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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第三十話 武技交錯(10)

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   ◆◆◆

 一方、アランを救うために開いたディーノの眼は今ゆっくりと閉じつつあった。
 消え行く意識の中、ディーノはアランと今の自分を比べていた。

(……すげえなあ、アラン)

 あんな化け物を相手に物怖じせず向かっていっている。戦っている。
 自分はかつて戦いにおいてはアランより上だった。アランを守ってやる立場だった。
 いつ追い抜かれたのか。いつ立場が逆転したのか。
 アランはどうやって強くなったのか。
 その答えの一部を自分は知っている。速くなる方法が、さらなる武の高みへ昇るための階段が見えている。

(……)

 視界が急速に暗くなっていく。もうほとんど何も見えない。

 意識が消える直前、ディーノの心に浮かんだ言葉は、

(待っていろアラン。俺も行くぞ。すぐに追いついてやるぞ)

 アランに対しての挑戦状とも取れる決意であった。

 そして、ディーノの意識はその燃えるような感情を抱いたまま闇へ沈んだ。

   ◆◆◆

 アランとリックの戦いには終焉の兆しが見え始めていた。
 アランがもう限界なのは誰の目にも明らかであった。
 しかし、その時、

「!」

 リックの体が、がくん、と、崩れるようによろめいた。
 リックの頭上をアランの突きが掠めていく。
 惜しい、というよりも、リックの動きが変であった。
 そして、今の出来事に最も驚いた様子を見せたのはリックであった。

(いま、一瞬だが、意識が完全に落ちた?!)

「夢想の境地」が発動しなかった。攻撃を回避できたのはただのまぐれだ。先の動作は回避では無く、意識を失って倒れかけただけなのだ。
 時間切れが近い。後どれくらい動けるのか。
 もしかしたら、先に倒れるのはアランではなく、自分の方なのではないか?
 リックの心から愉悦が消え、焦りが浮かぶ。
 そして気付く。
 体はとても重い倦怠感と激痛に包まれている。背には滝のように冷や汗が流れている。
 視界は明滅しており、それに合わせるように意識は浮き沈みを繰り返している。
 体はずっと訴えていたのだ。もう限界であると。
 時間が無い。決着をつけに行くしかない。
 この夢のようなやり取りをずっと続けていたかった。しかしそれは叶わぬことなのだ。
 直後、リックは後ろに飛び退き、アランから距離を取った。
 そして、リックは地面に踏みしめるかのような大げさな動作で構えを整えた後、声を上げた。

「決着をつけよう! アラン!」

   ◆◆◆

 決着、その言葉を聞いたアランは安堵した。
 この戦いがやっと終わることに対してでは無い。台本が開いてくれたことに対してである。
 リックが放とうと考えている決着の一撃、それは突進技であった。助走の勢いを乗せた最大の一撃を繰り出すつもりなのだ。
 だから安堵したのだ。突進技で良かった本当に。
 実は、もう足が動かなくなっているのだ。
 向こうから近付いて来てくれるということは、こちらの間合いに入ってくれるということ。
 本当に良かった。まだ希望はある。もし、リックが放つ決着の一撃が飛び道具だったら、今の自分には成す術が無かった。
 つまり、今からやる事は単純だ。相手が放つ最大の動をこちらが持つ最大の動で迎え撃つ、それだけのことだ。
 正面にいるリックがゆっくりと腰を落とす。
 アランの体に悪寒が走る。

(来る――)

 リックはどっしりと構えているが、その身から少しずつ力が抜けてきているのが見て取れる。「起こり」を消すつもりなのだろう。

(これまで見た中でも最大級の速度の攻撃が、瞬きなど許されない一撃が来る。問題は、それがいつ来るのか、ということ)

 リックは右拳を脇の下に置いた形で静止している。
 アランの体に走る悪寒が増す。

(いつだ、いつ――)

 直後――
 アランの体に「ぞくり」と、一際強い悪寒が走った。
 と同時に、アランは動いていた。
 それは反射的な行動であった。意識や思考などというものを介入させられる余裕は存在しない刹那の激突であった。
 かろうじてアランの意識が認識出来たのは――



 目の前で二本の閃光が交差した、という結果だけであった。
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