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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第二十八話 迫る暴威(3)

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   ◆◆◆

 その後――
 城に戻った一同は、アランとの再会に笑顔の華を咲かせた。

「いやー久しぶりだなあ、一年ぶりか? ……なんか、前にも同じことを言ったことがあるような気がするが」

 何の照れ隠しか、ディーノが頭を掻きながらそう言うと、

「そうだな。また一年ぶりだ」

 と、アランは薄い笑みで同意を示した。
 リックと初めて戦ったあの日、刀を携えてこの地に戻ってきたあの日以来の、二度目の一年ぶりであった。
 手を頭から離し、ディーノが尋ねる。

「それで、この一年どうしてたんだ?」

 期待に目を輝かせるディーノに対し、アランは首を小さく振りながら答えた。

「ディーノが喜ぶような話は無いよ……毎日同じ机に座って、似たような書類を読んで、いつも通りのことをする。そんな同じことの繰り返すだけの日常だった」

 その答えにディーノは表情を一瞬曇らせたが、すぐに元の笑顔を浮かべながら再び口を開いた。

「……そうか、そっちはそっちで大変だったみたいだな。まあ、こっちも毎日同じようなことばっかりだったぜ」

 ディーノは笑顔を崩さなかったが、その口調は軽さを失っていた。
 ディーノの無意識は察していた。アランが何をしに来たのかを。それは嫌な予感という形で意識に伝わっており、ゆえにディーノの口は重くなっていた。
 そして、そんなディーノの重い口調を補うかのように、今度はアランが口を開いた。

「そういえば、クリス将軍から聞いたよ。隊長になったんだってな」

 この言葉に、ディーノは目に見えてわかるほどの動揺を浮かべた。

「え、あ、ああ。まあな。自分なんかが隊長やって、大丈夫なのかって、不安しか無いんだけどな」

 ディーノの弱気な発言に、アランは小さく首を振った。

「自信を持って大丈夫だと思うぞ。さっきの訓練、見させてもらったけど、マズいところは何も無かった」

 これにディーノは照れ臭そうに頭を掻くだけであった。
 その反応はアランにとって新鮮であった。こういう賞賛には慣れているものだと思い込んでいた。
 そして、ディーノは照れ隠しをしたいのか、別の人間に話を振った。

「俺なんかよりもクラウスのおっさんの方がすごいぜ」

 アランが部屋の壁際に立っているクラウスの方へ視線を向けると、ディーノは再び口を開いた。

「アラン、爆発する魔法を使う女のことを覚えているか?」

 よく覚えている。いろんな意味で印象深い戦いだった。あの戦いで、俺は自身の能力をはっきりと自覚したのだから。
 アランが頷きを返すのとほぼ同時に、ディーノは再び口を開いた。

「聞いて驚くなよ、なんと、クラウスはその爆発魔法を斬ったんだぜ!」

 その言葉に、アランが驚きの表情を向けると、クラウスは首を振りながら口を開いた。

「あれはただのまぐれです。無我夢中でやったら出来た、それだけのことです」

 謙遜するクラウスの態度を否定するかのように、ディーノは声を上げた。

「いやー、あれは本当に凄かったぜ。その時クラウスのおっさんはな、女が放った爆発する弾に向かって『だー』っと突っ込んで行ってな、こう、振り上げた剣を真下に振り下ろしたんだよ。そうしたら、弾がこう綺麗に『ぱか』ってな感じに真っ二つになったんだ」

 身振り手振りを交えているにもかかわらずよくわからない説明であったが、なんとなく理解したアランはクラウスに尋ねた。

「あの爆発する弾を斬ったのか。よく無事だったな」

 クラウスは一息分間を置いた後、その時のことを説明した。

「あの時は避けられなかったからそうするしか無かったのです。斬ったらその場で爆発するのではないかと私も思っていたのですが、そうではありませんでした」
「弾は爆発しなかったのか」

 これにクラウスは頷きを返した。

「ええ。斬った断面から炎が激しく溢れ出た後、弾はそのまま消滅しました」

 何故爆発しなかったのだろう。アランは考えたが、クラウスの次の言葉に思考を中断させられた。

「それに、すごいのは私では無く、この剣の方でございます」

 そう言って、クラウスは腰に差していた刀を抜いた。
 その刀身を場にいる皆に見せ付けるように、切っ先を真上に向ける。
 クラウスは暫しの間そうした後、刀を鞘に納めながら尋ねた。

「それでアラン様、今日はどうしてここに?」

 これにアランは体を硬くした。他人に気づかれないほどであったが。
 遂にこの時が来た。別れを告げる時が。
 どのように告げるか、それはもう決まっている。この瞬間を頭の中で何度も想像して練習した。
 なのに口が重い。胸が、肺が締め付けられているような感じがする。
 ……ここで言わなくてはならないのだ。こんな機会は、きっと二度と訪れない。
 そして、アランは意を決した。

「……実は、この後、俺は王の娘と結婚することになってるんだ」

 この一言で場の空気が一変した。皆、アランが何を言おうとしているのかを察したのだ。
 そしてその空気に気後れしたのか、アランは少しだけうつむきながら言葉を続けた。

「そうなると俺に自由は無くなる。こうして皆に会いに来る事は出来なくなるだろう」

 場の空気がさらに重くなる。アランはそれを払うかのように顔を上げ、

「だから……今日は皆にお別れを言いに来たんだ」

 はっきりと、そう告げた。
 場の空気がさらに重くなる。
 そんな中、ただ一人、クラウスだけが口を開いた。

「……そうですか。寂しくなりますが、これも時代の流れによるものなのでしょう」

 そう言って、クラウスはやや深めに礼をしながら再び口を開いた。

「このクラウス、アラン様のますますのご清栄とご活躍をお祈りしています」

 型にはまった言い回しであったが、丁寧な別れの返事であった。
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