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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第三十二話 武人の性(13)

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 そして、対するカイルは先の一撃を防いだクレアを賞賛した。

(素晴らしい反応だ。並の相手ならば今の手は必殺なのだが。さすが、と言わせてもらおう)

 が、その眼差しに敬意の色が表れる前に、カイルは眉に険しさを戻した。

(いや、むしろそうでなくては。でなければ勝利に名誉がついてこない)

 構えを整えながら先のクレアの突進を思い出す。

(しかし本当に速い。遠くから見た時の印象とはやはり違う。回りこみは常に警戒しなくては。ここは範囲が広い円の動き、なぎ払いを中心にして攻めるべきか)

 普段ならば動作量が少ない点の動き、剣で言うところの突き攻撃を中心にする。
 カイルはいつでも水平に振れるように、鎖を持つ左腕を横手に構えた。
 右手は迅速な防御魔法の展開と光弾による牽制のため、前にかざしておく。
 そしてそのまま右足を前に出し、左足を後ろに引く。
 相手に対し斜めを向いた半身の構えに近い姿勢だ。
 対するクレアは片羽の構え。
 クレアは仕掛けてくる気配を見せない。
 クレアは考えていた。

(前に突き出た右手を狙うか、それとも鎖の破壊を狙うか――)

 クレアは迷っていたが、

(いや、まずはあの鎖の動きに慣れるべきか。彼が鎖の扱いに関して尋常ならざる錬度を有していることは間違いない)

 ここは一度見(けん)に徹する、そう判断した瞬間、

(来る!)

 カイルが動いた。
 前にかざした右手が眩く輝く。

「!?」

 直後、クレアの表情が変化した。
 驚きに目が見開く。
 その瞳には四個の光弾が映っていた。
 が、その眼差しに緊張の色は無い。
 その光弾のいずれもが小さかったからだ。

(散弾?!)

 光弾を撃つ際に五指を用いて握り砕きながら放ったようだ。
 こちらの機動力を警戒して避けにくい攻撃をしたつもりなのだろうか。確かに避けにくいのだが、脅威では無い。
 クレアは展開した防御魔法でそれらを何事も無く受け止めた。
 防御魔法に揺らぎは一切無い。一発の威力が低すぎるのだ。
 小さな衝突音がクレアの耳に響く。
 その数は「三つ」。
 あと一つは? それを目で探し始めるよりも早く、クレアの足は後ろに地を蹴っていた。
 跳び下がったクレアの目の前を右から左へ分銅が通り抜けて行く。
 どうやって真横から来た?
 その答えはすぐに浮かんだ。

(最後の一つを使って跳弾させた?!)

 カルロが使った技と同じである。カイルは散弾の一つを反射壁として使ったのだ。
 カイルが左腕を引き、鎖を手元に引き寄せる。
 それに合わせてクレアは踏み込んだ。鎖が彼の手元に戻り切る前に、そう考えたのだ。
 直後、カイルの右手が発光した。
 迎撃の光弾を放つつもりだろう、クレアはそう思い、右手に魔力を込めた。
 その予想は当たった。
 が、

「!?」

 その狙いはクレアでは無かった。
 光弾は引き戻る鎖に炸裂した。
 細長く伸びたその身が衝撃に波打つ。
 波は先端の分銅に伝わり、その凶器を鞭の先端のようにしならせた。
 返す刃のように、クレアの眼前を右から通り過ぎたばかりの分銅が、今度は左から襲い来る。
 これをクレアは防御魔法で受けようとしたが、その光の膜が広がり切るよりも速く、分銅はクレアの側面に回り込んだ。
 マズい、という言葉が頭の中に浮かび上がるよりも早く、クレアは展開中の防御魔法を分銅の方へ向けながら、後ろへ地を蹴った。
 この反射的な行動が幸いした。
 いまだ広がり切らぬ防御魔法の端が鎖に触れたのだ。
 そこを接点として鎖は僅かに折れ曲がった。
 弧を描く分銅はその軌道を変え、

「あぐっ!」

 クレアの左肩に炸裂した。
 痛みに顔を歪めながら大きく跳び下がる。
 そして鎖が絶対に届かぬ距離まで離れてから、クレアは左肩の状態を確認した。

(……骨に少しヒビが入っただけのようね。良かった。これならばまだ拳を振れる)

 安堵しながら、クレアは鎖を手元に戻したカイルを見つめた。

(今の切り返しは完全に予想外だった)

 危なかった。そして恐るべし。
 光弾を利用することで鎖をあのように操るとは。
 彼は鎖を手元に戻す必要が無いのだ。光弾さえ撃てればどんな状態からでも攻撃が可能なのだと思ったほうがいい。もしかしたら、鎖を握る必要すら無いのかもしれない。

(まるで生き物のようだ)

 ふと浮かんだこの言葉に、クレアは感じるものがあった。

(……そうだ、あれは最早腕の延長だと考えるべきだ)

 ただの長い武器だと考えてはならない。あれは数え切れないほどの間接を有する長い腕なのだ。先端の分銅は硬く握り締められた拳なのだ。
 クレアは構えを整えながら、カイルの次の攻撃を待った。
 対するカイルは、そんなクレアの様子を見ながら次の手を考えていた。

(惜しい。もう少し分銅が深く回りこめていれば、その後頭部を叩き割れていたのだが)

 先の一撃はほぼ無傷に終わってしまったように見える。

(しかし、良くない流れだ)

 出来れば今ので決着を付けたかった。ここからは徐々に不利になる可能性が高い。

 鎖使いにとって最も重要なのは初手である。
 鎖自体は強力な武器とは言い難い。はっきり言って使いにくい。強いのは技の方だ。
 だが、どんな技も何度も見れば慣れが生まれる。そして技を全て見切られた時が、鎖使いの最後の時となるのだ。
 だから隠す。長い外套で動きが見えないようにする。
 そして小出しにする。次の技を披露するのは再び深く踏み込まれた時でいい。
 逆に言えば、一度見せた技に関しては勿体付ける必要性があまり無い。
 従って、ここからは手数を重視した戦法に切り替えることが出来る。間合いぎりぎりから鎖を振り続けるのだ。

 カイルは「じり」と間合いを詰めた後、その鎖を放った。
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