104 / 586
第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十話 武技交錯(10)
しおりを挟む
◆◆◆
一方、アランを救うために開いたディーノの眼は今ゆっくりと閉じつつあった。
消え行く意識の中、ディーノはアランと今の自分を比べていた。
(……すげえなあ、アラン)
あんな化け物を相手に物怖じせず向かっていっている。戦っている。
自分はかつて戦いにおいてはアランより上だった。アランを守ってやる立場だった。
いつ追い抜かれたのか。いつ立場が逆転したのか。
アランはどうやって強くなったのか。
その答えの一部を自分は知っている。速くなる方法が、さらなる武の高みへ昇るための階段が見えている。
(……)
視界が急速に暗くなっていく。もうほとんど何も見えない。
意識が消える直前、ディーノの心に浮かんだ言葉は、
(待っていろアラン。俺も行くぞ。すぐに追いついてやるぞ)
アランに対しての挑戦状とも取れる決意であった。
そして、ディーノの意識はその燃えるような感情を抱いたまま闇へ沈んだ。
◆◆◆
アランとリックの戦いには終焉の兆しが見え始めていた。
アランがもう限界なのは誰の目にも明らかであった。
しかし、その時、
「!」
リックの体が、がくん、と、崩れるようによろめいた。
リックの頭上をアランの突きが掠めていく。
惜しい、というよりも、リックの動きが変であった。
そして、今の出来事に最も驚いた様子を見せたのはリックであった。
(いま、一瞬だが、意識が完全に落ちた?!)
「夢想の境地」が発動しなかった。攻撃を回避できたのはただのまぐれだ。先の動作は回避では無く、意識を失って倒れかけただけなのだ。
時間切れが近い。後どれくらい動けるのか。
もしかしたら、先に倒れるのはアランではなく、自分の方なのではないか?
リックの心から愉悦が消え、焦りが浮かぶ。
そして気付く。
体はとても重い倦怠感と激痛に包まれている。背には滝のように冷や汗が流れている。
視界は明滅しており、それに合わせるように意識は浮き沈みを繰り返している。
体はずっと訴えていたのだ。もう限界であると。
時間が無い。決着をつけに行くしかない。
この夢のようなやり取りをずっと続けていたかった。しかしそれは叶わぬことなのだ。
直後、リックは後ろに飛び退き、アランから距離を取った。
そして、リックは地面に踏みしめるかのような大げさな動作で構えを整えた後、声を上げた。
「決着をつけよう! アラン!」
◆◆◆
決着、その言葉を聞いたアランは安堵した。
この戦いがやっと終わることに対してでは無い。台本が開いてくれたことに対してである。
リックが放とうと考えている決着の一撃、それは突進技であった。助走の勢いを乗せた最大の一撃を繰り出すつもりなのだ。
だから安堵したのだ。突進技で良かった本当に。
実は、もう足が動かなくなっているのだ。
向こうから近付いて来てくれるということは、こちらの間合いに入ってくれるということ。
本当に良かった。まだ希望はある。もし、リックが放つ決着の一撃が飛び道具だったら、今の自分には成す術が無かった。
つまり、今からやる事は単純だ。相手が放つ最大の動をこちらが持つ最大の動で迎え撃つ、それだけのことだ。
正面にいるリックがゆっくりと腰を落とす。
アランの体に悪寒が走る。
(来る――)
リックはどっしりと構えているが、その身から少しずつ力が抜けてきているのが見て取れる。「起こり」を消すつもりなのだろう。
(これまで見た中でも最大級の速度の攻撃が、瞬きなど許されない一撃が来る。問題は、それがいつ来るのか、ということ)
リックは右拳を脇の下に置いた形で静止している。
アランの体に走る悪寒が増す。
(いつだ、いつ――)
直後――
アランの体に「ぞくり」と、一際強い悪寒が走った。
と同時に、アランは動いていた。
それは反射的な行動であった。意識や思考などというものを介入させられる余裕は存在しない刹那の激突であった。
かろうじてアランの意識が認識出来たのは――
目の前で二本の閃光が交差した、という結果だけであった。
一方、アランを救うために開いたディーノの眼は今ゆっくりと閉じつつあった。
消え行く意識の中、ディーノはアランと今の自分を比べていた。
(……すげえなあ、アラン)
あんな化け物を相手に物怖じせず向かっていっている。戦っている。
自分はかつて戦いにおいてはアランより上だった。アランを守ってやる立場だった。
いつ追い抜かれたのか。いつ立場が逆転したのか。
アランはどうやって強くなったのか。
その答えの一部を自分は知っている。速くなる方法が、さらなる武の高みへ昇るための階段が見えている。
(……)
視界が急速に暗くなっていく。もうほとんど何も見えない。
意識が消える直前、ディーノの心に浮かんだ言葉は、
(待っていろアラン。俺も行くぞ。すぐに追いついてやるぞ)
アランに対しての挑戦状とも取れる決意であった。
そして、ディーノの意識はその燃えるような感情を抱いたまま闇へ沈んだ。
◆◆◆
アランとリックの戦いには終焉の兆しが見え始めていた。
アランがもう限界なのは誰の目にも明らかであった。
しかし、その時、
「!」
リックの体が、がくん、と、崩れるようによろめいた。
リックの頭上をアランの突きが掠めていく。
惜しい、というよりも、リックの動きが変であった。
そして、今の出来事に最も驚いた様子を見せたのはリックであった。
(いま、一瞬だが、意識が完全に落ちた?!)
「夢想の境地」が発動しなかった。攻撃を回避できたのはただのまぐれだ。先の動作は回避では無く、意識を失って倒れかけただけなのだ。
時間切れが近い。後どれくらい動けるのか。
もしかしたら、先に倒れるのはアランではなく、自分の方なのではないか?
リックの心から愉悦が消え、焦りが浮かぶ。
そして気付く。
体はとても重い倦怠感と激痛に包まれている。背には滝のように冷や汗が流れている。
視界は明滅しており、それに合わせるように意識は浮き沈みを繰り返している。
体はずっと訴えていたのだ。もう限界であると。
時間が無い。決着をつけに行くしかない。
この夢のようなやり取りをずっと続けていたかった。しかしそれは叶わぬことなのだ。
直後、リックは後ろに飛び退き、アランから距離を取った。
そして、リックは地面に踏みしめるかのような大げさな動作で構えを整えた後、声を上げた。
「決着をつけよう! アラン!」
◆◆◆
決着、その言葉を聞いたアランは安堵した。
この戦いがやっと終わることに対してでは無い。台本が開いてくれたことに対してである。
リックが放とうと考えている決着の一撃、それは突進技であった。助走の勢いを乗せた最大の一撃を繰り出すつもりなのだ。
だから安堵したのだ。突進技で良かった本当に。
実は、もう足が動かなくなっているのだ。
向こうから近付いて来てくれるということは、こちらの間合いに入ってくれるということ。
本当に良かった。まだ希望はある。もし、リックが放つ決着の一撃が飛び道具だったら、今の自分には成す術が無かった。
つまり、今からやる事は単純だ。相手が放つ最大の動をこちらが持つ最大の動で迎え撃つ、それだけのことだ。
正面にいるリックがゆっくりと腰を落とす。
アランの体に悪寒が走る。
(来る――)
リックはどっしりと構えているが、その身から少しずつ力が抜けてきているのが見て取れる。「起こり」を消すつもりなのだろう。
(これまで見た中でも最大級の速度の攻撃が、瞬きなど許されない一撃が来る。問題は、それがいつ来るのか、ということ)
リックは右拳を脇の下に置いた形で静止している。
アランの体に走る悪寒が増す。
(いつだ、いつ――)
直後――
アランの体に「ぞくり」と、一際強い悪寒が走った。
と同時に、アランは動いていた。
それは反射的な行動であった。意識や思考などというものを介入させられる余裕は存在しない刹那の激突であった。
かろうじてアランの意識が認識出来たのは――
目の前で二本の閃光が交差した、という結果だけであった。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる