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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第三十二話 武人の性(5)

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「光弾を足場にして飛んだ?!」

 頭上を通過するクレアを見上げながら、兵士の一人が声を上げる。
 これに反応した数名がクレアに対して光弾を放った。
 数は五。
 ほぼ同時に飛んで来た最初の二つに対し、クレアは身を反らして一つを避けつつ、もう一つを右手で叩き払った。
 その反動を利用して空中で横回転。次に迫る三発目と四発目を光る回し蹴りでなぎ払う。
 反動を再び利用して縦回転へ。最後の一発に対してかかと落としの要領で足を振り下ろす。
 最後の光弾を踏み台にして上へ高く跳躍。
 上空から全体を眺めてヨハンを探す。
 隊列が変わってきている。ヨハンを守るために全体が動いているのだろう。
 厚みを増してきている箇所の中央に、目と魔力感知の能力を向ける。
 見つけた。目が合った。
 まだ少し距離がある。しかしこの跳躍でかなり近づけた。
 直後、クレアの体から浮遊感が消えた。
 その体が自然落下を始める。
 クレアは手を広げるなどの減速姿勢を取らなかった。むしろ、速く降りるために体を真っ直ぐに伸ばした。
 風切り音が聞こえてきそうな姿勢と速度。
 そして、その身が地に達する直前、クレアは右足を振り上げた。
 左足が地に触れるより刹那早く、輝く右足を地面に叩きつける。
 その際、クレアは右足から防御魔法を展開した。
 足裏から広がった光の膜が衝撃に破れ、破片が四方に散る。
 足裏から伝わるその衝撃に逆らわず、流れるように右膝を曲げながら地面の上を転がって受身。
 そのまま衝撃によって舞い上がった土煙の中に身を隠す。
 同時に奥義を用いて進路を急変更。転がった方向に対して直角となる向きに進路を変えつつ、土煙の中から飛び出す。
 その鮮やか、かつ鋭い動きに正面にいる兵士が表情を変える。
 その顔が驚きの表情を完成させる前に貫手を一閃。
 続けて二閃、三閃。
 陽炎のように高速移動しながら、敵を次々と突き伏せる。
 順調だ。体力も温存出来ている。
 出来るだけ効率良く、前へ前へ。
 クレアが通り過ぎた後に血の雨が降る。
 それは残酷であったが、不思議と魅入られる何かがあった。
 クレアの動きは独特であった。
 小さいが鋭く、そしてしなやかな動作。
 自身の弱い体を、体力の無さを補うために練り上げた動きであった。
 その動きは強く、そして美しかった。
 カルロやかつてのヨハンのような圧倒的火力で相手をねじ伏せる強さとは違う。
 だから惹かれるのだ。とても珍しい稀有な存在だからだ。
 命を奪われる側の兵士達でさえ、心の奥底でそう感じていた。
 しかし、ヨハンだけは憎悪のような感情と、そこから生まれた忌々しい視線をクレアに向けていた。

(全体の動きが鈍くなった。士気が落ちている)

 これだから厄介なのだ。「武人」というものは。
 絶対的不利の中でも見るものを気圧し、そして魅了する。
 カルロもそうだった。人を惹きつける何かを持っていた。
 彼ら偉大なる者の一族と炎の一族はどこか似ている。
 何故彼らは惹かれあうのか。
 何故我々とはそりが合わないのか。
 我々と炎の一族、何が違う? 傍目には魔力が強いだけだ。
 やはり「武」なのか。その根底に流れる精神が彼らを引き寄せるのか。

(……くだらん)

 そこまで考えたところで、ヨハンは吐き捨てるように思考を切った。
 従わないならねじ伏せるまでだ。
 だからヨハンは、

「お前達、前に出ろ。あいつをこれ以上調子付かせるな。ただしカイルはここに残れ」

 と、カイルを除く四人の側近に命令を下した。
 命令に従い、四人が前に出る。
 それをクレアはすぐに察知した。

(強い力を持つ者が、ヨハンの側近が迫ってきている! 数は二、三……四人!)

 その大きな気配の接近は、視界の変化という形ですぐに現れた。
 正面を塞いでいた兵士達が道を開けるように左右に移動する。
 開けた視界の奥にはヨハンとカイルが、そして手前には並んで歩いてくる三人の姿があった。

(姿を現したのは三人? もう一人は……途中で別れた?)

 魔力感知能力を研ぎ澄ませて行方を調べる。

(……もう一人は兵士達の中に隠れている、か)

 兵士の影に隠れて攻撃するつもりだろうか。それにしてはかなり距離がある。あれでは射線を確保することすら難しいはずだ。
 ……しかし、警戒しておくに越したことはないだろう。
 そんな事を考えた直後、

(仕掛けてくる!)

 体に走った悪寒に、クレアは思わず構えを硬くした。
 まだ遠いと言える位置にいる三人が右手を前にかざしている。
 この距離で? 目からの情報は疑いを生んだが、クレアは魔力感知から得られた情報を信じた。
 それは正しい選択だった。
 三人の手が輝き、光弾が放たれる。
 速い、と思った時には既に目の前。
 身を反らしながら左後ろに一歩流れることで二つを回避。
 もう一つを左手の甲で体の外側に流し払う。
 はずだったが、

「っ!」

 左手の甲が光弾に触れた瞬間、クレアの体は弾かれるように大きく傾いた。

(重い!?)

 この距離でも当たり所が悪ければ即死しかねない威力。
 魔力を張った手の甲の上を滑らせる受け流しでは駄目だ。叩き払わなければ。
 よろめいた体勢を立て直す。
 足が再び地をしっかり捉えた時には、既に次の弾が目の前に迫っていた。
 この威力の光弾をこの早さで連射できるのか?! という驚きの言葉を心に浮かべる余裕もなく即座に回避行動を取る。
 一発目を叩き払い、その反動を利用して横に飛ぶことで残りの二発を回避。
 直後、クレアから一定の距離を開けて包囲の陣を作っている兵士達が光弾を放つ。
 体勢が崩れたままのクレアに、光弾が四方八方から襲い掛かる。
 これはマズイ、背中に走った悪寒から逃れるようにクレアは奥義をもって鋭く地を蹴った。

(!)

 瞬間、クレアの膝に激痛が走った。
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