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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

最終話 主が戻る 人よ思い出せ 古き恐れを(29)

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 鋭利に振り下ろされた触腕を大男となった精霊が大剣で受ける。
 二つの刃が白い火花と雷を散らす。 
 しかしそのせめぎ合いはすぐに触腕の勝利に終わった。
 大剣がへし折れ、大男の体が両断される。
 だが問題は無かった。それで役目を果たしていた。
 せめぎ合いで稼いだわずかな時間で、デュランは安全な位置まで走り抜けていた。
 さらに両断されたにもかかわらず被害も軽微であった。
 両断された大男の体は九人の戦士に分離し、再びデュランのそばに飛び寄った。
 協力してヘルハルトの攻撃をしのぎつつ一丸となって進む。
 それに対しヘルハルトの攻撃が何度も叩きつけられるが、止まる気配も崩れる気配も無い。
 だからヘルハルトは思った。
 これでは駄目だ。この攻撃では天使と連携を取っても止められない、と。
 やつらを止めるにはもっとこう――大雑把であっても、大きな攻撃がいる、と。
 ヘルハルトのその思考は強い殺意と共に形になっていった。
 体を削ってさらに触腕を増やす。
 殺意そのものが体内から伸び生えたかのように、それらは禍々しい形をしていた。
 ノコギリのようにギザギザでトゲトゲしい。
 数も多い。ヘルハルト自身の巨体を繭のように包み込めそうなほどの数と長さ。
 それらから放たれる殺気に対し、デュランの本能は叫んだ。
 これは危険――うしろに跳ばないと死ぬ! と。
 が、
 
(いや、違う!) 
 
 この死の先に勝機がある! と、デュランの理性は叫び返した。
 叫びながらデュランは殺気に向かって正面から突っ込んだ。
 そして殺気は、おびただしい数の触腕は動き始めた。
 デュラン達を丸く包み込むように、近づいてくる蟻の群れを両手で押さえつけようとするように、触腕はデュラン達に迫った。
 隙間は少ない。それも狭まってきている。
 だが、一点だけ変わらない抜け道があった。
 それは真正面。ヘルハルトの真下。
 触腕に包み潰される前にふところに飛び込めばいいのだ。そこまではこの触腕は小回りがきかない。
 ならばこれは純粋な速さ勝負。
 そのことに気付いたデュランは盾を投げ捨てた。
 軽くなったことで視界が加速する。
 が、その速さをもってしても触腕は振り切れず、浸食するように視界の隅に映り込み始めた。
 視界が触腕で埋め尽くされたら終わり。
 この速さ比べはきわどい勝負に見えた。
 みるみるうちに視界が触腕に覆われ、ヘルハルトの姿が小さくなっていく。
 滑り込めばぎりぎりで――いや、これは――

「っ!」
 
 間に合わない、その言葉が脳裏に浮かぶ直前、「問題無い」「我々が時間を稼ぐ」と、戦士達の声が響いた。
 その声と共に数十人の戦士達がデュランの真横に並ぶ。
 合体し、大男が左右に二人ずつ並び立つ。
 そして大男は足を止め、触腕に両手を叩きつけて受け止めた。
 だが差は歴然。
 あっという間に押し込まれ、触腕にはさみ潰される。
 だが、彼らが稼いだ時間によって、他の戦士達とデュランはぎりぎりで死地を走り抜けることができた。
 ヘルハルトはもう目の前。
 そして障害は何も無い。先の攻撃でヘルハルトはすべての手数を一気に使ったからだ。
 だから、

「今だ!」

 ここだ! ここが勝機! この勝機を逃せば勝ち目は無い! と、デュランは叫んだ。
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