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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第三十話 武技交錯(4)

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   ◆◆◆

 アランとリックを中心に広がる静寂の波。
 それは、少し離れたところにいるクリス達も包み込もうとしていた。

「対炎魔法使い用の隊列を組め!」

 相手の顔が認識できるくらいに距離が縮まってから、クリスは部隊に指示を出した。
 クリスの正面にいる相手は炎使い、リーザであった。

「総員隊列変更!」

 臣下ハンスが手で合図を送りながらクリスの指示を連呼する。小隊の長達もハンスと同じように連呼し、クリスの指示は波が広がるように部隊全体に伝わった。
 指揮官の声に後列にいた魔法使い達が動く。魔法使いは前に出で、前衛を固める大盾兵の真後ろにぴったりと張り付いた。
 彼らはまだ知らない。とてつもなく奇妙で、経験したことの無い別の大きな波が近付いていることを。

「全員構えろ!」

 クリスが声を上げながらリーザに向けて手をかざす。魔法使い達も素早く同じ体勢を取った。
 そしてそれは敵も同じであった。双方は手の平を突きつけ合いながら、じりじりと距離を縮めていった。
 場の緊張が高まる。それが極限に達した瞬間、クリスとリーザは同時に動いた。
 クリスとリーザの手が発光する。放たれた二人の炎は両者を結ぶ線の中心でぶつかり合った。
 その瞬間、クリスは自身の不利を悟った。単純な魔力は明らかにリーザのほうが上であった。
 しかし、それだけで勝負が決するわけではない。周囲の魔法使い達は既に光弾を放っている。
 クリスとリーザ、両部隊の魔法使い達が放った光弾は、炎の衝突点に向かって飛んでいった。
 押し合い、混ざり、渦のようになっている炎の衝突点に、次々と光弾が叩き込まれる。
 激しい炸裂音と共に、火の粉と閃光が周囲に溢れた。
 閃光がクリスの目を眩ませる。炎がどうなっているのか全くわからない。押されているのか? 押し返しているのか?
 クリスの視界から眩さが消える。直後、クリスの目に映ったのは、眼前にまで迫った炎の壁であった。
 先の光弾のぶつかり合いはリーザ達に軍配が上がっていた。光弾の援護によって勢いを得たリーザの炎はクリスの炎を一気に押し返していた。
 クリスの魔法使い達が弱いというわけでは無い。これは完全な運による結果である。光弾がどのようにぶつかり合い、優劣が傾いたのかなど誰にもわからないのだから。
 身を焼く熱気に、クリスは思わず後ずさりをした。
 手が震える。魔力が底を尽きかけている。クリスの手から生まれる炎は、徐々に力無く、細くなっていった。
 もう限界だ、呑みこまれる――、脳裏によぎった苦痛の未来に、クリスは目を細めた。
 しかしその直後、目の前まで迫っていた炎は急速にしぼみ、掻き消えた。

(持続力は互角か! 助かった!)

 命を拾った安堵感に、クリスは深く息を吐いた。
 しかし戦いは終わっていない。次のぶつかり合いまでに魔力を充填しなくてはならない。
 飛び交う光弾から身を守るため、一旦後ろに下がろうと後退りする。
 その瞬間、

「……?」

 クリスは奇妙な感覚に身を包まれた。
 場が静かになっている。
 皆立ち止まっている。
 対峙するリーザ達も同じだ。
 ある者が顔の向きを変えた。何かを見つけたようだ。
 なんだなんだと、他の者達もそちらへ顔を向ける。
 そして、クリスもまた同じように、そちらへと視線を向けた。
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