Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第三章 アランが己の中にある神秘を自覚し、体得する

第二十三話 神秘の体得(3)

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   ◆◆◆

 クリスの不安から来る緊張が最大に達した時、それは起こった。
 突如、後方から警告を示す鐘の音が響いてきたのだ。

「何だ!?」

 クリスはそう叫んだが、何が起きたのかはわかっていた。異常を知らせるその鐘には、拍子の速さで意味を持たせてあるからだ。

「城に敵が接近しているようです!」

 臣下ハンスはその意味を声に出した。クリスは町の方を振り返りながら声を上げた。

「すぐに救援に―「敵がこちらに向かって突撃してきます!」

 だがその声は、より強い兵士の警告にかき消された。
 兵士の声にクリスが前を向くと、そこには土煙を上げながら突っ込んでくる敵軍の姿があった。
 クリスは一瞬どうすべきか迷ったが、今は目の前の敵に対処することが先決であると判断し、声を上げた。

「……全隊構えろ! 敵を迎え撃て!」

   ◆◆◆

 一方、鐘の音を聞いたアランもまた同様に声を上げていた。

「俺は半分の兵を率いて城の防衛に回る! クラウスはこの場に残って奴らを迎撃してくれ!」

 アランの行動は迅速であった。救援隊の選出と編成は敵との激突前に完了した。

「ここの指揮はクラウスに任せる! 頼んだぞ!」

 アランはクラウスにそう指示した後、返事を聞くよりも早く、城に向かって走り出した。

   ◆◆◆

 その頃、城内は喧騒に包まれていた。

「敵襲だ!」
「どこから侵入された!?」
「城壁だ! やつら、壁に穴をあけやがった!」

 兵士達の怒声を耳にしながら、ディーノは戦いの準備をしていた。
 靴を履き、皮の鎧を身につけ、馴染んだ獲物に手を伸ばす。
 勢いよく槍斧を担ぐ。瞬間、胸から走った鋭い痛みに、ディーノは身を強張らせた。

「……っ!」

 こんな状態で戦えるのか? そんな考えが一瞬よぎったが、いかなければならない、という強迫観念じみた責任感がディーノを突き動かしていた。

   ◆◆◆

 ディーノが兵舎を飛び出す頃には、城は既に悲鳴に包まれていた。

「すまない、どいてくれ!」

 奥から逃げてくる従者達を掻き分けながら、ディーノは戦闘音のする方へと進んでいった。
 火を放たれたのか、城内には数多くの煙が立ち上っていた。
 走りながらディーノはいつもとは違う緊張感を抱いていた。それは戦闘音の中にあまり聞きなれない音が混じっていたからだ。
 その音は投石器が投げた岩が城壁に着弾した時の音に少し似ていた。

(あんな音を立てる攻撃をする奴がいるってのか……これはまじでやべえかもしれねえ)

 そんな事を頭で考えながら、ディーノの足はすくむどころか、ますます速くなるのであった。

   ◆◆◆

 同時刻、クラウス達はバージルと戦闘を開始していた。

「来るぞ!」

 馬で突っ込んでくるバージルを前に、クラウスは声を上げた。

「先と同じだ! 奴の動きをよく見て進路を読め!」

 クラウスに言われるよりも早く、兵士達は身構えた。

「まだ撃つな! 今撃っても無駄だ!」

 それも兵士達は承知であったが、クラウスは兵士達を鼓舞するために声を出していた。
 バージルはクラウス達の目の前まで迫った後、光の壁を展開すると同時に反転するかのように進路を変えた。

「回避しろ!」

 クラウスのその声に弾かれたかのように、兵士達は大きく回避行動を取った。バージルの突撃の軌道上から兵士達がさっと引くその様は、まるで道を開けているかのようであった。
 バージルは回避し損ねた兵士を吹き飛ばしながらクラウスの部隊の中を浅く旋回した。
 駆け抜けたバージルが背中を晒しながら自部隊の方に帰還する。だが、その背中をクラウス達が黙って見送るはずが無かった。

「今だ、撃て!」

 バージルの背に向かって一斉に光弾を放つ。
 同時に、バージルの兵士達も隊長の帰還を援護するべく一斉に光弾を放った。
 大量の光弾が双方の間を飛び交う。バージルは後方に光の壁を展開してこれを凌ぎ、対するクラウス達は前面に配した大盾兵と防御魔法でこれを防いだ。
 クラウス達の攻撃は無駄に終わったかのように見えたが、そうでは無かった。光の壁を二度展開したバージルの魔力は相当量消費されており、再度突撃するには魔力を充填する時間を置く必要があった。
 そして、それがわかっているクラウスはすぐさま声を上げた。

「すぐに反撃に転じよ! 接近しつつ敵に光弾を撃ち込め!」

 クラウスが号令を発すると、部隊は気勢を上げながら突撃を開始した。
 しかし両者がぶつかり合う事は無かった。クラウス達が前進した分、相手が引いたからだ。

(敵は引き撃ちに徹する気か)

 敵の戦い方は良くも悪くもバージルを中心とした戦法であった。バージルの兵士達はバージルを援護するためだけにいると言ってもいいほどであった。
 クラウス達は接近することを諦め、双方は一定の距離を開けたまま撃ち合いを続けた。
 だがその距離は遠く、互いに有効な効果は得られなかった。
 この間、バージルは光弾が飛び交う様を眺めていただけであったが、自身の体に十分な魔力が満ちるのを感じた瞬間、馬に活を入れた。

「また突撃が来るぞ! 全員防御!」

 クラウスが声を上げる。兵士達はぴたりと攻撃を止め、先と同じようにバージルを警戒する姿勢をとった。
 後何回この応酬を繰り返すのであろうか。両部隊の攻防は長くなりそうな気配を漂わせていた。
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