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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

エピローグ(2)

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   ◆◆◆

 ルイスが街を出ると、

“ルイス”

 と、外で待っていたナチャの呼び声が頭上から頭の中に響いた。
 見上げると、雲に擬態して空に浮かんでいたナチャが降りてきているのが見えた。
 人の形に変わりながらルイスの隣に降り立つ。
 そしてナチャはルイスに尋ねた。

“それで、そっちの用事はもう終わったのかい?”

 ルイスは「ああ」と答え、続けて尋ねた。

「お前のほうはどうなんだ? なにか良いことを思いついたとか言ってたが」

 ナチャはその話題を振られるのを待っていたらしく、うれしそうな表情で答えた。

“うん。ここでやるべきことは終わったよ”

 そのもったいぶった言い回しに、ルイスは乗ってやることにした。

「ここでの用事は、ということは、他の街でもやることがあるということか? お前が思いついたその『良いこと』っていうのはなんなんだ? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」

 ナチャは少し“そうだねぇ~。どうしようかなあ”と、もったいぶる素振りを見せたあと、楽しそうに声を響かせた。

“じゃあ特別に教えてあげるよ。僕は今回の戦いで思ったんだ。アリスのような神様がもっとたくさん必要だと”

 その言い回しに疑問をもったルイスは尋ねた。
 
「アリスのような? アリスじゃダメなのか?」

 ナチャは答えた。

“アリスの考え方はキライじゃないけど、彼女は甘すぎる気がする。人間にも悪いやつはいるし、神様を利用しようって考えるやつもいる。だから僕はアリスをベースにした精霊を増やすんじゃなくて、『良い人間を土地の守り神に』しようと思ってるんだ”

 それは悪くない考えだと思えた。
 だからルイスは素直に称賛した。

「お前にしては悪くない考えだと思うだぞ。しかし『良い人間』というのは難しいな。求められる必要条件はなんだ?」

 称賛のついでに尋ねられたその問いに、ナチャは迷い無く即答した。

“まず強いこと。考え方などの心も含めてだ。精神面も含めて、そこらの悪人に負けるようでは話にならない”

 これには異論は無く、ルイスは「ふむ」と続きを促した。
 だからナチャは言葉を続けた。

“次に、善悪の両方をよく知っていること。まあ、これは感知能力者なら大抵の人間が満たす条件だ。だからそれに加えて、善悪を知った上で正しく振舞えたこと。この二つが外せない条件だ”

 これには疑問が生まれた。だからルイスは口を挟んだ。

「『正しく』……か。それも今の複雑に荒れた世の中では難しいな。状況次第では選択肢が限られているやつだっているぞ? 正しい選択肢の代価が命になってしまっているやつだっている」

 だが、ルイスがそのような疑問を抱くことをナチャは予想できていた。すでに考えられていた。
 だからナチャは再び即答することができた。

“もちろんそれもよくわかってるよ。善人でありたいのに、心の中で涙を流しながら悪いことをするやつだっている。そんな風に追い詰められた人間は何人も知ってる。だから心の中で葛藤してくれていればそれでいい”

 これに、ルイスは再び「ふむ」と言いながらアゴに手を当て、少し考えた。
 思考を重ねても、やはり結論は変わらなかった。
 だからルイスは再び素直にそれを声に出した。

「……そうか。いいんじゃないか。タダで手伝ってやってもいい、そう思えるくらい良い考えだと思うぞ。海にも守り神を置けば、漁師も不安無く安全に仕事ができるだろうしな」

 これに、ナチャは「ぱあ」っと表情を明るくし、その表情にふさわしい声色でまくしたてるようにしゃべりだした。

“本当に!? 良かった!いっぱいダメ出しされるんじゃないかと不安だったんだ! 手伝ってくれるって言ったよね? 実は、もうだいぶ先まで計画は立ててあるんだ。まず一人目の守り神はね――”

 ナチャの話は長く、日が暮れるまで聞かされることになったのであった。
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