151 / 586
第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十四話 武技乱舞(7)
しおりを挟む
そして壁の残骸を乗り越えたバージルは声を上げた。
「ヨハン!」
目標の名を叫ぶ。
これで相手が足が止めてくれるなどとは思っていない。ただ威圧したかっただけである。相手の心に声を叩き付けたいだけなのだ。
直後、その声に応えるかのように、バージルの前方に三人の魔法使いが姿を現した。
ヨハンの側近だ。
これにバージルは自身の心が昂ぶるのを感じた。
ここに重要戦力である側近を置いていったということは、ヨハンが近くにいるか、またはかなり焦っているということ。
ヨハンを追い詰めている、その昂ぶる事実に身を委ねたバージルは走りながら構えた。
足を前に出しながら槍斧を水平に一閃。
斧頭が描いた三日月の軌跡が光る刃となって放たれる。
対する三人の構えは防御。
身を寄せ合いながら前にかざした手を重ね合わせ、防御魔法を合体させる。
三つの手の平から作り出された目に眩いほどの防御魔法。バージルが作り出す光の壁と同等に見える。
バージルが放った三日月はその壁にわずかに食い込んだが、
「!」
直後、三日月は甲高い音を発しながら砕け散った。
軽く止められたように見えた。我が三日月の力はアンナが放ったあれには遠く及んでいないということが明らかになった。
ならば、と、バージルは光の壁を展開。
三人が放つ反撃の光弾を受け止めながら突進。
そして、あと三歩でぶつかり合う、というところまで距離が詰まった瞬間、
「ぐっ!?」
バージルの体が大きくよろめいた。
原因は真横から飛んで来た光弾。
威力からして目の前にいる側近が放ったものだ。
どうやって? その答えは今まで提示されてきたものと同じ、跳弾だ。この三人は閃光魔法以外なら大抵のことは出来るのだ。
しかしバージルはすぐに体勢を立て直した。
幸運にも槍斧に当たっていたからだ。
いや、不運かもしれない。
バージルは気付いていない。自身の槍斧に亀裂が入ってしまったことを。
自身の武器が限界を迎えたことも知らぬまま、バージルは光の壁を三人が展開する防御魔法にぶつけた。
瞬間、バージルの足がぴたりと止まった。
互角であった。持続力は分からないが、硬度は間違いなく同等。
押し合うだけの膠着状態である。が、バージルはこのままでいいと思っていた。
その理由はすぐに明らかになった。
バージルの背後に二つの影が迫っている。
クレアとリックだ。
その足音に側近達も気が付いた。
僅かに先行していたクレアがバージルの左横を駆け抜ける。
バージルから見て左側に立つ側近は、自身の視界にクレアの姿が映ったと同時に、右手をかざした。
しかし遅い。その手の平が発光し始めるよりも早く、クレアが一閃。
肘関節への一撃。クレアは自身の指先が相手の肘に触れたと同時に、そこから魔力を発散させた。
「っっ!」
指と肘の接点が眩く輝き、側近の顔が苦悶に歪む。
側近の腕は嫌な音を立てながらありえない方向へ曲がり折れた。
ここでクレアは手を止め、反対側に回り込んだリックの方をちらりと見た。
リックは相手の動きを関節技で封じていた。
バージルから見て右側に立つ側近から左手を向けられたリックは、目にも留まらぬ速さでその左腕を掴み、捻ったのだ。
そしてリックはその手の平が空の方へ向くように捻り上げつつ、相手の脇の下に入り込んだ。
これで相手はもう何も出来ない。左手から光弾を放っても空に向かって飛ぶだけだ。防御魔法を展開しても同じ。脇の下に潜り込んでいるから接触することは無い。そして右手のほうはバージルを食い止めるために光の壁を維持し続けなければならない。
安全を確保したリックはクレアと目を合わせ、「いつでもどうぞ」という意思を返した。
それを察したクレアは声を上げた。
「中段!」
攻撃箇所の指定である。
しかし中段は広い。打つにしても選択肢は一つでは無い。
にもかかわらずクレアがそう指示したのは、中段ならどこを打ってもいいと判断したからだ。
その中からクレア自身はみぞおちを選んだ。
そして、リックの深層意識はそれをしっかりと読み取っている。
必然的に二人の型は同じものとなった。
「「破っ!」」
左右から挟みこむように放たれたリックとクレアの突きが、側近のみぞおちにめりこむ。
リックとクレアの腕を棒と見立てて三人を串刺しにしているかのような形。
クレアとリックの手に内臓を破壊する感触が伝わった。
打たれた二人の顔が苦悶に歪み、展開している協力魔法の輝きが弱まる。
それを確認したクレアとリックは同時に後方へ飛び退いた。
その直後、膠着状態は崩れた。
バージルの光の壁が協力魔法を押し破り、後ろにいた三人を撥ね飛ばしたのだ。
