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第六話 救出作戦(3)

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   ◆◆◆

 アラン達が出発してから二週間後――

 一足先に戦地に到着したアラン達は、谷間の岩陰に身を隠しながら敵の陣を観察していた。
 敵陣の配置は聞いていた情報通りであったが、アランは違和感を抱いていた。
 敵の陣に活気が無さ過ぎるのである。敵の兵力が情報通りであるなら、兵士達の生活の気配がもっと感じられるはずである。
 しかし今敵に見つかるわけにはいかないため、アラン達は息を潜めてじっとしていた。

「そろそろ時間だな」

 ディーノは太陽の位置を見ながらそう呟いた。アラン達は作戦開始の予定時刻を待っていた。奇襲部隊の進軍速度が予定通りであるなら、既に森の中で待機しているはずであった。
 しばらくして太陽が予定の位置に達したのを確認したアランは、突撃の号令を下した。
 兵士達は気勢を上げながら一斉に飛び出した。しかしその直後、後方からの何かが崩れる音に皆は振り返った。
 そこには岩や土砂が積み重なり、アラン達が来た道を完全に塞いでしまっていた。

「罠だ! 全軍防御!」

 アランは咄嗟に警戒を発した。それとほぼ同時に、小高い丘の向こうから敵の伏兵が飛び出してくるのが見えた。
 一部兵士達に動揺が見られたが、あらかじめ疑いを抱いていたアランは冷静に指示を下した。

「うろたえるな! 少し予定が狂ったが、やることは何も変わらない! 円陣を組んで敵を迎え撃て!」

 敵の罠にかかり、退路を失って包囲されているという状況にも拘らず、アランの部隊は全く秩序を乱していなかった。

   ◆◆◆

 アラン達が罠に嵌(は)められたのを遠めに見ていたケビンはすぐさま声を上げた。

「陽動隊が嵌(は)められた! こちらにも何かあるはずだ! 周囲を警戒しろ!」

 ケビンがそう声を上げた途端、森に煙が立ち込め始めた。その煙は後方から流れてきているようであった。

「森に火を点けられたぞ! 急いで脱出しろ!」

 慌てて森から脱出したケビン達の前に当然と言わんばかりに敵の伏兵が立ちはだかる。

「既に囲まれてるぞ! 急いで戦闘隊形を組め!」

 ケビン達はまともな陣形を組むことすらできないまま、敵と交戦を開始した。

   ◆◆◆

 アラン達の戦いは城にいるクリスからも見えていた。そしてアラン達が苦しい状況に立たされていることも理解していた。
 クリスはすぐさま戦装束に着替え部屋を飛び出した。するとそこには同じように戦装束に身を包んだ臣下達が並んでいた。
 主を出迎えた臣下達は黙って主の命令を待っていた。

「我々も出陣するぞ! この機を逃せば我らに生き残る道は無いと覚悟せよ!」

 待ち望んでいたその言葉を聞いた臣下達は剣を正面に掲げ、戦意と敬意を示した。

   ◆◆◆

 城を飛び出したクリス達は待ち構えていた敵の総大将、ルークの部隊と交戦を開始した。
 クリス達が敵に足止めされているのを見たアランは、クリス達がこちらに合流してくれることはあまり期待できないことを理解した。
 アラン達は防御の陣形を組んで必死に耐えていたが、敵の激しい包囲攻撃に味方は徐々に倒れていった。

(このままではまずい)

 アランは頭ではそう思っていたのだが、目の前にいる敵を対処するのに精一杯であった。
 そのときディーノが突然敵中に切り込んでいった。突撃したディーノはすさまじい勢いで槍斧を振り回した。
 ディーノはかつてカミラと戦った時のように、激しい連続攻撃を繰り出した。ディーノの槍斧はまるで竜巻のように次々と敵を巻き込んでいった。
 その凄まじい戦いぶりは皆を鼓舞したが、アランだけはディーノの身を案じていた。
 今のディーノの連撃は体力を激しく消耗しているはずだ。魔法能力を持たない者にとって戦場で体力が尽きるということは、それ即ち死を意味している。

「ディーノ! 無茶をするな!」

 アランはディーノを戒めた。しかしディーノは攻撃の手を緩めようとはせず、一瞬だけアランと目を合わせ、

「アラン! ここで亀のように固まっていても苦しくなるだけだぞ!」

 と、アランに返した。
 ディーノの言葉をアランは「ここは守るよりも攻めるべきだ」と受け取った。

(確かにこの状況は明らかにこちらが不利、待つよりも動いて活路を開くべきか)

 アランはディーノを信じ、その力に賭けることにした。

「敵中を強行突破してクリス将軍と合流するぞ! ディーノを先頭に突撃陣形を組め!」

 アランの号令に反応した親衛隊のクラウスとフリッツはすぐさま兵を動かした。

「ディーノ殿を援護しろ! 血路を開くのだ!」

 クラウスとフリッツはディーノを守るように両翼に兵を配置し、ディーノを先頭に凸型の陣形を組んだ。

   ◆◆◆

 一方、アランと同様に苦しい状況に立たされていたケビンもまた、アラン隊が敵中突破を試みていることに触発され、声を上げた。

「全員聞け! この一戦は我等が故郷を取り戻すための戦いだ! この戦いに負ければ家族も友も誇りも全て失うと心得よ!」

 ケビンのこの言葉に味方の士気は大いに昂ぶった。部隊の気勢は目に見えてわかるほど高まり、その戦意は個々の兵士達の勇猛さに現れていた。

「これよりアラン隊との合流を図る! 後ろは振り返るな! 眼前の敵を突破することだけに集中しろ!」

 ケビンはアラン隊に向けて剣を振りかざし、突撃を開始した。陣形は相変わらず滅茶苦茶であったが、部隊の意思は完璧に統率されていた。
 ケビン隊はアラン隊との合流を目指し、アラン隊はクリス隊を目指し走り始めた。結果として三つの部隊は一つに合流しようとしていた。
 敵の総大将ルークは一つだけ間違いを犯していた。それは敵の戦力を見誤っていたことだ。アラン隊には精鋭であるディーノをはじめ、クラウスやフリッツなどの練度の高い歴戦の兵士達で固められており、ケビン隊のほうは戦力ではアラン隊に及ばないものの、その士気の高さは凄まじく、まるで死を恐れない狂戦士の様相であった。
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