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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(30)
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この勝機のイメージは最初からあった。
小さな精霊ヘルハルトに大きな損害を与えることは難しい。
しかし大きくすると回避が不可能になる。
だから合体と分離が素早くできるように設計した。
さらに合体した上で同時攻撃をしかける必要がある。散発的な攻撃ではダメだ。
だが、それを実現するにはそれ相応の隙が、すなわち好機が必要。
その好機がいま訪れていた。最初に描いた勝利のイメージとそっくりだった。
だからデュランと戦士達はそのイメージの通りに動いていた。
先頭を走るデュランに戦士達が集まり、合体していく。
まだらな銀色の背景の中では、戦士達の姿は白い影絵のように浮き上がっていた。
人の形をした白い影が走り、デュランのもとに駆け寄っていくその様は、まるで同じ動きをする影が追い付いてきたかのようであった。
そして集まるごとにデュランの影は大きくなっていった。
前方からの光が強まり、影が伸び広がったかのように。
それは集まってきた戦士達の合体した影であったが、デュランと同じ動きをしているゆえにそう見えた。
直後にそれは影らしさを失った。デュランと違う動きを始めた。
その両手から一本ずつ大剣が伸び生える。
次の動きはデュランと似ていた。
デュランが大剣を右下に構えたのに合わせ、影の巨人も二刀を左右に開いた形の下段に構える。
そしてデュランと影の巨人はその構えのまま一気にヘルハルトに密着し、
“「シィィヤアアアァァッ!」”
同じ気勢を響かせながら振り上げた。
デュランの太刀筋が真上への一本線であったのに対し、影の巨人のそれは斜め上に交差させる×の字であった。
三つの太刀筋がヘルハルトの体を引き裂きながら一点で交わる。
魔力で描かれたその太刀筋は、瞬く間に交差点から歪んで嵐に。
光の濁流が傷口を押し広げ、やわらかな内部をむきだしにする。
そしてデュランはその体内にもぐりこもうとするかのように踏み込んだ。
すべての精霊力と魔法力をこの傷口に叩きこむ! そんな思いが響いていた。
対し、影の巨人の動きは違った。
五体の大男に分離し、それぞれが左右、斜め上、真上に飛び出す。
五方向に飛び出した戦士達はすぐに向きを反転し、デュランのもとに戻る動きに変えた。
勝機に叩きこむ技のイメージも最初にできていた。
だからあの防御ができた。星の形を組む魔法陣が。
しかしこれから作るのは盾では無い。
されど描くのは星であることは変わらず。
五人の戦士達はあの時と同じように、魔力を帯びて輝く大剣を構えながら五方向から集結。
その動きに合わせて、デュランは水平に構え直した大剣を突き出した。
まっすぐに突き出されたその剣先の一点を五角形の重心と定め、集まってきた戦士達は大剣を走らせた。
五本のまっすぐな剣閃がデュランの大剣の剣先で一点に交差する。
あとはその一点に剣先を深くねじこむだけ。体当たりするように踏み込むだけ。
その最後の一動作を、デュランは叫びながら繰り出した。
「まき散らせ!」
その叫びと共に剣先が交差点にねじこまれる。
そしてデュランは感じ取った。
すさまじい力が収束しているのを。びりびりと伝わってくる。
その手に伝わる振動は間も無く大剣がきしむ警告音に変わった。
このままだと耐えられない。このままだと剣は爆発するように砕ける。
しかしそれでいいと思った。
ここでありったけ、全部出し切る、そう思った。
その思いに、戦士達の心は震えていた。
そして星の形と共に繰り出されるこの技はあまりにも美しく思えた。
だから戦士達は名づけるべきだと思った。
だから五人の戦士達は声をそろえてその名を叫んだ。
“““フローレス・アル・ヴィセラ!!”””
白き内臓の花、という意味を与えられたその技は、その名を体現するために解き放たれた。
デュランの大剣が中ほど折れ砕け、銀色を押し返すほどの激しい光があふれだす。
光は戦士達が描いた五本の剣閃を、星を捻じ曲げながら取り込み、より眩しく膨らんでいった。
膨張する光は間も無く渦を描き始め、真横に回転する竜巻となった。
白い竜巻がヘルハルトのはらわたをえぐりながらまき散らしていく。
そして竜巻がヘルハルトの背中を突き抜けた直後、デュランの視界は白く包まれた。
それがヘルハルトの体内からあふれたものなのか、それとも砕けた剣から生まれた嵐が自分を飲み込もうとしているのか、それはもうわからなかった。
だが、デュランは静かに目を閉じ、その光を受け入れた。
小さな精霊ヘルハルトに大きな損害を与えることは難しい。
しかし大きくすると回避が不可能になる。
だから合体と分離が素早くできるように設計した。
さらに合体した上で同時攻撃をしかける必要がある。散発的な攻撃ではダメだ。
だが、それを実現するにはそれ相応の隙が、すなわち好機が必要。
その好機がいま訪れていた。最初に描いた勝利のイメージとそっくりだった。
だからデュランと戦士達はそのイメージの通りに動いていた。
先頭を走るデュランに戦士達が集まり、合体していく。
まだらな銀色の背景の中では、戦士達の姿は白い影絵のように浮き上がっていた。
人の形をした白い影が走り、デュランのもとに駆け寄っていくその様は、まるで同じ動きをする影が追い付いてきたかのようであった。
そして集まるごとにデュランの影は大きくなっていった。
前方からの光が強まり、影が伸び広がったかのように。
それは集まってきた戦士達の合体した影であったが、デュランと同じ動きをしているゆえにそう見えた。
直後にそれは影らしさを失った。デュランと違う動きを始めた。
その両手から一本ずつ大剣が伸び生える。
次の動きはデュランと似ていた。
デュランが大剣を右下に構えたのに合わせ、影の巨人も二刀を左右に開いた形の下段に構える。
そしてデュランと影の巨人はその構えのまま一気にヘルハルトに密着し、
“「シィィヤアアアァァッ!」”
同じ気勢を響かせながら振り上げた。
デュランの太刀筋が真上への一本線であったのに対し、影の巨人のそれは斜め上に交差させる×の字であった。
三つの太刀筋がヘルハルトの体を引き裂きながら一点で交わる。
魔力で描かれたその太刀筋は、瞬く間に交差点から歪んで嵐に。
光の濁流が傷口を押し広げ、やわらかな内部をむきだしにする。
そしてデュランはその体内にもぐりこもうとするかのように踏み込んだ。
すべての精霊力と魔法力をこの傷口に叩きこむ! そんな思いが響いていた。
対し、影の巨人の動きは違った。
五体の大男に分離し、それぞれが左右、斜め上、真上に飛び出す。
五方向に飛び出した戦士達はすぐに向きを反転し、デュランのもとに戻る動きに変えた。
勝機に叩きこむ技のイメージも最初にできていた。
だからあの防御ができた。星の形を組む魔法陣が。
しかしこれから作るのは盾では無い。
されど描くのは星であることは変わらず。
五人の戦士達はあの時と同じように、魔力を帯びて輝く大剣を構えながら五方向から集結。
その動きに合わせて、デュランは水平に構え直した大剣を突き出した。
まっすぐに突き出されたその剣先の一点を五角形の重心と定め、集まってきた戦士達は大剣を走らせた。
五本のまっすぐな剣閃がデュランの大剣の剣先で一点に交差する。
あとはその一点に剣先を深くねじこむだけ。体当たりするように踏み込むだけ。
その最後の一動作を、デュランは叫びながら繰り出した。
「まき散らせ!」
その叫びと共に剣先が交差点にねじこまれる。
そしてデュランは感じ取った。
すさまじい力が収束しているのを。びりびりと伝わってくる。
その手に伝わる振動は間も無く大剣がきしむ警告音に変わった。
このままだと耐えられない。このままだと剣は爆発するように砕ける。
しかしそれでいいと思った。
ここでありったけ、全部出し切る、そう思った。
その思いに、戦士達の心は震えていた。
そして星の形と共に繰り出されるこの技はあまりにも美しく思えた。
だから戦士達は名づけるべきだと思った。
だから五人の戦士達は声をそろえてその名を叫んだ。
“““フローレス・アル・ヴィセラ!!”””
白き内臓の花、という意味を与えられたその技は、その名を体現するために解き放たれた。
デュランの大剣が中ほど折れ砕け、銀色を押し返すほどの激しい光があふれだす。
光は戦士達が描いた五本の剣閃を、星を捻じ曲げながら取り込み、より眩しく膨らんでいった。
膨張する光は間も無く渦を描き始め、真横に回転する竜巻となった。
白い竜巻がヘルハルトのはらわたをえぐりながらまき散らしていく。
そして竜巻がヘルハルトの背中を突き抜けた直後、デュランの視界は白く包まれた。
それがヘルハルトの体内からあふれたものなのか、それとも砕けた剣から生まれた嵐が自分を飲み込もうとしているのか、それはもうわからなかった。
だが、デュランは静かに目を閉じ、その光を受け入れた。
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