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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十三話 盾(7)
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◆◆◆
バージルの体は浮遊感に包まれていた。
痛みはもう無くなっている。
周囲は暗黒。
しかし頭上から光が差しているような感覚がある。
見上げると、そこには空が覗いていた。
そうとしか表現出来ない不思議な光景であった。まるで頭上の空間に穴が開いていて、そこから違う世界の景色が覗き見えているかのようであった。
自分はどうやらそこへ向かっているようだ。上へ上へと体が浮き上がっているような感覚がある。
顔に当たる日差しが心地よい。覗き見えている光景は美しい。
早くそこへ行きたいとバージルは思った。
しかし次の瞬間、
「待ちなさいバージル」
耳に飛び込んだ懐かしい声に、バージルは振り返った。
するとそこには死んだはずの姉、カミラがいた。
何も無い暗黒空間の中に立っている。
あまりの出来事に、バージルは何も声を返すことが出来なかった。
間の抜けた表情を作るバージルに対しカミラが続けて口を開く。
「あなたとまたこうして話せて嬉しいのだけれども、帰りなさい。いますぐに。あなたはまだここに来るべきではないわ」
帰る? どこに? バージルは姉の言葉の意味が分からなかった。
間の抜けた表情を作り続けるバージルに、今度は真右から声がかかる。
「そうだぞバージル。お前にはまだ早い。お前にはやるべきことがあるだろう?」
視線を移すと、そこには同じく死んだはずの兄、ダグラスがいた。
やるべきこと? なんだそれは? バージルは兄が何を言っているか分からなかった。
しかしそれはすぐに思い出せた。
バージルはヨハンの部隊と戦っていたことを思い出した。
そして胸に直撃を受けて倒れたことも思い出した。
そこまで思い出してようやく状況を理解したバージルは心の中で叫んだ。
(なんということだ。自分は死んでしまったのか?! 夢であってほしい。そうだと言ってくれ!)
バージルの顔に焦りが浮かぶ。
そんなバージルに対し、ダグラスは口を開いた。
「心配するなバージル。心臓ならすぐに動き出す」
鉄仮面をかぶっているため表情は見えないが、声の明るさからダグラスは笑っているようであった。
これにバージルは焦りの表情を崩さなかった。
何を根拠に言っているのか分からなかったからだ。
そんなバージルに対し、今度はカミラが口を開いた。
「……すぐに引き戻されることは分かってたから、こうして話しかけた意味は無いんだけどね」
同じ笑気を含んだ調子で話すカミラに、ダグラスが相槌を打つ。
「まあいいではないですか姉上。こんな機会、滅多に無い」
危機感の無い二人の調子に当てられたのか、バージルの顔から焦りが抜ける。
そして一呼吸分間を置いてから、カミラが再び口を開いた。
「……ねえ、バージル。あなた、悔しくないの?」
これにバージルは「え?」というような表情を返した。
その顔に対して今度はダグラスが口を開く。
「ヨハンに対して腹が立たないか、と姉上は聞いているのだ」
考えるまでも無い質問だった。
「……腹が立つさ。当たり前だろう」
その答えを聞いたダグラスは即座に口を開いた。
「なら決まりだ。さっさと帰れ。まあ、俺が言うまでも無く、もう時間切れのようだが」
時間切れ、ダグラスが言ったその言葉の意味を考える間も無く、バージルの体に変化が起こった。
浮遊感が消えた、と思ったら瞬く間に体が落下し始めたのだ。人間は飛べないということを思い出したかのように。
そしてバージルは絶叫を上げる余裕も無く、闇の中へと落下していった。
バージルの体は浮遊感に包まれていた。
痛みはもう無くなっている。
周囲は暗黒。
しかし頭上から光が差しているような感覚がある。
見上げると、そこには空が覗いていた。
そうとしか表現出来ない不思議な光景であった。まるで頭上の空間に穴が開いていて、そこから違う世界の景色が覗き見えているかのようであった。
自分はどうやらそこへ向かっているようだ。上へ上へと体が浮き上がっているような感覚がある。
顔に当たる日差しが心地よい。覗き見えている光景は美しい。
早くそこへ行きたいとバージルは思った。
しかし次の瞬間、
「待ちなさいバージル」
耳に飛び込んだ懐かしい声に、バージルは振り返った。
するとそこには死んだはずの姉、カミラがいた。
何も無い暗黒空間の中に立っている。
あまりの出来事に、バージルは何も声を返すことが出来なかった。
間の抜けた表情を作るバージルに対しカミラが続けて口を開く。
「あなたとまたこうして話せて嬉しいのだけれども、帰りなさい。いますぐに。あなたはまだここに来るべきではないわ」
帰る? どこに? バージルは姉の言葉の意味が分からなかった。
間の抜けた表情を作り続けるバージルに、今度は真右から声がかかる。
「そうだぞバージル。お前にはまだ早い。お前にはやるべきことがあるだろう?」
視線を移すと、そこには同じく死んだはずの兄、ダグラスがいた。
やるべきこと? なんだそれは? バージルは兄が何を言っているか分からなかった。
しかしそれはすぐに思い出せた。
バージルはヨハンの部隊と戦っていたことを思い出した。
そして胸に直撃を受けて倒れたことも思い出した。
そこまで思い出してようやく状況を理解したバージルは心の中で叫んだ。
(なんということだ。自分は死んでしまったのか?! 夢であってほしい。そうだと言ってくれ!)
バージルの顔に焦りが浮かぶ。
そんなバージルに対し、ダグラスは口を開いた。
「心配するなバージル。心臓ならすぐに動き出す」
鉄仮面をかぶっているため表情は見えないが、声の明るさからダグラスは笑っているようであった。
これにバージルは焦りの表情を崩さなかった。
何を根拠に言っているのか分からなかったからだ。
そんなバージルに対し、今度はカミラが口を開いた。
「……すぐに引き戻されることは分かってたから、こうして話しかけた意味は無いんだけどね」
同じ笑気を含んだ調子で話すカミラに、ダグラスが相槌を打つ。
「まあいいではないですか姉上。こんな機会、滅多に無い」
危機感の無い二人の調子に当てられたのか、バージルの顔から焦りが抜ける。
そして一呼吸分間を置いてから、カミラが再び口を開いた。
「……ねえ、バージル。あなた、悔しくないの?」
これにバージルは「え?」というような表情を返した。
その顔に対して今度はダグラスが口を開く。
「ヨハンに対して腹が立たないか、と姉上は聞いているのだ」
考えるまでも無い質問だった。
「……腹が立つさ。当たり前だろう」
その答えを聞いたダグラスは即座に口を開いた。
「なら決まりだ。さっさと帰れ。まあ、俺が言うまでも無く、もう時間切れのようだが」
時間切れ、ダグラスが言ったその言葉の意味を考える間も無く、バージルの体に変化が起こった。
浮遊感が消えた、と思ったら瞬く間に体が落下し始めたのだ。人間は飛べないということを思い出したかのように。
そしてバージルは絶叫を上げる余裕も無く、闇の中へと落下していった。
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