149 / 586
第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十四話 武技乱舞(5)
しおりを挟む
そしてリックの足も同時かつ同じ方向へ動き始めていた。
無意識の行動であった。自然と足が動いていた。
これに確信めいたものを抱いたリックは、走りながら夢想の境地に身を委ねた。
体から力が抜け、足取りが鋭いものから軽やかなものに変化。
進行方向を少し右に傾ける。
直後、前を行くクレアの進路も同様に変化。
夢想の境地を完全に発動したためか、リックの動きがクレアの先を読んだものになっている。
二人の目標は敵魔法使い達。
先の大盾兵達と同じく横一列に並んだその魔法使い達は、バージルの背中に向かって右手をかざしている。
そしてその手が発光を始めた瞬間、クレアは力強く地を蹴った。
だん、という大きな音が場に響いたと同時に、クレアの影が伸びるように加速する。
この音から魔法使い達はクレアの接近に気が付いた。
魔法使い達がクレアの方に向き直り、その手を眩しく輝かせる。
連続で放たれる光弾。それらをクレアは真っ直ぐに迎え撃った。
一切減速せず、光る手刀で次々と切り払う。
しかし最後の一発だけは違った。クレアはそれを足場にして跳躍した。
小さな跳躍。人を越えられるかどうかという高さ。
クレアは滑空するように低空を舞いながら、右かかとに魔力を収束させた。
狙いは正面にいる魔法使いの頭蓋。頭上に差し掛かったと同時に踏み砕く。
しかし直後、目の前にいる魔法使いが突如上を向いた。
クレアの跳躍に反応したわけでは無い。視線は完全に真上。まるで踏んでくださいと言うかのように空を見上げている。
彼は自らの意思で上を向いたわけでは無かった。
アゴを跳ね上げられたのだ。
砕けたアゴのすぐ下に別人の手の平がある。
リックの手だ。リックは跳躍したクレアの下をくぐり抜け、突き上げ掌底打ちを放ったのだ。
空に向かって晒された無防備な顔面。クレアはその鼻っ柱に向けて輝く右かかと振り下ろした。
「っぐが!」
顔面がひしゃげる感覚が足の裏に伝わり、くぐもった悲鳴が耳に入る。
そしてクレアは魔法使いの顔を足場にして左に跳躍した。
先よりも小さな、横に移動するだけという感じの跳躍。
狙いは当然左方にいる魔法使い。
飛びながら、クレアは腰を前へ深く折り曲げた。
赤く染まった足が綺麗な弧を描き、真上に振り上げられる。
頭は逆に真下へ。逆立ちのような姿勢。
クレアは頭がちょうど真下へ向いたと同時に、左手を振り下ろした。
そこにあるのは魔法使いの頭頂部。
振り下ろされたクレアの左手がそれを鷲掴みにする。
その直後、クレアは魔法使いの頭を握ったまま腰を鋭く捻った。
回転の力がクレアの腰から左腕へ、そして魔法使いの頭に伝わる。
しかし、その力の伝達は魔法使いの首のところで止まった。
魔法使いの首筋から「ごきり」という嫌な音が鳴り、顔が胴と真逆の方向を向く。
そのねじ切ったような感触を確かめたクレアは手を頭から放した。
自由落下に身を任せながら姿勢を元に戻す。
都合がいいことに着地点には別の魔法使いがいる。
クレアは残っていた回転の勢いを利用して、右足を一閃した。
光る爪先が防御魔法を貫き、魔法使いの胴を薙ぐ。
「ごはっ!」
防御魔法が破れる音と悲鳴が響き渡る中、静かに地に舞い降りる。
これで左側にいた魔法使い達は全て倒した。
そして右側の心配をする必要も無い。
たった今、最後の一人がリックの拳に倒れたのを感じ取ったからだ。
だからクレアはリックへ視線すら送らず、爪先をバージルの方に向けた。
無意識の行動であった。自然と足が動いていた。
これに確信めいたものを抱いたリックは、走りながら夢想の境地に身を委ねた。
体から力が抜け、足取りが鋭いものから軽やかなものに変化。
進行方向を少し右に傾ける。
直後、前を行くクレアの進路も同様に変化。
