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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十一話 頂上決戦(3)
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二人はそんな持久戦をしばらく続けた。
カルロが望んだとおりの展開が続く。
が、ある時、
(……こいつの魔力は底無しか?)
カルロの心に一つの影が差した。
ラルフの攻撃に弱まる気配が無いのだ。
それどころか、
(さらに苛烈さを増したか)
ラルフの攻撃はさらに激しさを増したのだ。
カルロに三つの光弾が迫る。
速く重そうなその光弾をカルロは防御魔法で二発受け、最後の三発目は単純な横移動で回避した。
その時、光弾はカルロの服に掠った。
触れた部分の繊維が弾ける様に裂け、波紋が広がるように衝撃が全身に伝わる。
その威力に、カルロの心はほんの僅かだが揺れた。
これは激しすぎる。目と体捌きだけで避けるには危険が伴う。
防御魔法無しで受ければ確実に即死する威力。些細な失敗が取り返しのつかない事故になる。
そんな心の揺れは、カルロの足に現れた。
じり、と、カルロの踵が後ろに退がったのだ。
◆◆◆
それを見たレオンは声を上げた。
「攻撃しつつ敵の裏側に回りこむぞ!」
後続の騎兵達がちゃんと追従しているのかを確認もせずに鞭を入れる。
カルロが後退する、それは出来れば見たくない光景であった。
そしてこの後どうなってしまうのかをレオンは知っていた。
カルロの後退から少し遅れて、周囲の部隊が下がり始める。
そう、このままだと全体が下がることになるのだ。
端の部隊はある程度踏みとどまることが出来る。しかし、中央に近い部隊はそうはいかない。中央付近は兵士の密度が高く、何より最大戦力であるラルフの足を止めることが難しい。
ラルフの前進を鈍らせることくらいは出来る。大部隊で挟み込めば撃破も可能だろう。が、それには犠牲が伴うし、敵も馬鹿ではない。ラルフを守ろうと立ち回るだろう。
こんな序盤で兵力を消耗するわけにはいかない。皆、カルロがラルフの足を再び止めてくれることを期待して積極的な戦闘は避けようとするはずだ。
だが、我が騎馬隊は違うことが出来る。やらなければならないことだと言い切ってもいい。側面に張り付いていたのはこのためでもあるからだ。
やる事自体は至極単純だ。
レオンは振り返り、その内容を叫んだ。
「これより我が隊は敵の中央に突撃を仕掛けるふりをする!」
真後ろについていた親衛隊が気勢を返す。
正面に向き直ったレオンは親衛隊の声圧を背に感じながら、再び口を開いた。
「馬の足は惜しまなくていい! 最大速度で行くぞ!」
これに、親衛隊が再び気勢を返したのをその背に感じたレオンは、馬に鞭を入れた。
数瞬遅れて親衛隊も鞭を入れ、追従する騎兵達がそれに習う。
鞭の音は波が広がるように連鎖し、戦場にこだました。
この派手な合図に、敵は当然反応した。
しかし、それはレオンが望むところであった。
上手くいけば敵の前進を、ラルフの足を止めることが出来る。
我が騎馬隊が単独でラルフを撃破する可能性を持っていることは敵も承知しているはずだ。裏に回られればそれ相応の防御を張るだろう。
単純に中央の部隊だけでそれをやればラルフの周囲が手薄になる。それはつまり、カルロの方が有利になるということ。
端側の部隊を防御に回される可能性は無い。そんな悠長に部隊を移動させる暇など与えないからだ。
そして、敵はレオンが想像した通りの動きを見せた。
中央の部隊は形を変えた。二列の陣形を組み、後方の列がレオンの騎馬隊に向かって壁を形成した。
これにレオンは奇妙な安堵感を抱いた。
今回は思った通りに事が運びそうだ。だが、こんな事は何度もは出来ない。敵の攻撃を受けるか否かの所まで近づかなければならないし、なにより馬が疲れてしまう。
やはり、カルロ将軍に踏ん張ってもらわなければならない。こちらが取れる手は結局のところ博打なのだから。
そんなことを考えながら、レオンは期待を込めた眼差しをカルロの方に向けた。
◆◆◆
当のカルロは鞭の音を聞いた時点でレオンの意を察していた。
こんな序盤で大博打をするはずがない。あの突撃は敵の足を止めるための陽動であるはずだ。
だがそれでも、馬の足を激しく消耗していることは間違いない。速めにラルフの足を止めなければ。
手はある。二つ。
一つは後ろに控えている親衛隊の力を借りること。
ラルフの足を確実に止められるだろう。しかしこの手は出来るだけ温存したい。いくら戦闘経験が豊富な親衛隊とはいえ、この苛烈な攻撃の前では命を落とす可能性が高いからだ。
いや、一人この場に出せる者がいる。
正確には「いた」だ。今はもう手元にいない。
その者の名はフリッツ。目と反応が良いあいつならばこの攻撃に晒しても生き延びるだろう。それに、あいつの連射力の高さは相手の手と足を止めるのに打って付けだ。フリッツはとにかく持久戦に強い。
しかしあいつはアランに渡してしまった。今は考えても仕方が無い。
やはりここはもう一つの手に頼るべきだろう。
敵の前進を止める方法には定番がある。恐怖を与えるか、別の何かを意識させるかだ。
これから取る手は両方だ。ありふれた手だが、定番を超えるものはなかなか無い。
カルロが望んだとおりの展開が続く。
が、ある時、
(……こいつの魔力は底無しか?)
カルロの心に一つの影が差した。
ラルフの攻撃に弱まる気配が無いのだ。
それどころか、
(さらに苛烈さを増したか)
ラルフの攻撃はさらに激しさを増したのだ。
カルロに三つの光弾が迫る。
速く重そうなその光弾をカルロは防御魔法で二発受け、最後の三発目は単純な横移動で回避した。
その時、光弾はカルロの服に掠った。
触れた部分の繊維が弾ける様に裂け、波紋が広がるように衝撃が全身に伝わる。
その威力に、カルロの心はほんの僅かだが揺れた。
これは激しすぎる。目と体捌きだけで避けるには危険が伴う。
防御魔法無しで受ければ確実に即死する威力。些細な失敗が取り返しのつかない事故になる。
そんな心の揺れは、カルロの足に現れた。
じり、と、カルロの踵が後ろに退がったのだ。
◆◆◆
それを見たレオンは声を上げた。
「攻撃しつつ敵の裏側に回りこむぞ!」
後続の騎兵達がちゃんと追従しているのかを確認もせずに鞭を入れる。
カルロが後退する、それは出来れば見たくない光景であった。
そしてこの後どうなってしまうのかをレオンは知っていた。
カルロの後退から少し遅れて、周囲の部隊が下がり始める。
そう、このままだと全体が下がることになるのだ。
端の部隊はある程度踏みとどまることが出来る。しかし、中央に近い部隊はそうはいかない。中央付近は兵士の密度が高く、何より最大戦力であるラルフの足を止めることが難しい。
ラルフの前進を鈍らせることくらいは出来る。大部隊で挟み込めば撃破も可能だろう。が、それには犠牲が伴うし、敵も馬鹿ではない。ラルフを守ろうと立ち回るだろう。
こんな序盤で兵力を消耗するわけにはいかない。皆、カルロがラルフの足を再び止めてくれることを期待して積極的な戦闘は避けようとするはずだ。
だが、我が騎馬隊は違うことが出来る。やらなければならないことだと言い切ってもいい。側面に張り付いていたのはこのためでもあるからだ。
やる事自体は至極単純だ。
レオンは振り返り、その内容を叫んだ。
「これより我が隊は敵の中央に突撃を仕掛けるふりをする!」
真後ろについていた親衛隊が気勢を返す。
正面に向き直ったレオンは親衛隊の声圧を背に感じながら、再び口を開いた。
「馬の足は惜しまなくていい! 最大速度で行くぞ!」
これに、親衛隊が再び気勢を返したのをその背に感じたレオンは、馬に鞭を入れた。
数瞬遅れて親衛隊も鞭を入れ、追従する騎兵達がそれに習う。
鞭の音は波が広がるように連鎖し、戦場にこだました。
この派手な合図に、敵は当然反応した。
しかし、それはレオンが望むところであった。
上手くいけば敵の前進を、ラルフの足を止めることが出来る。
我が騎馬隊が単独でラルフを撃破する可能性を持っていることは敵も承知しているはずだ。裏に回られればそれ相応の防御を張るだろう。
単純に中央の部隊だけでそれをやればラルフの周囲が手薄になる。それはつまり、カルロの方が有利になるということ。
端側の部隊を防御に回される可能性は無い。そんな悠長に部隊を移動させる暇など与えないからだ。
そして、敵はレオンが想像した通りの動きを見せた。
中央の部隊は形を変えた。二列の陣形を組み、後方の列がレオンの騎馬隊に向かって壁を形成した。
これにレオンは奇妙な安堵感を抱いた。
今回は思った通りに事が運びそうだ。だが、こんな事は何度もは出来ない。敵の攻撃を受けるか否かの所まで近づかなければならないし、なにより馬が疲れてしまう。
やはり、カルロ将軍に踏ん張ってもらわなければならない。こちらが取れる手は結局のところ博打なのだから。
そんなことを考えながら、レオンは期待を込めた眼差しをカルロの方に向けた。
◆◆◆
当のカルロは鞭の音を聞いた時点でレオンの意を察していた。
こんな序盤で大博打をするはずがない。あの突撃は敵の足を止めるための陽動であるはずだ。
だがそれでも、馬の足を激しく消耗していることは間違いない。速めにラルフの足を止めなければ。
手はある。二つ。
一つは後ろに控えている親衛隊の力を借りること。
ラルフの足を確実に止められるだろう。しかしこの手は出来るだけ温存したい。いくら戦闘経験が豊富な親衛隊とはいえ、この苛烈な攻撃の前では命を落とす可能性が高いからだ。
いや、一人この場に出せる者がいる。
正確には「いた」だ。今はもう手元にいない。
その者の名はフリッツ。目と反応が良いあいつならばこの攻撃に晒しても生き延びるだろう。それに、あいつの連射力の高さは相手の手と足を止めるのに打って付けだ。フリッツはとにかく持久戦に強い。
しかしあいつはアランに渡してしまった。今は考えても仕方が無い。
やはりここはもう一つの手に頼るべきだろう。
敵の前進を止める方法には定番がある。恐怖を与えるか、別の何かを意識させるかだ。
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