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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十二話 武人の性(10)
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◆◆◆
「!?」
直後、クレアは驚きに足を止めた。
敵の攻撃が止まったのだ。
場には太鼓の音が鳴り響いている。
(この合図は……)
太鼓の拍子はどこかぎこちない。
それもそのはず、この合図は滅多に使われないものだからだ。演奏者も慣れていないのだ。
そして、その合図の意味は、
(……一騎討ち?!)
であることをクレアが思い出した直後、目の前に一人の男が現れた。
それは赤毛の男。ヨハンの真横についていた者だ。
男はクレアに対して一礼した後、口を開いた。
「あまりに多勢に無勢でしたので、出来るだけ静観するつもりでしたが……どうやら私はあなたの技に心を奪われてしまったようだ」
奇妙な理由を述べた後、男は名乗った。
「私の名はカイル。ヨハン様に飼われるただの犬だが、御相手願いたい」
その眼から、カイルが真剣であることをクレアは察した。
罠の可能性は捨てきれない。一対一であると思わせて、後ろから攻撃することは十分に考えられる。
しかし彼の態度は丁寧だ。
だからクレアは、
「……わかりました。このクレア、偉大なる一族の者として、その名誉をかけてお相手致しましょう」
と、丁寧な言葉を返した。
◆◆◆
その様を、バージルは屋敷の中から見つめていた。
その瞳は言葉にし難い感情を湛えている。良い感情と暗い感情が混じっている。
この戦いでバージルの瞳はその色を様々に変えていた。
ある時は憎悪に染まり、ある時は驚きに見開いた。今は期待感の色が強い。
バージルはクレアのことを応援していた。真剣に。あのいけ好かないヨハンを倒して欲しいと、本気で思っていたのだ。
ことあるごとに我が家に難癖をつけてきたヨハン。
ある時は軍事予算の縮小、またある時は別宅の取り潰し、土地の一部没収、それら全てが「魔力を飛ばせない」という理由からだ。
あげくの果てには軍門に下れとぬかしてきた。
ゆえにバージルはヨハンのことを嫌っている。憎んでいると言ってもいい。
そんな中、唯一我が家に暖かい手を差し伸べてくれたのが、この偉大なる一族だ。
援助は一度だけだ。しかし、それでも強く心に残っている。
強くなりたいと願った時、この屋敷のことが一番に頭に浮かんだのは必然だったのかもしれない。
バージルは知らない。
盾の一族を軍門に加えるようヨハンをそそのかした者がいることを。
両家の結束強化、魔力至上主義という建前のためなど、都合の良い理由をその者は並べた。
これに対しヨハンは少しだけ迷った。盾の一族が不快感を抱くのは間違いなかったからだ。
しかし、最後には悪い案では無いと、ヨハンは判断した。してしまった。盾の一族と資金が同時に手に入る、そう判断してしまったのだ。
この国は分裂し始めている。少しずつ着実に。
そしてそのひび割れにサイラスが決定打を叩き込もうとしていることをヨハンは知らない。
「!?」
直後、クレアは驚きに足を止めた。
敵の攻撃が止まったのだ。
場には太鼓の音が鳴り響いている。
(この合図は……)
太鼓の拍子はどこかぎこちない。
それもそのはず、この合図は滅多に使われないものだからだ。演奏者も慣れていないのだ。
そして、その合図の意味は、
(……一騎討ち?!)
であることをクレアが思い出した直後、目の前に一人の男が現れた。
それは赤毛の男。ヨハンの真横についていた者だ。
男はクレアに対して一礼した後、口を開いた。
「あまりに多勢に無勢でしたので、出来るだけ静観するつもりでしたが……どうやら私はあなたの技に心を奪われてしまったようだ」
奇妙な理由を述べた後、男は名乗った。
「私の名はカイル。ヨハン様に飼われるただの犬だが、御相手願いたい」
その眼から、カイルが真剣であることをクレアは察した。
罠の可能性は捨てきれない。一対一であると思わせて、後ろから攻撃することは十分に考えられる。
しかし彼の態度は丁寧だ。
だからクレアは、
「……わかりました。このクレア、偉大なる一族の者として、その名誉をかけてお相手致しましょう」
と、丁寧な言葉を返した。
◆◆◆
その様を、バージルは屋敷の中から見つめていた。
その瞳は言葉にし難い感情を湛えている。良い感情と暗い感情が混じっている。
この戦いでバージルの瞳はその色を様々に変えていた。
ある時は憎悪に染まり、ある時は驚きに見開いた。今は期待感の色が強い。
バージルはクレアのことを応援していた。真剣に。あのいけ好かないヨハンを倒して欲しいと、本気で思っていたのだ。
ことあるごとに我が家に難癖をつけてきたヨハン。
ある時は軍事予算の縮小、またある時は別宅の取り潰し、土地の一部没収、それら全てが「魔力を飛ばせない」という理由からだ。
あげくの果てには軍門に下れとぬかしてきた。
ゆえにバージルはヨハンのことを嫌っている。憎んでいると言ってもいい。
そんな中、唯一我が家に暖かい手を差し伸べてくれたのが、この偉大なる一族だ。
援助は一度だけだ。しかし、それでも強く心に残っている。
強くなりたいと願った時、この屋敷のことが一番に頭に浮かんだのは必然だったのかもしれない。
バージルは知らない。
盾の一族を軍門に加えるようヨハンをそそのかした者がいることを。
両家の結束強化、魔力至上主義という建前のためなど、都合の良い理由をその者は並べた。
これに対しヨハンは少しだけ迷った。盾の一族が不快感を抱くのは間違いなかったからだ。
しかし、最後には悪い案では無いと、ヨハンは判断した。してしまった。盾の一族と資金が同時に手に入る、そう判断してしまったのだ。
この国は分裂し始めている。少しずつ着実に。
そしてそのひび割れにサイラスが決定打を叩き込もうとしていることをヨハンは知らない。
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