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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第二十六話 ディアナからサラへ(2)
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◆◆◆
マルクス達は茂みに隠れながら移動し、関所へと続く道の脇に伏せた。
そして間も無く、リチャード達を乗せた馬車が迫ってきた。
「ぎりぎりまで引きつけるぞ。合図と同時に馬と車輪を狙って撃て」
マルクスの指示に兵士達は頷きを返し、身構えた。
そして馬車が目の前まで迫った瞬間、マルクスは声を上げた。
「今だ、撃て!」
兵士達は一斉に光弾を放った。
光弾は車輪を完全に破壊し、馬車を横転させた。
馬の悲鳴が響く中、横倒しになった馬車は地面の上を滑りながら土煙を派手に巻き上げた。
しばらくして馬車が止まると、開いた天窓からリチャード達がのろのろと姿を現した。
そこに最も早く駆けつけたのはリチャードの兵士ではなく、賊の方であった。
絶好の機、それを得た賊は高揚感に当てられたのか、突如声を上げた。
「我が父の仇、覚悟!」
リチャードは恐怖に背を向け、関所へと続く道を走り出した。妻もそれに続いた。
賊は逃げるリチャードの背に向かって光弾を放った。
光弾はリチャードの右腕に命中した。彼の右腕はありえない方向に折れ曲がり、その衝撃と痛みにリチャードは悶絶しながら倒れた。
リチャードの妻は夫を心配する様子を見せたが、それは一瞬だけであった。後方から迫ってくる賊に恐怖した妻は、夫を置いて一人で走り出した。
リチャードはそんな妻の背に向かって左手を伸ばしたが、彼女が振り向くことは無かった。
あきらめたリチャードは振り返り、賊との距離を確認した。
賊はもう目の前まで迫っていた。その賊は光る手をリチャードに向けており、今にも光弾を撃ちそうな様子であった。
リチャードは仰向けになりながら目の前に防御魔法を展開した。
防御魔法は間も無く放たれた賊の光弾を弾き飛ばすことに成功した。リチャードの魔力は腐っても貴族のそれであった。
これに賊は焦ったのか、狂ったようにリチャードの防御魔法に向かって光弾を撃ち込み始めた。
この猛攻にリチャードの防御魔法はすぐに悲鳴を上げた。
もう耐えられない、リチャードの顔が絶望に染まった瞬間、その賊の体は前のめりに吹き飛んだ。
「!?」
リチャードは驚きに目を見開きながら、吹き飛んだその賊を目で追った。
うつ伏せに倒れたその賊の背中は真っ赤に染まっていた。かなり強力な魔法がその背に炸裂したのであろう。
「リチャード様、ご無事ですか!?」
直後、声がした方にリチャードが目を移すと、そこにはこちらに向かってくるリチャードの兵士達の姿があった。
リチャードは安堵と怒りが混じった表情を見せながら兵士達に口を開いた。
「これが無事に見えるのか?! 貴様ら、私をちゃんと守らんか!」
怒鳴るリチャードに対し、馬に乗った兵士が口を開いた。
「リチャード様、後ろにお乗りください! 関所までお連れします!」
リチャードを後ろに乗せた兵士は渇を入れ、馬を走らせた。
賊との距離はみるみる開き、それにしたがってリチャードの心は落ち着いていった。
そんな時、後ろを見ていたリチャードの目に、あるものが映りこんだ。
それは自分を置いて逃げていった妻であった。妻は腹を押さえながら横向きに倒れていた。
その腰には矢が突き立っており、貫通した矢尻が妻の腹から飛び出していた。
リチャードはそんな妻に対し、軽蔑した眼差しを向けながら唾を吐いた。
賊との距離が十分に開いた頃、リチャードは折れた右腕を見ながら口を開いた。
「どこのどいつか知らんが、絶対にただでは済まさんぞ。この私にこんな事をしたこと、必ず後悔させてやる」
リチャードはそう毒を吐きながらその場から去っていった。
◆◆◆
一方、マルクスは遠くなっていくリチャードの背を忌々しいと言わんばかりの表情で見つめながら口を開いた。
「リチャードには逃げられたか……娘はどこに行った!?」
これに傍にいたマルクスの兵士の一人が遠くを指差しながら口を開いた。
「娘は森の方へと逃げております!」
マルクスがそちらに目を向けると、そこには草原の中を走るディアナと召使いサラの姿があった。
◆◆◆
ディアナはサラの手を引きながら森を目指し走っていた。
走るディアナの髪に矢が掠める。追ってきている賊との距離が縮まってきているのか、二人を襲う矢の数は明らかに増えてきていた。
「頑張って、サラ!」
ディアナはちらりとサラのほうを見てそう言った。
サラの方が体力はあるはずなのだが、その足は徐々に遅くなり、今ではディアナが彼女を牽引しているという有様であった。
そしてとうとう限界を迎えたのか、サラは足をもつれさせ、その場に崩れ落ちるように倒れた。
「サラ……!」
ディアナは倒れたサラに手を差し伸べようとしたが、その手は途中で止まった。
うつ伏せに倒れたサラの背中には矢が刺さっていた。それも一本では無かった。
「走ってディアナ様。私はここまでで御座います」
