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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第二十五話 舞台に上がる怪物(3)
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◆◆◆
その夜――
自室に戻ったディアナは何をするでも無く、椅子に座ったまま呆然としていた。
その部屋は綺麗な牢獄であった。美しい壁紙と装飾品に彩られた貴族らしい部屋であったが、窓には鉄格子が付けられており、ドアには外から鍵がかけられていた。
そしてそんな部屋を支配していた静寂は、突如ドアの向こうから聞こえてきた女性の声に破られた。
「失礼します」
凛としたその声の後、鍵が解除される音が部屋に響き、一人の召使いが部屋に入ってきた。
「こんばんは、サラ」
ディアナはその召使いの名を呼んだ。その顔は先ほどまでよりも僅かに穏やかになっているように見えた。
これに召使いサラは丁寧な礼を返した後、口を開いた。
「そろそろお休みになられる時間ですが……何か御用はありませんでしょうか?」
「……特に無いわ。ありがとう」
「今日の夜の見回り当番は私なので、また御様子をうかがいに参ります。その時に何かあれば遠慮なく仰せつかって下さい」
「ええ、そうさせてもらうわ、サラ」
召使いサラは再び主に礼をした後、部屋から出て行った。
部屋が再び静寂に支配された後、ディアナは寝巻きに着替えてベッドに入った。
照明は消す気になれなかった。船で見たあの老人が化けて出てくるのでは無いか、そんな妄想にディアナは怯えていた。
ディアナは身を守るかのように布団を深くかぶり、目を閉じた。
◆◆◆
深夜――
召使いサラはランプを片手に、夜の見回りを行っていた。
そしてディアナの部屋の前に到着したサラは、ドアに近寄りそっと聞き耳を立てた。
中からは何も聞こえてはこなかった。次にサラは遠慮がちなノックをした。
しかし、やはりドアからは何の反応も返ってこなかった。
(どうやら静かにお休みになられているようだわ)
そう思ったサラはその場を離れようとした。
だがサラはドアから数歩離れたところで足を止めた。
振り返ったサラは再びドアの傍で聞き耳を立てた。
サラの耳に入った音、それは呻き声であった。
「ディアナお嬢様?」
返事は無かったが、その呻き声は徐々に大きく、はっきりしたものになっていった。
「! ディアナお嬢様?!」
これに身を強張らせたサラは、ドアノブをにぎりつつ主人の名を呼んだ。
そしてサラが扉を閉ざしている小さなかんぬきに手をかけた時、その呻き声は悲鳴に変わった。
「お嬢様!」
サラは主の名を呼びながら部屋に飛び込んだ。
部屋の主ディアナはベッドの上にいた。先の悲鳴と共に飛び起きたのだろう、ディアナは上半身だけを起こした体勢で呆然としていた。
サラはそんなディアナの傍に駆け寄り、声をかけた。
「大丈夫ですか? ディアナお嬢様」
見ると、ディアナは汗だくになっていた。相当な悪夢を見たのだろう。
「……このままでは風邪を引いてしまいます。着替えましょう」
サラは着替えを取りに衣装棚のほうへ行こうとしたが、突如ディアナに服の裾を掴まれた為、その足を止めた。
「お嬢様?」
サラはディアナの言葉を待った。しばらくしてディアナはゆっくりと口を開いた。
「……もう嫌、こんな生活」
その言葉は悪夢とは何の関係も無かった。弱ったディアナはただその心に溜まった毒を吐き出そうとしているだけであった。
「父も、母も、この家も嫌い。私は自由が欲しい」
その言葉を最後にディアナは口を閉ざしてしまった。召使いサラはそんな主人のそばに寄り添い、敬愛と忠心を示すことしかできなかった。
ディアナ、彼女は「籠の鳥」であった。自由は無く、未来は父であるリチャードの手によって決められる、そんな境遇の悲しい女であった。
その夜――
自室に戻ったディアナは何をするでも無く、椅子に座ったまま呆然としていた。
その部屋は綺麗な牢獄であった。美しい壁紙と装飾品に彩られた貴族らしい部屋であったが、窓には鉄格子が付けられており、ドアには外から鍵がかけられていた。
そしてそんな部屋を支配していた静寂は、突如ドアの向こうから聞こえてきた女性の声に破られた。
「失礼します」
凛としたその声の後、鍵が解除される音が部屋に響き、一人の召使いが部屋に入ってきた。
「こんばんは、サラ」
ディアナはその召使いの名を呼んだ。その顔は先ほどまでよりも僅かに穏やかになっているように見えた。
これに召使いサラは丁寧な礼を返した後、口を開いた。
「そろそろお休みになられる時間ですが……何か御用はありませんでしょうか?」
「……特に無いわ。ありがとう」
「今日の夜の見回り当番は私なので、また御様子をうかがいに参ります。その時に何かあれば遠慮なく仰せつかって下さい」
「ええ、そうさせてもらうわ、サラ」
召使いサラは再び主に礼をした後、部屋から出て行った。
部屋が再び静寂に支配された後、ディアナは寝巻きに着替えてベッドに入った。
照明は消す気になれなかった。船で見たあの老人が化けて出てくるのでは無いか、そんな妄想にディアナは怯えていた。
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中からは何も聞こえてはこなかった。次にサラは遠慮がちなノックをした。
しかし、やはりドアからは何の反応も返ってこなかった。
(どうやら静かにお休みになられているようだわ)
そう思ったサラはその場を離れようとした。
だがサラはドアから数歩離れたところで足を止めた。
振り返ったサラは再びドアの傍で聞き耳を立てた。
サラの耳に入った音、それは呻き声であった。
「ディアナお嬢様?」
返事は無かったが、その呻き声は徐々に大きく、はっきりしたものになっていった。
「! ディアナお嬢様?!」
これに身を強張らせたサラは、ドアノブをにぎりつつ主人の名を呼んだ。
そしてサラが扉を閉ざしている小さなかんぬきに手をかけた時、その呻き声は悲鳴に変わった。
「お嬢様!」
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「大丈夫ですか? ディアナお嬢様」
見ると、ディアナは汗だくになっていた。相当な悪夢を見たのだろう。
「……このままでは風邪を引いてしまいます。着替えましょう」
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「お嬢様?」
サラはディアナの言葉を待った。しばらくしてディアナはゆっくりと口を開いた。
「……もう嫌、こんな生活」
その言葉は悪夢とは何の関係も無かった。弱ったディアナはただその心に溜まった毒を吐き出そうとしているだけであった。
「父も、母も、この家も嫌い。私は自由が欲しい」
その言葉を最後にディアナは口を閉ざしてしまった。召使いサラはそんな主人のそばに寄り添い、敬愛と忠心を示すことしかできなかった。
ディアナ、彼女は「籠の鳥」であった。自由は無く、未来は父であるリチャードの手によって決められる、そんな境遇の悲しい女であった。
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