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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十四話 武技乱舞(5)
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そしてリックの足も同時かつ同じ方向へ動き始めていた。
無意識の行動であった。自然と足が動いていた。
これに確信めいたものを抱いたリックは、走りながら夢想の境地に身を委ねた。
体から力が抜け、足取りが鋭いものから軽やかなものに変化。
進行方向を少し右に傾ける。
直後、前を行くクレアの進路も同様に変化。
夢想の境地を完全に発動したためか、リックの動きがクレアの先を読んだものになっている。
二人の目標は敵魔法使い達。
先の大盾兵達と同じく横一列に並んだその魔法使い達は、バージルの背中に向かって右手をかざしている。
そしてその手が発光を始めた瞬間、クレアは力強く地を蹴った。
だん、という大きな音が場に響いたと同時に、クレアの影が伸びるように加速する。
この音から魔法使い達はクレアの接近に気が付いた。
魔法使い達がクレアの方に向き直り、その手を眩しく輝かせる。
連続で放たれる光弾。それらをクレアは真っ直ぐに迎え撃った。
一切減速せず、光る手刀で次々と切り払う。
しかし最後の一発だけは違った。クレアはそれを足場にして跳躍した。
小さな跳躍。人を越えられるかどうかという高さ。
クレアは滑空するように低空を舞いながら、右かかとに魔力を収束させた。
狙いは正面にいる魔法使いの頭蓋。頭上に差し掛かったと同時に踏み砕く。
しかし直後、目の前にいる魔法使いが突如上を向いた。
クレアの跳躍に反応したわけでは無い。視線は完全に真上。まるで踏んでくださいと言うかのように空を見上げている。
彼は自らの意思で上を向いたわけでは無かった。
アゴを跳ね上げられたのだ。
砕けたアゴのすぐ下に別人の手の平がある。
リックの手だ。リックは跳躍したクレアの下をくぐり抜け、突き上げ掌底打ちを放ったのだ。
空に向かって晒された無防備な顔面。クレアはその鼻っ柱に向けて輝く右かかと振り下ろした。
「っぐが!」
顔面がひしゃげる感覚が足の裏に伝わり、くぐもった悲鳴が耳に入る。
そしてクレアは魔法使いの顔を足場にして左に跳躍した。
先よりも小さな、横に移動するだけという感じの跳躍。
狙いは当然左方にいる魔法使い。
飛びながら、クレアは腰を前へ深く折り曲げた。
赤く染まった足が綺麗な弧を描き、真上に振り上げられる。
頭は逆に真下へ。逆立ちのような姿勢。
クレアは頭がちょうど真下へ向いたと同時に、左手を振り下ろした。
そこにあるのは魔法使いの頭頂部。
振り下ろされたクレアの左手がそれを鷲掴みにする。
その直後、クレアは魔法使いの頭を握ったまま腰を鋭く捻った。
回転の力がクレアの腰から左腕へ、そして魔法使いの頭に伝わる。
しかし、その力の伝達は魔法使いの首のところで止まった。
魔法使いの首筋から「ごきり」という嫌な音が鳴り、顔が胴と真逆の方向を向く。
そのねじ切ったような感触を確かめたクレアは手を頭から放した。
自由落下に身を任せながら姿勢を元に戻す。
都合がいいことに着地点には別の魔法使いがいる。
クレアは残っていた回転の勢いを利用して、右足を一閃した。
光る爪先が防御魔法を貫き、魔法使いの胴を薙ぐ。
「ごはっ!」
防御魔法が破れる音と悲鳴が響き渡る中、静かに地に舞い降りる。
これで左側にいた魔法使い達は全て倒した。
そして右側の心配をする必要も無い。
たった今、最後の一人がリックの拳に倒れたのを感じ取ったからだ。
だからクレアはリックへ視線すら送らず、爪先をバージルの方に向けた。
無意識の行動であった。自然と足が動いていた。
これに確信めいたものを抱いたリックは、走りながら夢想の境地に身を委ねた。
体から力が抜け、足取りが鋭いものから軽やかなものに変化。
進行方向を少し右に傾ける。
直後、前を行くクレアの進路も同様に変化。
夢想の境地を完全に発動したためか、リックの動きがクレアの先を読んだものになっている。
二人の目標は敵魔法使い達。
先の大盾兵達と同じく横一列に並んだその魔法使い達は、バージルの背中に向かって右手をかざしている。
そしてその手が発光を始めた瞬間、クレアは力強く地を蹴った。
だん、という大きな音が場に響いたと同時に、クレアの影が伸びるように加速する。
この音から魔法使い達はクレアの接近に気が付いた。
魔法使い達がクレアの方に向き直り、その手を眩しく輝かせる。
連続で放たれる光弾。それらをクレアは真っ直ぐに迎え撃った。
一切減速せず、光る手刀で次々と切り払う。
しかし最後の一発だけは違った。クレアはそれを足場にして跳躍した。
小さな跳躍。人を越えられるかどうかという高さ。
クレアは滑空するように低空を舞いながら、右かかとに魔力を収束させた。
狙いは正面にいる魔法使いの頭蓋。頭上に差し掛かったと同時に踏み砕く。
しかし直後、目の前にいる魔法使いが突如上を向いた。
クレアの跳躍に反応したわけでは無い。視線は完全に真上。まるで踏んでくださいと言うかのように空を見上げている。
彼は自らの意思で上を向いたわけでは無かった。
アゴを跳ね上げられたのだ。
砕けたアゴのすぐ下に別人の手の平がある。
リックの手だ。リックは跳躍したクレアの下をくぐり抜け、突き上げ掌底打ちを放ったのだ。
空に向かって晒された無防備な顔面。クレアはその鼻っ柱に向けて輝く右かかと振り下ろした。
「っぐが!」
顔面がひしゃげる感覚が足の裏に伝わり、くぐもった悲鳴が耳に入る。
そしてクレアは魔法使いの顔を足場にして左に跳躍した。
先よりも小さな、横に移動するだけという感じの跳躍。
狙いは当然左方にいる魔法使い。
飛びながら、クレアは腰を前へ深く折り曲げた。
赤く染まった足が綺麗な弧を描き、真上に振り上げられる。
頭は逆に真下へ。逆立ちのような姿勢。
クレアは頭がちょうど真下へ向いたと同時に、左手を振り下ろした。
そこにあるのは魔法使いの頭頂部。
振り下ろされたクレアの左手がそれを鷲掴みにする。
その直後、クレアは魔法使いの頭を握ったまま腰を鋭く捻った。
回転の力がクレアの腰から左腕へ、そして魔法使いの頭に伝わる。
しかし、その力の伝達は魔法使いの首のところで止まった。
魔法使いの首筋から「ごきり」という嫌な音が鳴り、顔が胴と真逆の方向を向く。
そのねじ切ったような感触を確かめたクレアは手を頭から放した。
自由落下に身を任せながら姿勢を元に戻す。
都合がいいことに着地点には別の魔法使いがいる。
クレアは残っていた回転の勢いを利用して、右足を一閃した。
光る爪先が防御魔法を貫き、魔法使いの胴を薙ぐ。
「ごはっ!」
防御魔法が破れる音と悲鳴が響き渡る中、静かに地に舞い降りる。
これで左側にいた魔法使い達は全て倒した。
そして右側の心配をする必要も無い。
たった今、最後の一人がリックの拳に倒れたのを感じ取ったからだ。
だからクレアはリックへ視線すら送らず、爪先をバージルの方に向けた。
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