サラは申し訳なさそうにそう言ったが、その目は鋭く、力強かった。
その視線と、迫る賊の姿に押されたディアナは、何も言わず振り返り、再び森へと走り始めた。
マルクス達は茂みに隠れながら移動し、関所へと続く道の脇に伏せた。
そして間も無く、リチャード達を乗せた馬車が迫ってきた。
「ぎりぎりまで引きつけるぞ。合図と同時に馬と車輪を狙って撃て」
マルクスの指示に兵士達は頷きを返し、身構えた。
そして馬車が目の前まで迫った瞬間、マルクスは声を上げた。
「今だ、撃て!」
兵士達は一斉に光弾を放った。
光弾は車輪を完全に破壊し、馬車を横転させた。
馬の悲鳴が響く中、横倒しになった馬車は地面の上を滑りながら土煙を派手に巻き上げた。
しばらくして馬車が止まると、開いた天窓からリチャード達がのろのろと姿を現した。
そこに最も早く駆けつけたのはリチャードの兵士ではなく、賊の方であった。
絶好の機、それを得た賊は高揚感に当てられたのか、突如声を上げた。
「我が父の仇、覚悟!」
リチャードは恐怖に背を向け、関所へと続く道を走り出した。妻もそれに続いた。
賊は逃げるリチャードの背に向かって光弾を放った。
光弾はリチャードの右腕に命中した。彼の右腕はありえない方向に折れ曲がり、その衝撃と痛みにリチャードは悶絶しながら倒れた。
リチャードの妻は夫を心配する様子を見せたが、それは一瞬だけであった。後方から迫ってくる賊に恐怖した妻は、夫を置いて一人で走り出した。
リチャードはそんな妻の背に向かって左手を伸ばしたが、彼女が振り向くことは無かった。
あきらめたリチャードは振り返り、賊との距離を確認した。
賊はもう目の前まで迫っていた。その賊は光る手をリチャードに向けており、今にも光弾を撃ちそうな様子であった。
リチャードは仰向けになりながら目の前に防御魔法を展開した。
防御魔法は間も無く放たれた賊の光弾を弾き飛ばすことに成功した。リチャードの魔力は腐っても貴族のそれであった。
これに賊は焦ったのか、狂ったようにリチャードの防御魔法に向かって光弾を撃ち込み始めた。
この猛攻にリチャードの防御魔法はすぐに悲鳴を上げた。
もう耐えられない、リチャードの顔が絶望に染まった瞬間、その賊の体は前のめりに吹き飛んだ。
「!?」
リチャードは驚きに目を見開きながら、吹き飛んだその賊を目で追った。
うつ伏せに倒れたその賊の背中は真っ赤に染まっていた。かなり強力な魔法がその背に炸裂したのであろう。
「リチャード様、ご無事ですか!?」
直後、声がした方にリチャードが目を移すと、そこにはこちらに向かってくるリチャードの兵士達の姿があった。
リチャードは安堵と怒りが混じった表情を見せながら兵士達に口を開いた。
「これが無事に見えるのか?! 貴様ら、私をちゃんと守らんか!」
怒鳴るリチャードに対し、馬に乗った兵士が口を開いた。
「リチャード様、後ろにお乗りください! 関所までお連れします!」
リチャードを後ろに乗せた兵士は渇を入れ、馬を走らせた。
賊との距離はみるみる開き、それにしたがってリチャードの心は落ち着いていった。
そんな時、後ろを見ていたリチャードの目に、あるものが映りこんだ。
それは自分を置いて逃げていった妻であった。妻は腹を押さえながら横向きに倒れていた。
その腰には矢が突き立っており、貫通した矢尻が妻の腹から飛び出していた。
リチャードはそんな妻に対し、軽蔑した眼差しを向けながら唾を吐いた。
賊との距離が十分に開いた頃、リチャードは折れた右腕を見ながら口を開いた。
「どこのどいつか知らんが、絶対にただでは済まさんぞ。この私にこんな事をしたこと、必ず後悔させてやる」
リチャードはそう毒を吐きながらその場から去っていった。
◆◆◆
一方、マルクスは遠くなっていくリチャードの背を忌々しいと言わんばかりの表情で見つめながら口を開いた。
「リチャードには逃げられたか……娘はどこに行った!?」
これに傍にいたマルクスの兵士の一人が遠くを指差しながら口を開いた。
「娘は森の方へと逃げております!」
マルクスがそちらに目を向けると、そこには草原の中を走るディアナと召使いサラの姿があった。
◆◆◆
ディアナはサラの手を引きながら森を目指し走っていた。
走るディアナの髪に矢が掠める。追ってきている賊との距離が縮まってきているのか、二人を襲う矢の数は明らかに増えてきていた。
「頑張って、サラ!」
ディアナはちらりとサラのほうを見てそう言った。
サラの方が体力はあるはずなのだが、その足は徐々に遅くなり、今ではディアナが彼女を牽引しているという有様であった。
そしてとうとう限界を迎えたのか、サラは足をもつれさせ、その場に崩れ落ちるように倒れた。
「サラ……!」
ディアナは倒れたサラに手を差し伸べようとしたが、その手は途中で止まった。
うつ伏せに倒れたサラの背中には矢が刺さっていた。それも一本では無かった。
「走ってディアナ様。私はここまでで御座います」
サラは申し訳なさそうにそう言ったが、その目は鋭く、力強かった。
その視線と、迫る賊の姿に押されたディアナは、何も言わず振り返り、再び森へと走り始めた。
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