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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第三十一話 頂上決戦(5)

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   ◆◆◆

 ラルフは湧き上がる恐怖を押さえ込みながら足を前に出した。
 勇気だけを頼りにした前進ではない。この行動は父から授けられたある筋書きに沿ったものだ。
 父から言われているのだ。「勝ちたければ前に進み続けろ」と。そして「ある状況」に持ち込めと。
 その筋書きには二つ問題がある。そしてそれが緊張の原因でもある。
 その問題の一つは、「ある状況」に持ち込む際、カルロの炎を受けることになる可能性が非常に高いということだ。
 自分は炎の恐ろしさを耳でしか知らない。
 耐えられるのだろうか? 何とか炎を受けずにその状況に持ち込むことは出来ないだろうか?
 ラルフはそんなことをしばらく考えた後、思考を切った。
 考えても無意味だと、答えの出ない問題だとわかっていたからだ。ここに来るまでに何度も考えたが答えは何一つ得られなかった。
 考えなければ恐怖は湧かない。そう自分に言い聞かせながらラルフは前進を続けた。

   ◆◆◆

 ラルフが前進を再開したと同時にカルロは攻撃の手を休め、様子をうかがった。 
 攻撃を止めたのに防御魔法を解除する気配が無い。

(盾を張ったまま前進を続ける気か)

 相手の狙いは二つ考えられる。
 一つは全体を勢いづけようとしていること。もう一つは単純に私との距離を詰めようとしていること。
 どちらにしても、いや、狙いは両方かもしれないが、とにかく相手は短期決戦をお望みのようだ。
 それは炎使いであるカルロにとって、

(望むところ)

 であったが、

(……しかし、一つ気になることがある)

 その心には疑問があった。
 私が強力な炎を使えることを相手は当然知っているはずだ。
 炎魔法は光弾よりも射程が短いが、熱によって防御魔法の上から相手を焼き殺すことが出来る。ゆえに私の相手をする者達のほとんどが遠距離戦を挑もうとする。それが普通だ。
 にもかかわらず接近してくるということは、相手は何か近距離でのみ有効な切り札を持っている可能性が高い。

(問題はそれが何なのか。同じ炎か、それとも――)

 この時、カルロの脳裏に一つの映像が浮かび上がった。



 それは一筋の閃光であった。
 凄まじい速度と貫通力を持つ光魔法。しかし何より特徴的なのは使用者が取る「構え」だ。
 左足を前に出しつつ、体は横を向いた半身の姿勢。右手はまるで正拳突きでも放つかのように脇の下に置かれ、左手は正面に突き出されている。
 手を真っ直ぐ、かつ高速で突き出すための構えだ。偉大なる一族が使う「武術」に似ている。

 そう、これはかつてアランとディーノを苦しめた閃光魔法である。

 この使い手を二人知っている。一人はたしか、ジェイクと言ったか。アンナが倒したらしく既にこの世にいないようだが。
 そしてもう一人はヨハンだ。
 初めてヨハンにこの魔法を使われたときは重傷を負わされた。戦い自体は相打ちという形に終わったが。
 この魔法のタネは単純でわかりやすい。魔力を針のように鋭く収束させているのだ。ゆえに射程が無い。
 光魔法を攻撃に用いる際は少しでも長持ちさせるために「球」の形を取るのが普通だ。
 光魔法は空気中で安定しない。凄まじい速度で劣化し、最後には霧散する。細い針の形では寿命が短くなるのは当然のことだ。この魔法は射程を犠牲にして速度と貫通力を上げたものだと考えて正解だろう。
 しかし、言葉で説明するのは簡単だが実際にやるとなると話は別だ。
 魔力を針のように鋭く収束させること自体が難しい。私でもそこまでは出来ない。確実に成功させるには何年もの修練が必要だろう。
 それを真っ直ぐ飛ばすのも同様だ。ゆえにあの構えなのだろう。あの姿勢でなければ狙いが安定しないはずだ。
 高速で飛んでくる防御不能の攻撃、それだけ考えると脅威だ。しかし大きな弱点がある。
 まず第一に発射の起点を察知しやすいこと。接近した上で専用の構えを取るのだから非常にわかりやすい。
 第二に姿勢を少し崩すだけで命中精度が大きく下がってしまうこと。
 対処法は二つ。構えを取られた時点で全速で後退するか、相手の姿勢を崩すかだ。
 ヨハンと戦っていた頃の私は後者をよく選んでいた。構えを取られたら、または構えそうだと判断したら即座に光弾を叩き込み、閃光の発射を阻止していた。
 当時のヨハンはこの弱点を補うために色々工夫していた。周りに大盾兵を配置するようになったり、構える姿を見られないように兵士の影に隠れたりしていた。
 しかし、今目の前にいる若者にはその工夫が見られない。
 ならば、彼が持っているかもしれない切り札は閃光魔法では無いと考えて良い?
 そう決めるのは早計だろう。そもそも彼の魔力はヨハンよりも遥かに強大だ。防御魔法さえ張っていれば正面からの攻撃では姿勢が崩れない。
 そう、あくまでも正面だけだ。横や上を突けば姿勢を変えざるを得ないはずだ。これよりは側面からの攻撃を重視すべきか。
 考えているうちにちょうど良い具合に距離が詰まってくれた。おかげであれが使える。これよりはこいつを攻撃の基本にすることにしよう。

 考えながら、カルロは手の中に光弾を作り出した。
 その弾は赤みがかっており、火の粉を纏っていた。

 自身の考えと戦い方に疑問を抱いていないカルロであったが、一つ見落としていることがあった。
 それはヨハンはカルロが思っている以上の努力家であるということだ。
 一線を引いた後も、ヨハンは修練を重ねていた。
 そしてヨハンは遂に生み出したのだ。カルロを倒すための真の切り札を。
 残念ながらヨハン自身がカルロに対してそれを使うことは適わなかった。カルロと五分の勝負をした努力家も老化には勝てなかったのだ。
 だが、その切り札はラルフに受け継がれていた。ヨハンがラルフに対して行った訓練、その内容のほとんどは魔力制御に関するものであり、全てこの戦いのためのものなのであった。
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