視している兵はたったの三人になっていた。
 瞬間、リリィの心に一つの心配事が浮きあがった。

(……このままだとアランはどうなるの? 無事で済むの?)

 それと同時に、リリィの心はある一つの望ましい未来を描いた。
 そしてリリィは気付いた。それを成す好機が訪れていることを。
 監視はたったの三人。これならば隙を見てこの場から離れることが出来る。
 リリィは三人の視線を注意深く伺い、逃げる隙が生まれるのを待った。
 そしてそれは直後に訪れた。

「!? おい! 待て!」

 三人が同じ方向を向いたのだ。
 その視線の先には、走り出した奴隷達の姿があった。
 リリィと同じ事を考え、実行したのだ。
 そして、リリィの足も直後に動き出していた。
 しかしその足の向きは違っていた。
 リリィが目指す場所は独房。アランが閉じ込められている場所であった。

   ◆◆◆

 幸いにも、リリィ達が移動させられた場所はアランがいる独房のすぐ傍であった。
 だからリリィは戦闘に巻き込まれることなく、目的の場所に辿り着くことが出来た。
 が、リリィの足はその独房の前で止まっていた。
 リリィは物陰に隠れながら、独房の前を凝視していた。

(見張りがまだ残っている……!)

 数は一人しか見えない。
 しかし、魔法が使えない上に細腕のリリィでは、たった一人相手でも正面からでは勝ち目が無い。
 だからか、リリィは無意識のうちに武器を、拳ほどの大きさの石を拾っていた。
 だがこれは出来れば使わずに事を済ませたい。
 ゆえにリリィは行動を起こせなかった。物陰から様子を見ることしか出来なかった。
 兵士はそわそわしている。戦闘音が気になるのだろう。
 しばらくして、すぐ傍から聞こえてきた悲鳴と、

「誰か!」

 という助けを求める声に、見張りの兵はとうとう走り出し、その場から離れた。
 当然、その隙を突いてリリィが棟の中に入る。
 リリィの目に一直線の廊下と、それに沿って並ぶ四つのドアが映りこんだ。
 アランが閉じ込められている部屋は一番奥だ。
 しかし、リリィはまず一番手前にある木製のドアを開いた。
 この部屋に鍵が置かれているからだ。兵士がこの中に鍵を取りに行っていたのを何度も見て知っている。
 しかし部屋のどこに鍵があるのかは知らない。だからリリィは棚を片っ端から空けた。
 が、

(……無い?! どこにも無い!)

 どの棚にも、部屋のどこにも見当たらないのだ。
 リリィの心に一つの悪い推測が浮かんだ。

(……まさか、さっきの兵士が持っている?!)

 先ほどまでそこにいたあの見張りが、鍵をあるべき場所に置いておかず、勝手に持ち歩いているのではないか。
 リリィがそんな事を考えた瞬間、さらに悪いことが起きた。

(……足音?!)

 誰かがここに近づいてきているのだ。
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