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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十二話 武人の性(12)
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先端には重量感のある分銅がついている。
横手に放たれたそれは、カイルの左手を支点とした楕円の軌跡を描きながら、クレアの右頬に向かって飛んで来ていた。
これに対しクレアは右手で防御魔法を展開した。
減速はしない。このまま一気に間合いを詰め、左手による貫手を見舞う。
分銅がついているとはいえ大した速度の攻撃では無い。この程度ならば破られることは無い、そう踏んだのだ。
確かにそれはその通りであったのだが、
「!?」
直後、予想だにし得ないことが起こった。
「かつん」という音と共に、分銅の軌道が変わったのだ。
地に水平に走っていた分銅は突如真上に跳ね上がった。
何かにぶつかったかのような変化だ。
上への放物線の軌道に変化した分銅は、そのままクレアの防御魔法を飛び越え、彼女の頭上に達した。
その瞬間、カイルは左手首を振り下ろすように、鋭く返した。
引っ張られた分銅は鞭の先端のようにしなり、クレアの脳天目掛けて振り下ろされたが――
「破っ!」
直後、気合と共に真上に放たれたクレアの左掌底打ちによって叩き返された。
しかし安堵する間も無く、
「!」
クレアの目が見開く。
視界を埋めるように迫る白。
光弾だ。それも一発では無い。連射だ。
「っ!」
凄まじい衝撃がクレアの右手に伝わる。
かなり重い。他の側近達より一段上の威力だ。
そして防御魔法越しに凄まじい冷気が伝わってくる。展開している右手が痛いほどだ。
このままではすぐに破られる、そう判断したクレアは左手を添えて防御魔法を強化しながら、後方に跳んだ。
同時に、カイルも距離を取るために後ろに地を蹴る。
互いの距離が開幕の時と同じくらいに開き、仕切りなおしとなった。
構えを整えながら、クレアは先に起きた奇妙なことについて思考を巡らせた。
どうして分銅の軌道が変わった?
一つ確かなのは、軌道が変わった瞬間、「何かにぶつかった」かのような音が聞こえたこと。
それは自分の防御魔法にでは無い。明らかに防御魔法に触れる前に軌道が変わった。
何か見落としていることがあるはずだ。思い出せ。
まず、あの男は大きく一歩踏み込みながら、分銅を投げた。
(……? 妙ね)
大きく一歩踏み込んだにもかかわらず、あの程度の速度だったのか?
目で追える速度だった。あれでは踏み込んだ意味が薄い。狙いに対して正確に飛ばすためだけに、手首を利かせずに踏み込みの勢いだけで分銅を放り投げたような感じだった。
思い出せ。何かを見落としている。
(……!)
そして、クレアはあることを思い出した。
影だ。軌道が変わった瞬間、音が鳴った瞬間、分銅に小さな影のようなものがぶつかっていた。
はっきりとは思い出せないが、たぶん石だ。音の質感も石のそれだった。あの男は鎖を左手で投げると同時に左足を前に出し、そのつま先で石を蹴り上げたのだ。
(分銅を投げる前から、防御魔法を展開されることを予想していた……?)
そうとしか思えない立ち回りだ。
クレアの考えは正解であった。
カイルの鎖は正面を攻撃するためにあるものでは無い。正面はあくまで意識させるだけなのだ。前を攻撃するだけなら光弾のほうがいい。そもそもただの鎖では強力な防御魔法を突破出来ないことなど百も承知なのだ。
鎖は相手の虚を突くためのもの。その技は相手の側面や頭上、そして足元を攻めるものばかりで構成されているのだ。
横手に放たれたそれは、カイルの左手を支点とした楕円の軌跡を描きながら、クレアの右頬に向かって飛んで来ていた。
これに対しクレアは右手で防御魔法を展開した。
減速はしない。このまま一気に間合いを詰め、左手による貫手を見舞う。
分銅がついているとはいえ大した速度の攻撃では無い。この程度ならば破られることは無い、そう踏んだのだ。
確かにそれはその通りであったのだが、
「!?」
直後、予想だにし得ないことが起こった。
「かつん」という音と共に、分銅の軌道が変わったのだ。
地に水平に走っていた分銅は突如真上に跳ね上がった。
何かにぶつかったかのような変化だ。
上への放物線の軌道に変化した分銅は、そのままクレアの防御魔法を飛び越え、彼女の頭上に達した。
その瞬間、カイルは左手首を振り下ろすように、鋭く返した。
引っ張られた分銅は鞭の先端のようにしなり、クレアの脳天目掛けて振り下ろされたが――
「破っ!」
直後、気合と共に真上に放たれたクレアの左掌底打ちによって叩き返された。
しかし安堵する間も無く、
「!」
クレアの目が見開く。
視界を埋めるように迫る白。
光弾だ。それも一発では無い。連射だ。
「っ!」
凄まじい衝撃がクレアの右手に伝わる。
かなり重い。他の側近達より一段上の威力だ。
そして防御魔法越しに凄まじい冷気が伝わってくる。展開している右手が痛いほどだ。
このままではすぐに破られる、そう判断したクレアは左手を添えて防御魔法を強化しながら、後方に跳んだ。
同時に、カイルも距離を取るために後ろに地を蹴る。
互いの距離が開幕の時と同じくらいに開き、仕切りなおしとなった。
構えを整えながら、クレアは先に起きた奇妙なことについて思考を巡らせた。
どうして分銅の軌道が変わった?
一つ確かなのは、軌道が変わった瞬間、「何かにぶつかった」かのような音が聞こえたこと。
それは自分の防御魔法にでは無い。明らかに防御魔法に触れる前に軌道が変わった。
何か見落としていることがあるはずだ。思い出せ。
まず、あの男は大きく一歩踏み込みながら、分銅を投げた。
(……? 妙ね)
大きく一歩踏み込んだにもかかわらず、あの程度の速度だったのか?
目で追える速度だった。あれでは踏み込んだ意味が薄い。狙いに対して正確に飛ばすためだけに、手首を利かせずに踏み込みの勢いだけで分銅を放り投げたような感じだった。
思い出せ。何かを見落としている。
(……!)
そして、クレアはあることを思い出した。
影だ。軌道が変わった瞬間、音が鳴った瞬間、分銅に小さな影のようなものがぶつかっていた。
はっきりとは思い出せないが、たぶん石だ。音の質感も石のそれだった。あの男は鎖を左手で投げると同時に左足を前に出し、そのつま先で石を蹴り上げたのだ。
(分銅を投げる前から、防御魔法を展開されることを予想していた……?)
そうとしか思えない立ち回りだ。
クレアの考えは正解であった。
カイルの鎖は正面を攻撃するためにあるものでは無い。正面はあくまで意識させるだけなのだ。前を攻撃するだけなら光弾のほうがいい。そもそもただの鎖では強力な防御魔法を突破出来ないことなど百も承知なのだ。
鎖は相手の虚を突くためのもの。その技は相手の側面や頭上、そして足元を攻めるものばかりで構成されているのだ。
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