そしてバージルは地の上を滑る三人に向かって槍斧を構えた。
追い討ちである。
「ヨハン!」
目標の名を叫ぶ。
これで相手が足が止めてくれるなどとは思っていない。ただ威圧したかっただけである。相手の心に声を叩き付けたいだけなのだ。
直後、その声に応えるかのように、バージルの前方に三人の魔法使いが姿を現した。
ヨハンの側近だ。
これにバージルは自身の心が昂ぶるのを感じた。
ここに重要戦力である側近を置いていったということは、ヨハンが近くにいるか、またはかなり焦っているということ。
ヨハンを追い詰めている、その昂ぶる事実に身を委ねたバージルは走りながら構えた。
足を前に出しながら槍斧を水平に一閃。
斧頭が描いた三日月の軌跡が光る刃となって放たれる。
対する三人の構えは防御。
身を寄せ合いながら前にかざした手を重ね合わせ、防御魔法を合体させる。
三つの手の平から作り出された目に眩いほどの防御魔法。バージルが作り出す光の壁と同等に見える。
バージルが放った三日月はその壁にわずかに食い込んだが、
「!」
直後、三日月は甲高い音を発しながら砕け散った。
軽く止められたように見えた。我が三日月の力はアンナが放ったあれには遠く及んでいないということが明らかになった。
ならば、と、バージルは光の壁を展開。
三人が放つ反撃の光弾を受け止めながら突進。
そして、あと三歩でぶつかり合う、というところまで距離が詰まった瞬間、
「ぐっ!?」
バージルの体が大きくよろめいた。
原因は真横から飛んで来た光弾。
威力からして目の前にいる側近が放ったものだ。
どうやって? その答えは今まで提示されてきたものと同じ、跳弾だ。この三人は閃光魔法以外なら大抵のことは出来るのだ。
しかしバージルはすぐに体勢を立て直した。
幸運にも槍斧に当たっていたからだ。
いや、不運かもしれない。
バージルは気付いていない。自身の槍斧に亀裂が入ってしまったことを。
自身の武器が限界を迎えたことも知らぬまま、バージルは光の壁を三人が展開する防御魔法にぶつけた。
瞬間、バージルの足がぴたりと止まった。
互角であった。持続力は分からないが、硬度は間違いなく同等。
押し合うだけの膠着状態である。が、バージルはこのままでいいと思っていた。
その理由はすぐに明らかになった。
バージルの背後に二つの影が迫っている。
クレアとリックだ。
その足音に側近達も気が付いた。
僅かに先行していたクレアがバージルの左横を駆け抜ける。
バージルから見て左側に立つ側近は、自身の視界にクレアの姿が映ったと同時に、右手をかざした。
しかし遅い。その手の平が発光し始めるよりも早く、クレアが一閃。
肘関節への一撃。クレアは自身の指先が相手の肘に触れたと同時に、そこから魔力を発散させた。
「っっ!」
指と肘の接点が眩く輝き、側近の顔が苦悶に歪む。
側近の腕は嫌な音を立てながらありえない方向へ曲がり折れた。
ここでクレアは手を止め、反対側に回り込んだリックの方をちらりと見た。
リックは相手の動きを関節技で封じていた。
バージルから見て右側に立つ側近から左手を向けられたリックは、目にも留まらぬ速さでその左腕を掴み、捻ったのだ。
そしてリックはその手の平が空の方へ向くように捻り上げつつ、相手の脇の下に入り込んだ。
これで相手はもう何も出来ない。左手から光弾を放っても空に向かって飛ぶだけだ。防御魔法を展開しても同じ。脇の下に潜り込んでいるから接触することは無い。そして右手のほうはバージルを食い止めるために光の壁を維持し続けなければならない。
安全を確保したリックはクレアと目を合わせ、「いつでもどうぞ」という意思を返した。
それを察したクレアは声を上げた。
「中段!」
攻撃箇所の指定である。
しかし中段は広い。打つにしても選択肢は一つでは無い。
にもかかわらずクレアがそう指示したのは、中段ならどこを打ってもいいと判断したからだ。
その中からクレア自身はみぞおちを選んだ。
そして、リックの深層意識はそれをしっかりと読み取っている。
必然的に二人の型は同じものとなった。
「「破っ!」」
左右から挟みこむように放たれたリックとクレアの突きが、側近のみぞおちにめりこむ。
リックとクレアの腕を棒と見立てて三人を串刺しにしているかのような形。
クレアとリックの手に内臓を破壊する感触が伝わった。
打たれた二人の顔が苦悶に歪み、展開している協力魔法の輝きが弱まる。
それを確認したクレアとリックは同時に後方へ飛び退いた。
その直後、膠着状態は崩れた。
バージルの光の壁が協力魔法を押し破り、後ろにいた三人を撥ね飛ばしたのだ。
そしてバージルは地の上を滑る三人に向かって槍斧を構えた。
追い討ちである。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる