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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十話 武技交錯(7)
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◆◆◆
アランは動けなかった。対峙しているリックもである。
リックが動かないのは驚きとそこから生まれた警戒心という感情的理由からであったが、アランの方は違っていた。
アランが動かない理由は痛みであった。腹部の傷からのものとは違う、新しい激痛に全身が支配されていた。
その胸中にあるのは自責の念。
失敗した、その言葉に心は埋め尽くされていた。
膝が、肩が、肘が、それらの間を繋いでいる筋肉が悲鳴を上げている。
関節はミシミシと鳴いており、筋肉はプチプチという音を最後に痛みしか発していない。
じわり、と、痛みを覆うように何かが広がっていく感覚。
使用した関節と筋肉は見る見るうちに青黒く変色していった。
ひどい内出血を起こしている。
見よう見真似で一発成功するような甘い技では無かったのだ。針の穴を通すような繊細さがこの技には必要だったのだ。
ギシギシという軋みの音が聞こえてきそうな動きで、突き出していた左腕を折りたたむ。
それを見たリックは表情から警戒の色を消した。
察したのだ。アランの身に何が起きているのかを。
(……失敗したのだな、アラン)
この奥義はとても危険な技だ。下手をすれば自身の体が千切れ飛んでしまう。
だから自分は指から始めた。手は魔力の放出に使われている器官。ゆえに制御精度が高いからだ。それに、もし失敗して指を吹き飛ばしてしまったとしても、一本くらいならば痛みと後悔が少ない。
そんな技を十分な修練無しに、あんな大きな動作で用いればそうなってしまうのは当然の事。むしろその程度で済んだのは運が良かったと言える。
(……)
口を閉ざし、アランの様子をじっと窺(うかが)う。
そして、その青黒くなった皮膚が小刻みに震えているのを確認したリックは、すかさず足に魔力を込めた。
アランの体に悪寒が走る。
(来る!)
迎撃しなくてはならない、のだが、
(体が……!)
思うように動かないのだ。
そして次の瞬間、リックがアランに向かって地を蹴った。
アランの瞳の中にあるリックの像が「ずい」と大きくなる。
(動け!)
痛みを訴える体を一喝しながら、ぎしり、と、腕を動かす。
が、その動きはリックの踏み込みに対してはあまりにも遅く、直後に放った迎撃は空を切った。
背を低くすることでその迎撃を避けたリックは、その低姿勢のまま一歩踏み込み、アランの刀の下に潜り込んだ。
アランの体におぞましいと呼べるほどの悪寒が走る。
リックの狙いは腹部。この傷をえぐるつもりだ。
そして直後、アランの台本が更新された。
その内容は今のアランにとって、リックがやろうとしている事と同じくらい残酷なものであった。
だがやるしかなかった。これしか無いというのが事実であった。
歯を食いしばる。刀を握る手に力を込める。
「!」
瞬間、リックの顔に驚きが浮かんだ。
頭上で固まっていたアランの刀が、突如真下に、それも凄まじい速度で振り下ろされたのだ。
輝く白刃が丸い頭蓋を二つに割らんと迫る。
刃はその丸みに触れるか触れないかのところまで達したが、
「っ!?」
直後、頭上に弧を描くように振るわれたリックの手刀によって、真横に叩き払われた。
その衝撃にアランの体がよろめく。
対し、リックは飛び転がるように真横へと逃げた。
そしてリックは素早く構えを整え、再びアランの様子を窺った。
意外にも、リックの顔に恐怖の色は全く無い。
アランが何をしたのかわかっていたからだ。アランは奥義で負傷した体を、奥義で無理矢理動かしたのだ。
当然、そんな戦い方は長く続かない。
だからリックの次の手は決まっていた。
比較的安全な位置から牽制を繰り返し、アランの体を酷使させればいいのだ。
そして、アランの様子が先と変わっていない事を、痛みで膠着している事を確認したリックは、すかさず地を蹴った。
が、次の瞬間、リックの顔にまたしても驚きの色が浮かんだ。
リックの瞳の中にあるアランの像が「ずい」と大きくなった。
アランはリックの動きに合わせて同時に踏み込んだのだ。
瞬く間に互いの距離が詰まる。
そして、先に手を出したのはアラン。
踏み込みと奥義による加速を乗せた突きを放つ。
回りこむような横移動でそれを回避するリック。
それを読んでいたアラン、突きの動作から腰を回転させ、薙ぎ払いへと繋げる。
リック、飛び引くように後退することで回避。
これも読んでいたアラン、薙ぎ払いとほぼ同時に踏み込み、再びの突き。
リック、後退しつつ、身を後ろに反らしてこれを回避。
アラン、もう一度突く。
リック、後退のみで回避。
アラン、さらに突く。
これも回避される。が、次の瞬間にはアランは踏み込んでおり、次の攻撃動作へと移っていた。
アランは手を止める気配を見せなかった。
アランはリックの狙いを知っていた。台本が教えてくれたのだ。
ゆえにアランは速攻を狙っていた。倒される前に倒す、それが最上。むしろ、こうなってしまってはアランに打てる手はそれくらいしか無かった。
突き、突き、突き。ひたすらに突きを繰り出す。アランは自身が持ちうる技の中で最速、かつ最短の攻撃を連発した。
だが当たらない。掠りもしない。
(……何故?! どうして当たらない?!)
激痛の中、アランの心は叫んだ。
不思議だ。自分は速くなったはずなのにリックを捕まえられる気がしない。リックの動きが以前より、自分がこの技を使う前より冴えているように見える。
明らかに反応速度が上がっている。いや、感が良くなっていると言うべきか。
ん? 待て? 「感」が良い?
……何かが引っかかる。
これは、リックのこの反応の良さは、「感が良い」などという曖昧な言葉で片付けてよいものなのだろうか?
思い返してみれば、リックは完全に視界外からであった攻撃を回避したことがある。ディーノが投げた槍斧に反応した時がそうだ。
(もしかして――)
アランの心中にふと沸いた疑問と、対する仮説。
それは今のアランにとって認めたくない事であった。
だが、考えずにはいられなかった。
もしかして――皆、大なり小なり、自分と同じような能力を、魔力を感知する能力を持っているのではないか?
もしそうだとしたら、リックの反応が良くなったのにも合点がいく。
この技は魔力を体内で爆発させているようなものだ。感知もしやすいだろう。
(……)
自身の足元がゆらいだような感覚。自分が持つ神秘が、その優位性が霞みと消えていくような感覚。
そこへ追い討ちをかけるように、理性がある記憶を呼び起こす。
それはディーノの記憶であった。
考えてみればディーノの感の良さも異常だ。
魔法使いの集団に飛び込み、乱れ飛ぶ光弾を掻い潜りながら槍斧を振り回す、そんなことが普通の人間に出来るのだろうか?
考えるまでも無い。ありえない。普通じゃない。
アランの足元が音を立てて崩れていくような感覚。
まさか、もしや、自分は特別なものなど何も持っていないのではないか?
否定したい。正しいと証明する方法は無い。しかし、この考えが正解であるとしか思えない。
突如生まれた虚無感に、アランの心は再び悲鳴を上げた。
残念ながらアランの考えは正しかった。
この世界の人類は全て魔力を感知する能力を有しており、一部の動物もこの能力を有している。アランやクレアのような自覚できるほどの強い力を持つ者は少ないが。
魔力は世界を満たしている。ゆえに全ての人間は深層意識で繋がっている。
奇跡のような偶然が重なって起きた不思議な出来事、虫の報せと呼ばれる嫌な予感、それらはほぼ全て魔力感知によるものである。
そして、リックが持つ、偉大なる一族が有する「足で魔法を使う能力」も特別なものでは無い。遺伝による優位性が多少あるものの、専用の鍛錬を積めばほぼ誰にでも習得できる技術なのだ。
残念ながらそれが明らかになるのは遥か未来の事だ。足を酷使するあるスポーツの誕生がそれを証明する。そして、そのスポーツが世に登場するのは、平和が訪れ、人々の意識が戦事から文化の発展へと向けられた後のことである。
偉大なる一族が、かつて武の民と呼ばれていた者達がその能力を発現させることが出来たのは環境によるものである。
崖だらけの切り立った険しい山々の中で、足を手のように使うことを、猿のような生活を強いられたがゆえに発現した能力なのだ。一つの進化であると言えるだろう。
だが、偉大なる一族は退化してしまった。それもやはり環境の変化のせいである。
山が切り崩され、道が整備されたことで足を使う必要性が失われたのだ。
だが、武術の発展がその退化を阻止していた。様々な蹴り技が、習得困難な技術の存在が退化を食い止めていた。
しかし、そんな足技は時代の流れとともに多くが失われていった。人間を破壊するだけならば魔力を込めた拳だけで十分だからだ。動作の大きい、または達人向けの複雑な足技は不要として淘汰されていってしまったのだ。
そこへヨハンの祖先と盾の一族達が提唱した魔力至上主義の台頭が拍車をかけた。武術が廃れたことで、達人がいなくなってしまったことで、高度な技を必要とする相手がいなくなってしまったのだ。素人の相手をするだけならば単純な技だけで事足りる。
武術は衰退した。武の神はそれを嘆いた。
しかし、今、武の神は再び微笑んでいる。
長い雌伏の時を経て、二人の武人が激突している。持てる限りの技を駆使してせめぎあっている。これほど嬉しいことは無い。
この戦いを武の神はどのように決着させるつもりなのだろうか。
このまま双方削りあった果てにどちらかが倒れて終焉、それも悪くない。
だが、武の神は別の結末を考えていた。
その眼差しはリックの方に向けられていた。
リックは先と変わらずアランの猛攻を避け続けている。
しかし、直後――
アランは動けなかった。対峙しているリックもである。
リックが動かないのは驚きとそこから生まれた警戒心という感情的理由からであったが、アランの方は違っていた。
アランが動かない理由は痛みであった。腹部の傷からのものとは違う、新しい激痛に全身が支配されていた。
その胸中にあるのは自責の念。
失敗した、その言葉に心は埋め尽くされていた。
膝が、肩が、肘が、それらの間を繋いでいる筋肉が悲鳴を上げている。
関節はミシミシと鳴いており、筋肉はプチプチという音を最後に痛みしか発していない。
じわり、と、痛みを覆うように何かが広がっていく感覚。
使用した関節と筋肉は見る見るうちに青黒く変色していった。
ひどい内出血を起こしている。
見よう見真似で一発成功するような甘い技では無かったのだ。針の穴を通すような繊細さがこの技には必要だったのだ。
ギシギシという軋みの音が聞こえてきそうな動きで、突き出していた左腕を折りたたむ。
それを見たリックは表情から警戒の色を消した。
察したのだ。アランの身に何が起きているのかを。
(……失敗したのだな、アラン)
この奥義はとても危険な技だ。下手をすれば自身の体が千切れ飛んでしまう。
だから自分は指から始めた。手は魔力の放出に使われている器官。ゆえに制御精度が高いからだ。それに、もし失敗して指を吹き飛ばしてしまったとしても、一本くらいならば痛みと後悔が少ない。
そんな技を十分な修練無しに、あんな大きな動作で用いればそうなってしまうのは当然の事。むしろその程度で済んだのは運が良かったと言える。
(……)
口を閉ざし、アランの様子をじっと窺(うかが)う。
そして、その青黒くなった皮膚が小刻みに震えているのを確認したリックは、すかさず足に魔力を込めた。
アランの体に悪寒が走る。
(来る!)
迎撃しなくてはならない、のだが、
(体が……!)
思うように動かないのだ。
そして次の瞬間、リックがアランに向かって地を蹴った。
アランの瞳の中にあるリックの像が「ずい」と大きくなる。
(動け!)
痛みを訴える体を一喝しながら、ぎしり、と、腕を動かす。
が、その動きはリックの踏み込みに対してはあまりにも遅く、直後に放った迎撃は空を切った。
背を低くすることでその迎撃を避けたリックは、その低姿勢のまま一歩踏み込み、アランの刀の下に潜り込んだ。
アランの体におぞましいと呼べるほどの悪寒が走る。
リックの狙いは腹部。この傷をえぐるつもりだ。
そして直後、アランの台本が更新された。
その内容は今のアランにとって、リックがやろうとしている事と同じくらい残酷なものであった。
だがやるしかなかった。これしか無いというのが事実であった。
歯を食いしばる。刀を握る手に力を込める。
「!」
瞬間、リックの顔に驚きが浮かんだ。
頭上で固まっていたアランの刀が、突如真下に、それも凄まじい速度で振り下ろされたのだ。
輝く白刃が丸い頭蓋を二つに割らんと迫る。
刃はその丸みに触れるか触れないかのところまで達したが、
「っ!?」
直後、頭上に弧を描くように振るわれたリックの手刀によって、真横に叩き払われた。
その衝撃にアランの体がよろめく。
対し、リックは飛び転がるように真横へと逃げた。
そしてリックは素早く構えを整え、再びアランの様子を窺った。
意外にも、リックの顔に恐怖の色は全く無い。
アランが何をしたのかわかっていたからだ。アランは奥義で負傷した体を、奥義で無理矢理動かしたのだ。
当然、そんな戦い方は長く続かない。
だからリックの次の手は決まっていた。
比較的安全な位置から牽制を繰り返し、アランの体を酷使させればいいのだ。
そして、アランの様子が先と変わっていない事を、痛みで膠着している事を確認したリックは、すかさず地を蹴った。
が、次の瞬間、リックの顔にまたしても驚きの色が浮かんだ。
リックの瞳の中にあるアランの像が「ずい」と大きくなった。
アランはリックの動きに合わせて同時に踏み込んだのだ。
瞬く間に互いの距離が詰まる。
そして、先に手を出したのはアラン。
踏み込みと奥義による加速を乗せた突きを放つ。
回りこむような横移動でそれを回避するリック。
それを読んでいたアラン、突きの動作から腰を回転させ、薙ぎ払いへと繋げる。
リック、飛び引くように後退することで回避。
これも読んでいたアラン、薙ぎ払いとほぼ同時に踏み込み、再びの突き。
リック、後退しつつ、身を後ろに反らしてこれを回避。
アラン、もう一度突く。
リック、後退のみで回避。
アラン、さらに突く。
これも回避される。が、次の瞬間にはアランは踏み込んでおり、次の攻撃動作へと移っていた。
アランは手を止める気配を見せなかった。
アランはリックの狙いを知っていた。台本が教えてくれたのだ。
ゆえにアランは速攻を狙っていた。倒される前に倒す、それが最上。むしろ、こうなってしまってはアランに打てる手はそれくらいしか無かった。
突き、突き、突き。ひたすらに突きを繰り出す。アランは自身が持ちうる技の中で最速、かつ最短の攻撃を連発した。
だが当たらない。掠りもしない。
(……何故?! どうして当たらない?!)
激痛の中、アランの心は叫んだ。
不思議だ。自分は速くなったはずなのにリックを捕まえられる気がしない。リックの動きが以前より、自分がこの技を使う前より冴えているように見える。
明らかに反応速度が上がっている。いや、感が良くなっていると言うべきか。
ん? 待て? 「感」が良い?
……何かが引っかかる。
これは、リックのこの反応の良さは、「感が良い」などという曖昧な言葉で片付けてよいものなのだろうか?
思い返してみれば、リックは完全に視界外からであった攻撃を回避したことがある。ディーノが投げた槍斧に反応した時がそうだ。
(もしかして――)
アランの心中にふと沸いた疑問と、対する仮説。
それは今のアランにとって認めたくない事であった。
だが、考えずにはいられなかった。
もしかして――皆、大なり小なり、自分と同じような能力を、魔力を感知する能力を持っているのではないか?
もしそうだとしたら、リックの反応が良くなったのにも合点がいく。
この技は魔力を体内で爆発させているようなものだ。感知もしやすいだろう。
(……)
自身の足元がゆらいだような感覚。自分が持つ神秘が、その優位性が霞みと消えていくような感覚。
そこへ追い討ちをかけるように、理性がある記憶を呼び起こす。
それはディーノの記憶であった。
考えてみればディーノの感の良さも異常だ。
魔法使いの集団に飛び込み、乱れ飛ぶ光弾を掻い潜りながら槍斧を振り回す、そんなことが普通の人間に出来るのだろうか?
考えるまでも無い。ありえない。普通じゃない。
アランの足元が音を立てて崩れていくような感覚。
まさか、もしや、自分は特別なものなど何も持っていないのではないか?
否定したい。正しいと証明する方法は無い。しかし、この考えが正解であるとしか思えない。
突如生まれた虚無感に、アランの心は再び悲鳴を上げた。
残念ながらアランの考えは正しかった。
この世界の人類は全て魔力を感知する能力を有しており、一部の動物もこの能力を有している。アランやクレアのような自覚できるほどの強い力を持つ者は少ないが。
魔力は世界を満たしている。ゆえに全ての人間は深層意識で繋がっている。
奇跡のような偶然が重なって起きた不思議な出来事、虫の報せと呼ばれる嫌な予感、それらはほぼ全て魔力感知によるものである。
そして、リックが持つ、偉大なる一族が有する「足で魔法を使う能力」も特別なものでは無い。遺伝による優位性が多少あるものの、専用の鍛錬を積めばほぼ誰にでも習得できる技術なのだ。
残念ながらそれが明らかになるのは遥か未来の事だ。足を酷使するあるスポーツの誕生がそれを証明する。そして、そのスポーツが世に登場するのは、平和が訪れ、人々の意識が戦事から文化の発展へと向けられた後のことである。
偉大なる一族が、かつて武の民と呼ばれていた者達がその能力を発現させることが出来たのは環境によるものである。
崖だらけの切り立った険しい山々の中で、足を手のように使うことを、猿のような生活を強いられたがゆえに発現した能力なのだ。一つの進化であると言えるだろう。
だが、偉大なる一族は退化してしまった。それもやはり環境の変化のせいである。
山が切り崩され、道が整備されたことで足を使う必要性が失われたのだ。
だが、武術の発展がその退化を阻止していた。様々な蹴り技が、習得困難な技術の存在が退化を食い止めていた。
しかし、そんな足技は時代の流れとともに多くが失われていった。人間を破壊するだけならば魔力を込めた拳だけで十分だからだ。動作の大きい、または達人向けの複雑な足技は不要として淘汰されていってしまったのだ。
そこへヨハンの祖先と盾の一族達が提唱した魔力至上主義の台頭が拍車をかけた。武術が廃れたことで、達人がいなくなってしまったことで、高度な技を必要とする相手がいなくなってしまったのだ。素人の相手をするだけならば単純な技だけで事足りる。
武術は衰退した。武の神はそれを嘆いた。
しかし、今、武の神は再び微笑んでいる。
長い雌伏の時を経て、二人の武人が激突している。持てる限りの技を駆使してせめぎあっている。これほど嬉しいことは無い。
この戦いを武の神はどのように決着させるつもりなのだろうか。
このまま双方削りあった果てにどちらかが倒れて終焉、それも悪くない。
だが、武の神は別の結末を考えていた。
その眼差しはリックの方に向けられていた。
リックは先と変わらずアランの猛攻を避け続けている。
しかし、直後――
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