98 / 586
第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十話 武技交錯(4)
しおりを挟む
◆◆◆
アランとリックを中心に広がる静寂の波。
それは、少し離れたところにいるクリス達も包み込もうとしていた。
「対炎魔法使い用の隊列を組め!」
相手の顔が認識できるくらいに距離が縮まってから、クリスは部隊に指示を出した。
クリスの正面にいる相手は炎使い、リーザであった。
「総員隊列変更!」
臣下ハンスが手で合図を送りながらクリスの指示を連呼する。小隊の長達もハンスと同じように連呼し、クリスの指示は波が広がるように部隊全体に伝わった。
指揮官の声に後列にいた魔法使い達が動く。魔法使いは前に出で、前衛を固める大盾兵の真後ろにぴったりと張り付いた。
彼らはまだ知らない。とてつもなく奇妙で、経験したことの無い別の大きな波が近付いていることを。
「全員構えろ!」
クリスが声を上げながらリーザに向けて手をかざす。魔法使い達も素早く同じ体勢を取った。
そしてそれは敵も同じであった。双方は手の平を突きつけ合いながら、じりじりと距離を縮めていった。
場の緊張が高まる。それが極限に達した瞬間、クリスとリーザは同時に動いた。
クリスとリーザの手が発光する。放たれた二人の炎は両者を結ぶ線の中心でぶつかり合った。
その瞬間、クリスは自身の不利を悟った。単純な魔力は明らかにリーザのほうが上であった。
しかし、それだけで勝負が決するわけではない。周囲の魔法使い達は既に光弾を放っている。
クリスとリーザ、両部隊の魔法使い達が放った光弾は、炎の衝突点に向かって飛んでいった。
押し合い、混ざり、渦のようになっている炎の衝突点に、次々と光弾が叩き込まれる。
激しい炸裂音と共に、火の粉と閃光が周囲に溢れた。
閃光がクリスの目を眩ませる。炎がどうなっているのか全くわからない。押されているのか? 押し返しているのか?
クリスの視界から眩さが消える。直後、クリスの目に映ったのは、眼前にまで迫った炎の壁であった。
先の光弾のぶつかり合いはリーザ達に軍配が上がっていた。光弾の援護によって勢いを得たリーザの炎はクリスの炎を一気に押し返していた。
クリスの魔法使い達が弱いというわけでは無い。これは完全な運による結果である。光弾がどのようにぶつかり合い、優劣が傾いたのかなど誰にもわからないのだから。
身を焼く熱気に、クリスは思わず後ずさりをした。
手が震える。魔力が底を尽きかけている。クリスの手から生まれる炎は、徐々に力無く、細くなっていった。
もう限界だ、呑みこまれる――、脳裏によぎった苦痛の未来に、クリスは目を細めた。
しかしその直後、目の前まで迫っていた炎は急速にしぼみ、掻き消えた。
(持続力は互角か! 助かった!)
命を拾った安堵感に、クリスは深く息を吐いた。
しかし戦いは終わっていない。次のぶつかり合いまでに魔力を充填しなくてはならない。
飛び交う光弾から身を守るため、一旦後ろに下がろうと後退りする。
その瞬間、
「……?」
クリスは奇妙な感覚に身を包まれた。
場が静かになっている。
皆立ち止まっている。
対峙するリーザ達も同じだ。
ある者が顔の向きを変えた。何かを見つけたようだ。
なんだなんだと、他の者達もそちらへ顔を向ける。
そして、クリスもまた同じように、そちらへと視線を向けた。
アランとリックを中心に広がる静寂の波。
それは、少し離れたところにいるクリス達も包み込もうとしていた。
「対炎魔法使い用の隊列を組め!」
相手の顔が認識できるくらいに距離が縮まってから、クリスは部隊に指示を出した。
クリスの正面にいる相手は炎使い、リーザであった。
「総員隊列変更!」
臣下ハンスが手で合図を送りながらクリスの指示を連呼する。小隊の長達もハンスと同じように連呼し、クリスの指示は波が広がるように部隊全体に伝わった。
指揮官の声に後列にいた魔法使い達が動く。魔法使いは前に出で、前衛を固める大盾兵の真後ろにぴったりと張り付いた。
彼らはまだ知らない。とてつもなく奇妙で、経験したことの無い別の大きな波が近付いていることを。
「全員構えろ!」
クリスが声を上げながらリーザに向けて手をかざす。魔法使い達も素早く同じ体勢を取った。
そしてそれは敵も同じであった。双方は手の平を突きつけ合いながら、じりじりと距離を縮めていった。
場の緊張が高まる。それが極限に達した瞬間、クリスとリーザは同時に動いた。
クリスとリーザの手が発光する。放たれた二人の炎は両者を結ぶ線の中心でぶつかり合った。
その瞬間、クリスは自身の不利を悟った。単純な魔力は明らかにリーザのほうが上であった。
しかし、それだけで勝負が決するわけではない。周囲の魔法使い達は既に光弾を放っている。
クリスとリーザ、両部隊の魔法使い達が放った光弾は、炎の衝突点に向かって飛んでいった。
押し合い、混ざり、渦のようになっている炎の衝突点に、次々と光弾が叩き込まれる。
激しい炸裂音と共に、火の粉と閃光が周囲に溢れた。
閃光がクリスの目を眩ませる。炎がどうなっているのか全くわからない。押されているのか? 押し返しているのか?
クリスの視界から眩さが消える。直後、クリスの目に映ったのは、眼前にまで迫った炎の壁であった。
先の光弾のぶつかり合いはリーザ達に軍配が上がっていた。光弾の援護によって勢いを得たリーザの炎はクリスの炎を一気に押し返していた。
クリスの魔法使い達が弱いというわけでは無い。これは完全な運による結果である。光弾がどのようにぶつかり合い、優劣が傾いたのかなど誰にもわからないのだから。
身を焼く熱気に、クリスは思わず後ずさりをした。
手が震える。魔力が底を尽きかけている。クリスの手から生まれる炎は、徐々に力無く、細くなっていった。
もう限界だ、呑みこまれる――、脳裏によぎった苦痛の未来に、クリスは目を細めた。
しかしその直後、目の前まで迫っていた炎は急速にしぼみ、掻き消えた。
(持続力は互角か! 助かった!)
命を拾った安堵感に、クリスは深く息を吐いた。
しかし戦いは終わっていない。次のぶつかり合いまでに魔力を充填しなくてはならない。
飛び交う光弾から身を守るため、一旦後ろに下がろうと後退りする。
その瞬間、
「……?」
クリスは奇妙な感覚に身を包まれた。
場が静かになっている。
皆立ち止まっている。
対峙するリーザ達も同じだ。
ある者が顔の向きを変えた。何かを見つけたようだ。
なんだなんだと、他の者達もそちらへ顔を向ける。
そして、クリスもまた同じように、そちらへと視線を向けた。
0
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる