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第四話 父を倒した者達(3)
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◆◆◆
一方その頃、ディーノもまた苦しい状況に立たされていた。
ディーノはアランから少し離れたところで戦っていた。親友が光の壁に蹂躙される様を遠目に見たディーノは思わず声を上げた。
「アラン!」
その瞬間の隙を突き、大槍の矛先がディーノの胸をめがけて飛んできた。
ディーノは寸でのところで身を反らしたが、大槍の矛先は僅かに触れ、ディーノの胸板を削っていった。
「余所見をする余裕があるとはなめられたものだ」
大槍の使い手はディーノが何に気を取られ焦っているのかを知りつつ、そう言った。
ディーノは今すぐにでも親友の窮地を助けに行きたかったが、先ほどからずっとここで足止めを食らっていた。
ディーノの前に立ちはだかっていたのは二人。一人はサイラス、そしてもう一人は初陣のディーノを圧倒した大槍を使うあの大男であった。
サイラスにとってこの大槍使いの存在は予期せぬ幸運であった。大槍使いはディーノの攻撃を正面から受け止める技量と体力を有していた。
負傷したアランとアンナが撤退し始めたのを見たサイラスはすかさず号令を発した。
「敵の主力が崩れたぞ! 一気に押し込め! 後列の投石器部隊も追従せよ!」
クラウス達は敵の進軍を懸命に食い止めていたが、突破されるのは時間の問題に見えた。
(くそ、これ以上ここで足止めを食らうわけにはいかねえな)
ディーノの中に焦る気持ちばかりが積もっていたが、目の前にいる二人は実際厄介であった。
大槍使いを狙えばサイラスの電撃魔法が襲いかかって来る。逆にサイラスを狙えば大槍が、というように敵はお互いをカバーしながら後の先に徹していた。
(楽に抜ける相手じゃねえ、覚悟を決めるか)
安全策で突破できる相手ではない。ディーノは賭けに出た。
ディーノは盾を正面に構え、サイラスに向かって突撃した。それを見たサイラスと大槍使いの二人は同時に迎撃体勢を取った。
ディーノはサイラスの電撃魔法の初動を見てから、サイラスに向かって盾を投げつけた。
ディーノの手から離れた直後、盾は閃光に包まれた。
ここまではディーノの予想通り、問題はこの次であった。
あの男の大槍も既にこちらに向かって突き出されているはずだ。視線をそちらに向ける余裕は無い。ディーノは自身の直感だけを頼りに、回避行動をとった。
幸運の女神はディーノに味方した。身を反らしたディーノは自身の腹に熱いものが走る感覚を覚えたが、串刺しは回避できた。
そして、回避行動と同時に槍斧を両手持ちに切り替えていたディーノは、双腕による全力の一撃を大槍使いに向かって振り下ろした。
大槍使いはそれを盾で受けたが、ディーノの一撃は大槍使いの体を盾ごと両断した。
真っ二つになった体から大きな赤い華が咲き、血の雨が周囲に降り注ぐ。
その圧倒的な一撃は周囲の者を動揺させるに十分であった。
「なんという……!」
サイラスはその光景に絶句した。魔法が人を吹き飛ばす様は何度も見たことがあるが、腕力で人を縦に割るなどというものを見たのはこれが初めてであった。
そんな周囲の動揺をよそに、ディーノは大槍使いの亡骸を一瞥し、心の中でその強さに敬意を表した。
(強い男だった。きっと名のある者だったのだろう)
しかし悲しいことに、彼の強さに敬意を表した者はディーノが初めてであった。この大槍使いは今までに数多くの功績をあげているが、それが国に評価されたことは一度も無かったのである。剛の者であったが、彼はただの奴隷兵であった。
◆◆◆
ディーノがクラウス達のもとに到着する頃には、部隊はダグラスに蹂躙されほぼ壊滅寸前の様相であった。
「クラウスのおっさん、助けに来たぞ!」
「おおディーノ殿!」
「ここは俺が引き受けた! おっさんは負傷者を下げて、後方で体勢を整えてくれ!」
「お一人であの二人を相手なさるおつもりか?!」
「適当に時間を稼ぐだけだ、無茶はしない!」
「承知した! 御武運を!」
クラウスとディーノは味方を援護しながら徐々に後退した。
結果、アラン隊が支えていた左翼の戦列は崩壊した。敵軍は戦列を押し上げ、投石器部隊が門に攻撃を開始した。
間もなく門は破壊され、それを見た総大将のレオンは味方に指示を出した。
「入り口の防御を固めろ! 敵を陣に侵入させるな!」
門を破壊した敵の投石器部隊は続けて外壁に攻撃を開始した。
レオンは自身の騎馬隊も門前の防衛に回るべきか悩んだが、
「我が騎馬隊は外壁を攻撃している投石器の破壊に向かう! 行くぞ!」
おそらく門前は大乱戦となる、そこでは騎馬隊の機動力を生かせないだろうとレオンは判断した。
◆◆◆
レオンの予想通り、門前の戦いは激しい乱戦となった。ディーノとクラウス達はその激戦の只中にあった。
「でやあ!」
ディーノは積極的に敵中に飛び込み槍斧を振るっていた。
「ディーノ殿、危ない!」
危機を察知したクラウスが声を上げる。しかしディーノはクラウスの声を聞くよりも早く、後方に跳躍していた。
直後、ディーノの目の前をダグラスが横切った。そしてディーノは跳躍で突撃を回避しながらもダグラスに向けて槍斧を振るった。
その一撃の狙いは今目の前を通り過ぎようとしているダグラスの背中であった。光の壁がいくら強固であっても、その守りは全身に及んでいるわけではない。
直後、槍斧を握るその手に確かな手ごたえが伝わったが、ディーノは心の中で軽く舌打ちした。ディーノの一撃はカミラの光の壁に阻まれていた。
(この女、勘がいいな。厄介だ)
カミラは常にダグラスの背を守るように立ち回っていた。
(二人を引き離すのは難しい。なら問題はどちらを狙うかだ。でかいほうは馬鹿の一つ覚えのように突っ込んでくるだけで、女のほうはそれを守っているという感じだが……)
ディーノはカミラを先に倒さない限りダグラスを討ち取るのは難しいと判断した。
(しかしあの女はそう簡単に背中を見せてはくれないだろうな)
いくらディーノでもあの光の壁を正面から破る自信は無かった。
(だが正面からは倒せないまでも、足を止めるか注意を引くくらいならできるか)
そう考えたディーノはクラウスに目配せをした。
視線が合ったクラウスは、ディーノが何かを狙っており、協力を請うていることを即座に理解した。
そして、クラウスは注意して見ていないとわからないほどの小さな頷きをディーノに返した。
それを見たディーノはカミラに突撃した。ディーノは正面からカミラに向かって行き、槍斧による一撃を放った。
当然その一撃はカミラの光の壁に止められた。しかしディーノは攻撃の手を緩めず、槍斧を何度も光の壁に叩き付けた。
ディーノはこれまで見たことが無い速度の連続攻撃を繰り出したが、それでもカミラの光の壁を突破するには至らなかった。
途中、ダグラスがディーノに突撃してきたが、それを軽く回避したディーノはダグラスのことなど眼中に無いとでも言うように、カミラへの攻撃を再開した。
ディーノの連続攻撃はカミラに威圧感を与えていた。一瞬でも光の壁を解除すれば自身の命が無くなる、その恐怖がカミラの足を止めていた。
そして、ほぼ無呼吸で連続攻撃を行っていたディーノであったが、突然攻撃の手を止めた。
鋭くかつ大きく息を吸い込む。肺に送り込んだ空気を体の力としながら、ディーノは構えを変更した。
それは槍斧を真上に掲げた上段の構え。大槍の使い手を両断したときの構えであった。
対するカミラはこの一瞬の間にただならぬ気配を感じ、ディーノの全力の攻撃が来ることを悟った。ディーノの攻撃を受け止める自信はあったが、カミラの直感はこれまでにない大きな警告を発していた。
直後、耳を潰すかのような大きな衝突音が発生し、光の壁を支えていたカミラは自身の周りの空気が揺れるのを感じた。
空気の揺らぎが鎮まる。カミラは自身の光の壁がいまだ健在であることに安堵した。
だが次の瞬間、カミラはその胸に激痛を感じた。
視線を下にやると、そこには自分の胸から突き出た血まみれの剣先があった。
「あ……」
自身の身に何が起こったのか理解したカミラは声をあげようとしたが、胸を貫かれているためか息を吸い込むこともできなかった。
そして、カミラはその口から声ではなく血を盛大に吐き散らし、弟に向かって手を伸ばしながらゆっくりと地に伏した。
「姉上ー!」
それを見たダグラスは叫び声を上げながらディーノに向かって突撃した。
ダグラスの突撃はかつてない鬼迫と勢いを持っていたが、多少勢いが増した程度ではディーノに通用するはずが無かった。ディーノはダグラスの突撃を先と同じように最小限の移動で回避し、すれ違いざまにダグラスの背中に向けて槍斧を一閃した。
ダグラスの背を守るものはもういない。ディーノの刃はダグラスの甲冑を突き破り、深々とその背に食い込んだ。
明らかに致命傷であった。が、ダグラスは倒れず、背中から血しぶきを上げながら再びディーノに向かって突撃を開始した。
地面に赤い線を作りながら走る様は皆を戦慄させたが、その勢いはそう長くは続かなかった。ダグラスの光の壁は徐々に力強さが無くなり、遂には霧散するように掻き消えた。
そして足もまた走る力を失い、ダグラスの体は前のめりに倒れた。
一つの決着を示す静寂が場を支配する。
ディーノはその静寂の中、武器を高らかに掲げ、声を上げた。
「敵将討ち取った!」
◆◆◆
二人の精鋭魔道士が倒されたのを知ったサイラスは焦りと怒りに身を震わせた。
(おのれディーノ! やってくれる!)
ダグラスの突破力が無ければ、門前の守りを抜けるのは難しい。サイラスはすぐさま号令を発した。
「門に固執するな! 壁を崩して侵入路を作れ! 投石器部隊を援護しろ!」
後方の投石器部隊は既に外壁に攻撃を行っていたが、レオンが指揮する騎馬隊によって一機、また一機と破壊されその数を徐々に減らしていた。
「投石器部隊に兵を回せ! これ以上破壊させるな!」
号令を発したサイラス自身もまた投石器の防衛に回った。しかしレオンの騎馬隊の勢いは精強で、投石器は次々と破壊されていった。
いよいよ投石器の数が残り一機となった時、その最後の投石器が放った岩が外壁を崩すことに成功した。
人がなんとか乗り越えられる程度には破壊できているのを確認したサイラスは、全軍に号令を発した。
「侵入路ができたぞ! 投石器の防衛はもういい! 全軍敵陣目指して突撃しろ!」
号令を聞いた部隊は投石器を放棄し、崩れた外壁に向かって突撃を開始した。
第五話 光る剣 に続く
一方その頃、ディーノもまた苦しい状況に立たされていた。
ディーノはアランから少し離れたところで戦っていた。親友が光の壁に蹂躙される様を遠目に見たディーノは思わず声を上げた。
「アラン!」
その瞬間の隙を突き、大槍の矛先がディーノの胸をめがけて飛んできた。
ディーノは寸でのところで身を反らしたが、大槍の矛先は僅かに触れ、ディーノの胸板を削っていった。
「余所見をする余裕があるとはなめられたものだ」
大槍の使い手はディーノが何に気を取られ焦っているのかを知りつつ、そう言った。
ディーノは今すぐにでも親友の窮地を助けに行きたかったが、先ほどからずっとここで足止めを食らっていた。
ディーノの前に立ちはだかっていたのは二人。一人はサイラス、そしてもう一人は初陣のディーノを圧倒した大槍を使うあの大男であった。
サイラスにとってこの大槍使いの存在は予期せぬ幸運であった。大槍使いはディーノの攻撃を正面から受け止める技量と体力を有していた。
負傷したアランとアンナが撤退し始めたのを見たサイラスはすかさず号令を発した。
「敵の主力が崩れたぞ! 一気に押し込め! 後列の投石器部隊も追従せよ!」
クラウス達は敵の進軍を懸命に食い止めていたが、突破されるのは時間の問題に見えた。
(くそ、これ以上ここで足止めを食らうわけにはいかねえな)
ディーノの中に焦る気持ちばかりが積もっていたが、目の前にいる二人は実際厄介であった。
大槍使いを狙えばサイラスの電撃魔法が襲いかかって来る。逆にサイラスを狙えば大槍が、というように敵はお互いをカバーしながら後の先に徹していた。
(楽に抜ける相手じゃねえ、覚悟を決めるか)
安全策で突破できる相手ではない。ディーノは賭けに出た。
ディーノは盾を正面に構え、サイラスに向かって突撃した。それを見たサイラスと大槍使いの二人は同時に迎撃体勢を取った。
ディーノはサイラスの電撃魔法の初動を見てから、サイラスに向かって盾を投げつけた。
ディーノの手から離れた直後、盾は閃光に包まれた。
ここまではディーノの予想通り、問題はこの次であった。
あの男の大槍も既にこちらに向かって突き出されているはずだ。視線をそちらに向ける余裕は無い。ディーノは自身の直感だけを頼りに、回避行動をとった。
幸運の女神はディーノに味方した。身を反らしたディーノは自身の腹に熱いものが走る感覚を覚えたが、串刺しは回避できた。
そして、回避行動と同時に槍斧を両手持ちに切り替えていたディーノは、双腕による全力の一撃を大槍使いに向かって振り下ろした。
大槍使いはそれを盾で受けたが、ディーノの一撃は大槍使いの体を盾ごと両断した。
真っ二つになった体から大きな赤い華が咲き、血の雨が周囲に降り注ぐ。
その圧倒的な一撃は周囲の者を動揺させるに十分であった。
「なんという……!」
サイラスはその光景に絶句した。魔法が人を吹き飛ばす様は何度も見たことがあるが、腕力で人を縦に割るなどというものを見たのはこれが初めてであった。
そんな周囲の動揺をよそに、ディーノは大槍使いの亡骸を一瞥し、心の中でその強さに敬意を表した。
(強い男だった。きっと名のある者だったのだろう)
しかし悲しいことに、彼の強さに敬意を表した者はディーノが初めてであった。この大槍使いは今までに数多くの功績をあげているが、それが国に評価されたことは一度も無かったのである。剛の者であったが、彼はただの奴隷兵であった。
◆◆◆
ディーノがクラウス達のもとに到着する頃には、部隊はダグラスに蹂躙されほぼ壊滅寸前の様相であった。
「クラウスのおっさん、助けに来たぞ!」
「おおディーノ殿!」
「ここは俺が引き受けた! おっさんは負傷者を下げて、後方で体勢を整えてくれ!」
「お一人であの二人を相手なさるおつもりか?!」
「適当に時間を稼ぐだけだ、無茶はしない!」
「承知した! 御武運を!」
クラウスとディーノは味方を援護しながら徐々に後退した。
結果、アラン隊が支えていた左翼の戦列は崩壊した。敵軍は戦列を押し上げ、投石器部隊が門に攻撃を開始した。
間もなく門は破壊され、それを見た総大将のレオンは味方に指示を出した。
「入り口の防御を固めろ! 敵を陣に侵入させるな!」
門を破壊した敵の投石器部隊は続けて外壁に攻撃を開始した。
レオンは自身の騎馬隊も門前の防衛に回るべきか悩んだが、
「我が騎馬隊は外壁を攻撃している投石器の破壊に向かう! 行くぞ!」
おそらく門前は大乱戦となる、そこでは騎馬隊の機動力を生かせないだろうとレオンは判断した。
◆◆◆
レオンの予想通り、門前の戦いは激しい乱戦となった。ディーノとクラウス達はその激戦の只中にあった。
「でやあ!」
ディーノは積極的に敵中に飛び込み槍斧を振るっていた。
「ディーノ殿、危ない!」
危機を察知したクラウスが声を上げる。しかしディーノはクラウスの声を聞くよりも早く、後方に跳躍していた。
直後、ディーノの目の前をダグラスが横切った。そしてディーノは跳躍で突撃を回避しながらもダグラスに向けて槍斧を振るった。
その一撃の狙いは今目の前を通り過ぎようとしているダグラスの背中であった。光の壁がいくら強固であっても、その守りは全身に及んでいるわけではない。
直後、槍斧を握るその手に確かな手ごたえが伝わったが、ディーノは心の中で軽く舌打ちした。ディーノの一撃はカミラの光の壁に阻まれていた。
(この女、勘がいいな。厄介だ)
カミラは常にダグラスの背を守るように立ち回っていた。
(二人を引き離すのは難しい。なら問題はどちらを狙うかだ。でかいほうは馬鹿の一つ覚えのように突っ込んでくるだけで、女のほうはそれを守っているという感じだが……)
ディーノはカミラを先に倒さない限りダグラスを討ち取るのは難しいと判断した。
(しかしあの女はそう簡単に背中を見せてはくれないだろうな)
いくらディーノでもあの光の壁を正面から破る自信は無かった。
(だが正面からは倒せないまでも、足を止めるか注意を引くくらいならできるか)
そう考えたディーノはクラウスに目配せをした。
視線が合ったクラウスは、ディーノが何かを狙っており、協力を請うていることを即座に理解した。
そして、クラウスは注意して見ていないとわからないほどの小さな頷きをディーノに返した。
それを見たディーノはカミラに突撃した。ディーノは正面からカミラに向かって行き、槍斧による一撃を放った。
当然その一撃はカミラの光の壁に止められた。しかしディーノは攻撃の手を緩めず、槍斧を何度も光の壁に叩き付けた。
ディーノはこれまで見たことが無い速度の連続攻撃を繰り出したが、それでもカミラの光の壁を突破するには至らなかった。
途中、ダグラスがディーノに突撃してきたが、それを軽く回避したディーノはダグラスのことなど眼中に無いとでも言うように、カミラへの攻撃を再開した。
ディーノの連続攻撃はカミラに威圧感を与えていた。一瞬でも光の壁を解除すれば自身の命が無くなる、その恐怖がカミラの足を止めていた。
そして、ほぼ無呼吸で連続攻撃を行っていたディーノであったが、突然攻撃の手を止めた。
鋭くかつ大きく息を吸い込む。肺に送り込んだ空気を体の力としながら、ディーノは構えを変更した。
それは槍斧を真上に掲げた上段の構え。大槍の使い手を両断したときの構えであった。
対するカミラはこの一瞬の間にただならぬ気配を感じ、ディーノの全力の攻撃が来ることを悟った。ディーノの攻撃を受け止める自信はあったが、カミラの直感はこれまでにない大きな警告を発していた。
直後、耳を潰すかのような大きな衝突音が発生し、光の壁を支えていたカミラは自身の周りの空気が揺れるのを感じた。
空気の揺らぎが鎮まる。カミラは自身の光の壁がいまだ健在であることに安堵した。
だが次の瞬間、カミラはその胸に激痛を感じた。
視線を下にやると、そこには自分の胸から突き出た血まみれの剣先があった。
「あ……」
自身の身に何が起こったのか理解したカミラは声をあげようとしたが、胸を貫かれているためか息を吸い込むこともできなかった。
そして、カミラはその口から声ではなく血を盛大に吐き散らし、弟に向かって手を伸ばしながらゆっくりと地に伏した。
「姉上ー!」
それを見たダグラスは叫び声を上げながらディーノに向かって突撃した。
ダグラスの突撃はかつてない鬼迫と勢いを持っていたが、多少勢いが増した程度ではディーノに通用するはずが無かった。ディーノはダグラスの突撃を先と同じように最小限の移動で回避し、すれ違いざまにダグラスの背中に向けて槍斧を一閃した。
ダグラスの背を守るものはもういない。ディーノの刃はダグラスの甲冑を突き破り、深々とその背に食い込んだ。
明らかに致命傷であった。が、ダグラスは倒れず、背中から血しぶきを上げながら再びディーノに向かって突撃を開始した。
地面に赤い線を作りながら走る様は皆を戦慄させたが、その勢いはそう長くは続かなかった。ダグラスの光の壁は徐々に力強さが無くなり、遂には霧散するように掻き消えた。
そして足もまた走る力を失い、ダグラスの体は前のめりに倒れた。
一つの決着を示す静寂が場を支配する。
ディーノはその静寂の中、武器を高らかに掲げ、声を上げた。
「敵将討ち取った!」
◆◆◆
二人の精鋭魔道士が倒されたのを知ったサイラスは焦りと怒りに身を震わせた。
(おのれディーノ! やってくれる!)
ダグラスの突破力が無ければ、門前の守りを抜けるのは難しい。サイラスはすぐさま号令を発した。
「門に固執するな! 壁を崩して侵入路を作れ! 投石器部隊を援護しろ!」
後方の投石器部隊は既に外壁に攻撃を行っていたが、レオンが指揮する騎馬隊によって一機、また一機と破壊されその数を徐々に減らしていた。
「投石器部隊に兵を回せ! これ以上破壊させるな!」
号令を発したサイラス自身もまた投石器の防衛に回った。しかしレオンの騎馬隊の勢いは精強で、投石器は次々と破壊されていった。
いよいよ投石器の数が残り一機となった時、その最後の投石器が放った岩が外壁を崩すことに成功した。
人がなんとか乗り越えられる程度には破壊できているのを確認したサイラスは、全軍に号令を発した。
「侵入路ができたぞ! 投石器の防衛はもういい! 全軍敵陣目指して突撃しろ!」
号令を聞いた部隊は投石器を放棄し、崩れた外壁に向かって突撃を開始した。
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