夢想の境地を完全に発動したためか、リックの動きがクレアの先を読んだものになっている。
二人の目標は敵魔法使い達。
先の大盾兵達と同じく横一列に並んだその魔法使い達は、バージルの背中に向かって右手をかざしている。
そしてその手が発光を始めた瞬間、クレアは力強く地を蹴った。
だん、という大きな音が場に響いたと同時に、クレアの影が伸びるように加速する。
この音から魔法使い達はクレアの接近に気が付いた。
魔法使い達がクレアの方に向き直り、その手を眩しく輝かせる。
連続で放たれる光弾。それらをクレアは真っ直ぐに迎え撃った。
一切減速せず、光る手刀で次々と切り払う。
しかし最後の一発だけは違った。クレアはそれを足場にして跳躍した。
小さな跳躍。人を越えられるかどうかという高さ。
クレアは滑空するように低空を舞いながら、右かかとに魔力を収束させた。
狙いは正面にいる魔法使いの頭蓋。頭上に差し掛かったと同時に踏み砕く。
しかし直後、目の前にいる魔法使いが突如上を向いた。
クレアの跳躍に反応したわけでは無い。視線は完全に真上。まるで踏んでくださいと言うかのように空を見上げている。
彼は自らの意思で上を向いたわけでは無かった。
アゴを跳ね上げられたのだ。
砕けたアゴのすぐ下に別人の手の平がある。
リックの手だ。リックは跳躍したクレアの下をくぐり抜け、突き上げ掌底打ちを放ったのだ。
空に向かって晒された無防備な顔面。クレアはその鼻っ柱に向けて輝く右かかと振り下ろした。
「っぐが!」
顔面がひしゃげる感覚が足の裏に伝わり、くぐもった悲鳴が耳に入る。
そしてクレアは魔法使いの顔を足場にして左に跳躍した。
先よりも小さな、横に移動するだけという感じの跳躍。
狙いは当然左方にいる魔法使い。
飛びながら、クレアは腰を前へ深く折り曲げた。
赤く染まった足が綺麗な弧を描き、真上に振り上げられる。
頭は逆に真下へ。逆立ちのような姿勢。
クレアは頭がちょうど真下へ向いたと同時に、左手を振り下ろした。
そこにあるのは魔法使いの頭頂部。
振り下ろされたクレアの左手がそれを鷲掴みにする。
その直後、クレアは魔法使いの頭を握ったまま腰を鋭く捻った。
回転の力がクレアの腰から左腕へ、そして魔法使いの頭に伝わる。
しかし、その力の伝達は魔法使いの首のところで止まった。
魔法使いの首筋から「ごきり」という嫌な音が鳴り、顔が胴と真逆の方向を向く。
そのねじ切ったような感触を確かめたクレアは手を頭から放した。
自由落下に身を任せながら姿勢を元に戻す。
都合がいいことに着地点には別の魔法使いがいる。
クレアは残っていた回転の勢いを利用して、右足を一閃した。
光る爪先が防御魔法を貫き、魔法使いの胴を薙ぐ。
「ごはっ!」
防御魔法が破れる音と悲鳴が響き渡る中、静かに地に舞い降りる。
これで左側にいた魔法使い達は全て倒した。
そして右側の心配をする必要も無い。
たった今、最後の一人がリックの拳に倒れたのを感じ取ったからだ。
だからクレアはリックへ視線すら送らず、爪先をバージルの方に向けた。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

(短編)いずれ追放される悪役令嬢に生まれ変わったけど、原作補正を頼りに生きます。
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約破棄からの追放される悪役令嬢に生まれ変わったと気づいて、シャーロットは王妃様の前で屁をこいた。なのに王子の婚約者になってしまう。どうやら強固な強制力が働いていて、どうあがいてもヒロインをいじめ、王子に婚約を破棄され追放……あれ、待てよ? だったら、私、その日まで不死身なのでは?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる